「PlayStation VR2」(PSVR2)は軽い。驚くほど軽い。先日、いまだ入手困難な「PlayStation 5」(PS5)用にソニーが発売を予定している没入型ヘッドセットPSVR2を体験してきた。第一印象は、人気のヘッドセット「Meta Quest 2」と比べて、ほとんど重さを感じない、という点だった。
次の発見は、しばらくしてからやってきた。新作仮想現実(VR)ゲーム「Horizon Call of the Mountain」の世界に入った時のことだ。木漏れ日を浴びながら、舟で川を下っていく。頭上を、ブラキオサウルスと見まがう巨大な機械獣トールネックがどすどすと歩いて行く。垂れ下がる植物を手でかき分けながら前に進む。手が植物に当たる感触が、かすかに伝わってくる。「PlayStation VR2 Senseコントローラー」のハプティック(触覚)機能が生み出す振動はとても繊細で、認識できない時さえあるが、トールネックのうなり声は手だけでなく、頭の周囲からも響いてくる。PSVR2は、頭部にも振動が伝わるようになっているのだ。
米カリフォルニア州サンマテオにあり、PlayStationの開発を手掛けるソニー・インタラクティブエンタテインメントで、この新型ヘッドセットを1日かけて体験してきた。1年間、首を長くして待ってきた日だ。
初代の「PlayStation VR」(PSVR)は、「HTC Vive」や「Oculus Rift」と共に、2016年にデビューした。来る2023年は、Metaが(2022年内に登場するとうわさされるProモデルに続き)コンシューマー向けヘッドセットを新たに投入し、Appleも待望のヘッドセットを発売するとみられており、VR市場にとっては大きな動きのある年となりそうだ。すでにPS5を持っているなら、PSVR2は有力な候補となるだろう。
PSVR2については、「2023年初頭」の発売ということ以外、具体的な発売日も、価格も、同時に発売されるゲームのラインアップも分かっていない。今回はPSVR2を装着し、1日がかりで4つのゲームをプレイしてきたが、まさに感動の連続だった。
PSVR2は、Quest 2のような単体で使えるオールインワン型のヘッドセットではなく、USB Type-CケーブルでPS5と接続する必要がある。この点で敬遠する人がいるかもしれないが、これはPCでVRゲームを遊ぶ際にはよくあることだ。むしろ、ケーブル1本でつながるシンプルさは、PSVRに付属していた、あのかさばるブレイクアウトボックスと比べればはるかに単純だ。追加のトラッキングカメラも必要ない。PSVR2には4つのカメラが内蔵されており、ケーブルの長さが足りていれば、室内を歩き回ることも可能だ。Quest 2と同様に、ヘッドセット内のディスプレイに周囲の映像を白黒で映し出すパススルー機能も備えている。
PSVR2はサンバイザーのようなデザインをしており、PSVRと同様に、ボタンで頭の前後をフィットさせ、背面の小さなダイヤルで締め付けを調整する仕組みになっている。ディスプレイの周囲は、光を遮るように弾力性のあるシールドで覆われている。筆者が使っている幅広のメガネはQuest 2にはうまくフィットしないが、PSVR2は問題なく装着できた。
有機ELディスプレイの視野角は110度でQuest 2よりも広い。内側から外を眺めた時も、船の円窓から外をのぞいているような感覚はない。ディスプレイも鮮やかだ。黒はしっかり深い黒色で表現され、HDR効果により、明るい日差しと日陰部分のコントラストも鮮明だ。ゲーム内のオブジェクトやテクスチャーも驚くほど精細に表現されている。ディスプレイの解像度は片眼あたり2000×2040ピクセルとなっており、Quest 2を上回る。しかも、PS5自体のグラフィック性能が非常に高い。
PSVR2は、視線トラッキングを利用したフォビエートレンダリングを採用している。フォビエートレンダリングとは、中心視野ほど高解像度に、そして視野の外側にいくに従い低解像度で描画する技術だ。これは人間の目の動きをある程度再現したもので、プロセッサーにかかる負荷を減らしてグラフィックス性能を高めている。ゲームのグラフィックの美しさには本当に圧倒された。
ソニーは、PSVRからわずか6年で、本物と呼ぶべきVRコントローラーを開発してみせた。今のところ、PSVR2は筆者が最も気に入っているVRコントローラーだ。
