CNET Japan主催「不動産テックオンラインカンファレンス2022 スマートな住まいや街がもたらす暮らしのイノベーション」の9月2日のセッションに、「不動産オープンID」を運用する不動産テック協会が登場。代表理事でライナフ 代表取締役の滝沢潔氏、理事でハッチ・ワーク 代表取締役社長の増田知平氏、ゲストのOpen Street 取締役の佐藤壮氏の3名が、スマートシティを視野に入れた不動産情報活用の未来について語った。
不動産テック協会は、不動産とテクノロジーの融合を掲げ、不動産×ITを推進するために行政への提言や調査、関連団体との連携などの活動をしている業界団体で、現在約120社が入会している。具体的な活動として、これまで「不動産共通ID」として運用してきた「不動産オープンID」の運用、ビジネスマッチング、Fintechとの連携、業界カオスマップの作成などを行っている。
今回のテーマである不動産オープンID作成の背景にあるのが、業界が抱える情報連携の非効率問題である。情報がサイロ化しているため、昨今不動産領域のDXサービスが次々に登場しているにも関わらず、現場としてはどんどん増えるサービスに対応するために“DX疲れ”が発生していると滝沢氏は指摘する。「不動産の業務フローそれぞれに対してバラバラにDXサービスがあるので、色々なサービスにログインして、1つのデータが決まったら別のデータを書き換えてという形で、作業が効率化したようなしていないような状況にある」のだという。
サービス間を連動させるためには、物件の住所を使って名寄せをしていく必要があるが、不動産会社ごとに住所表記がバラバラであるために、名寄せの作業だけで2-3か月かかってしまうとのこと。また不動産の売買においても、役所の窓口に赴いて紙で申請し、データを貰う作業を繰り返すので、調査業務だけで15.5時間もかかっているという。「不動産を軸とした様々なデータがバラバラになっている状態だと、いつまでも不動産テックが推進されない。マイナンバーのように不動産に対してもIDがないと連携が難しい」と、滝沢氏は不動産オープンIDの必要性を説明する。
住所そのものがIDになりそうなものだが、日本語の文字を使うと、同じ読みの漢字にたくさんの表記があるほか、カタカナの「ニ」や「ハ」と漢数字の「二」や「八」など、ヒューマンエラー以外にもOCRが判別しづらいようなケースが多発する。他にも、建物名や住所表記時に数字、漢数字、ローマ数字や丁目、番地、号とハイフンなどが混在する。つまり、同一の住所と認識するためには、アルファベットと数字を使ったIDを新たに振るしかないのである。
それによって開発されたのが不動産オープンIDである。データを連動させることによって、デベロッパーが建物を建てた際の情報をそのまま銀行が取得したり、管理会社が管理に使えたり、管理会社が持っている機密情報を販売時に使えたりするようになって不動産テックが進んでいく」(滝沢氏)ことが期待される。
不動産オープンIDのほかにも、同様な理由から国土交通省も「不動産ID」の策定を進めている。ただし不動産IDは、「登記簿謄本の数字を基にしているので、そのIDを取るためには謄本を取らないといけない。そのための必要調査時間は30分くらいかかるうえ、1件あたり500円位の手数料がかかるので浸透していない」(滝沢氏)のだという。
その点、不動産オープンIDは無償で取得できる。あくまでオープンなものであって、滝沢氏自身も国交省の不動産IDルール作成の検討会メンバーであり、将来的に不動産IDが成功すれば、不動産オープンIDもそちらに統合していく方針とのことである。
この仕組みを活用した連携サービスとしては、配送会社のサービスとスマートロックを連携させた置き配サービスがあるという。配送会社がECなどで入力したバラバラの表記の住所に対して、不動産オープンIDを使って「この建物の鍵が欲しい」とスマートロックの会社にオーダーすると、判別してスマートロック用の一時的なデジタルキーを配送会社に配布する。それによって、配達員がマンションのオートロックエントランスを開け、玄関の前に置き配をするという仕組みになっている。
そのサービスの中では、滝沢が率いるライナフが「NinjaLock」というスマートロックを提供している。不動産オープンIDの活用によって置き配と置き集荷のサービスを展開できるようになったが、同社が次のステップとして考えているのは、ロボットでの自動配送である。ただしそのためには館内の地図や段差、エレベーターといった建物データの情報が必要で、それらのデータを持っているゼネコンやデベロッパーと情報連携をするためにも、不動産オープンIDが必要になってくるという。
ここから3者の話題は、イベントのテーマである「スマートな住まいや街」へと広がっていく。滝沢氏は、「ロボットが自動走行できるという世界観は、スマートシティの概念を網羅している」との見解を示す。つまり、不動産オープンIDも突き詰めると、スマートシティというさらに大きな枠組みと繋がっているのである。
国内でのスマートシティ推進に当たっては、MaaS(Mobility as a Services)カテゴリーが目立っているが、MaaSを実現するにあたって移動手段してのモビリティと共に欠かせないのがスマートパーキング領域である。増田氏が代表を務めるハッチ・ワークは、月極駐車場のDXを推進する事業を展開。増田氏曰く、「我々が描く月極駐車場の未来像はスマートシティの一歩手前位の話」となるが、その先では自動車業界の大変革や、現在取り組みが進むMaaS領域に紐づいている。
国内で2035年には新車がEV車となり、自動車自体の立ち位置もマルチモーダル交通体系における1ピースに代わっていくとされるなかで、月極駐車場に求められる機能や役割も変わってくる。そこで同社はパートナーと連携し、駐車場の一部を新しい乗り物のステーションにすることで住宅街のラストワンマイルの移動に使ってもらう「マイクロモビリティステーション」としての利用や、駐車場にキャンピングカーを置いてテレワーク用のオフィスとして使う「モバイルオフィスステーション」として、駐車場の新たな活用を模索している。
さらに、MaaSを視野に入れたリアルタイムデータを活用した駐車場の新しい使い方として、「ステーション・スペース」の実証実験を行っている。「移動のためには必ずステーション・スペースが必要。月極駐車場が使われていない時間帯や空いている駐車スペースをスマートフォンで短時間の予約ができる一時利用のシェアリングステーション、そこから一歩進んでレンタカーの乗り捨てができるステーションとしての活用を考えている」(増田氏)という。
スマートシティの世界観での月極駐車場は、電源供給を含めた“ステーション”としての活用が期待されている。そして実証実験のパートナーの1社が、駐車スペースシェアサービス「BLUU」を提供するOpen Streetである。同社はそのほかに、国内トップシェアの「ハローサイクリング」という自転車シェアサービスと、スクーター・小型EV車のシェアリングサービス「HELLO MOBILITY」を展開。「それらを掛け合わせてスマートシティやゼロカーボンシティの街づくりへの貢献に注力している」と佐藤氏は説明する。
同社は自転車やモビリティのシェアを中心に、今後はスマートシティ化や、車やカーシェア、タクシー・電車という交通インフラとの連携、エネルギーマネジメントにも着手していくという構想を描いている。
スマートシティ事業の一環として同社は、スマートシティ向けにアップデートされた「マルチモビリティステーション」の普及を目指している。自転車、スクーター、小型EVとモビリティが全て1つの場所にあり、それらにチャージするエネルギーは再生可能エネルギーである太陽光発電で賄うため、脱酸素にも繋がる。現在約90の自治体と提携し、それらの電動モビリティを災害時の外部充電機能として活用する取り組みも行っているという。
後半の質問コーナーでは、改めてそれぞれがスマートシティの定義について回答した。冒頭で滝沢氏はロボットが自動走行できる世界観と述べたが、同氏は「スマートシティといったときに、みんなの頭に浮かぶものがばらばら。行政も含めて、あれもこれも全部できたらいいという夢だけを語る世界になっている」と指摘。
増田氏は、「今まで駅が起点だったサービスがだんだん手元に来るというのがひとつのイメージ」と回答。「そのために駐車場というスペースは欠かせない。今までアナログだったところをデジタル化することでスマートシティの一翼を担いたい」と述べた。
また佐藤氏は、「全体最適化が大事。不動産業界にとっては、不動産の“不”というところをいかに“動産”化していくかが重要なテーマなのではないか」と問題を提起。その上で、「ハッチ・ワークのいいところは、DX化してかつ他の使い道に生かしていけるという発想があるので、不動産だった月極駐車場を動産化しようとしている。そういった考え方が、不動産業界のみなさんにとって生まれてくると、“スマートシティ=最適化”という部分にアジャストできる街づくりができると考えている」と見解を語った。
また不動産オープンIDに関しても、参加者から多くの質問が寄せられた。その中で不動産オープンIDと各社のサービスの関連性については、「例えば電動モビリティを利用する際には充電が必要で、そのためには他社のサービスと連動していたほうが良い。その際にお互いのサービスや周辺サービスを連動させるため、不動産オープンIDが必要になる」(滝沢氏)と説明した。
「不動産オープンIDに関しては、不動産テック協会のオンラインイベントで話をしていて、ビジネスマッチング部会ではリアルの場でのマッチングイベントも開催している。非会員でもイベントに参加できるようになっていて、現場で質問してもらえると事業への発展性も生まれるので、是非参加して欲しい」(滝沢氏)
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