2016年に発売されたPSVRは、アナログスティックがなく、他社のVR製品と比べると古くさい印象さえあった「PlayStation Moveモーションコントローラー」の技術を応用したものだった。それに対してPSVR2のSenseコントローラーは、「Oculus Touch」などの比較的新しい入力デバイスのデザインを取り入れている。Senseの左右のコントローラーにはそれぞれアナログスティックと2つのボタンが配置され、Quest 2のコントローラーと比べるとコンパクトにまとまっている。左右のコントローラーにはさらにトリガーがあり、その下にグリップボタンが配置されている。
コントローラー自体も軽く感じる。デザインの一部となっているリングは手をすっぽり覆うほど大きく、コントローラーを握ると、こぶしの周囲に浮いているように感じる。グリップは握ったり、放したりできる。Quest 2のコントローラーは3本の指で操作するが、Senseコントローラーは手全体を使うため、「Valve Indexコントローラー」(別名ナックルコントローラー)のようにも感じられる。武器を持ったり、崖を登ったりする時の感触は非常にリアルだ。
しかし、なんと言っても最大のポイントはハプティック技術だろう。この技術は、PS5用ワイヤレスコントローラー「DualSense」にも採用されており、軽いタップやさざ波のように広がる揺れなど、Quest 2コントローラーの単調な振動と比べると、はるかに高度でリアリティのある振動を体感できる。トリガー部分を押し込むと抵抗を感じるが、これもDualSenseのアダプティブトリガー技術を応用したものだ。VR対応ゲーム「Star Wars: Tales From the Galaxy's Edge」では、使う武器の特性により、トリガーを押し込んだ時にすぐ抵抗を感じる場合と、あまり抵抗なく押し込める場合がある。トリガーやハプティックによる反動も感じる。例えば、岩棚をつかむと滑るような感覚や、ゴツゴツとした感覚が手に伝わってくる。今回、さまざまなVRゲームをプレイすることで、VRハプティックの未来や方向性を感じることができた。
PSVR2はUSB Type-CケーブルでPS5とつなぐ必要がある。これは残念な点ではあるが、PCを利用したVRゲームでも同じような問題はある。それに、つながなければならないケーブルは1本だけだ。アクションが多いゲームだと、動き回っているうちにケーブルが身体に巻きついてしまうことがあるが、許容範囲だ。
ヘッドセットやコントローラーをトラッキングできなくなることも何度かあった。これは筆者が使ったヘッドセットが開発初期のものだったからかもしれないし、プレイ中はカメラマンが筆者のすぐそばにいたので、ヘッドセットに内蔵されたトラッキングカメラが狂ってしまったのかもしれない。いずれにしてもトラッキングのエラーは問題だ。
この日、プレイしたゲームの中には、視線トラッキングを独自の方法で活用したものはなかった。これは少々意外だったが、筆者がプレイしたゲームはどれも視線トラッキングに対応していないVRプラットフォームから移植されたものだったからかもしれない。PSVR2は、視線トラッキング機能を搭載した初のメインストリームのヘッドセットだが、視線トラッキングに対応したヘッドセットが今後続々と登場する可能性はある。
視線トラッキングがゲームの操作性を高め、いずれ頭やコントローラーを動かさなくても、視線だけで狙いを定められるようになるかもしれない。キャラクターと視線を合わせられるようになれば、ドラマチックな親密さが生まれる。また、プレイヤーが見たものをヒートマップで記録し、プレイヤーが見ていない場所に基づいてアイデアやヒントをくれるゲームが登場するかもしれない。
体験会の会場にいた開発者たちは、こうしたアイデアに大いに興味を示してくれた。視線トラッキングがVR/拡張現実(AR)で広く活用されるようになれば、対応するゲームも増えるだろう。しかし、そのインパクトがどれほどのものかはまだ分からない。
PSVR2については、正式な価格も、発売日も、同時に発売されるゲームのラインアップもまだ発表されていない。PSVR2はスタンドアロン型のヘッドセットではないが、筆者がPlayStationで体験したかったVR体験を実現できることは確かだ。新しいコントローラー、改良され進化したハプティック技術とトリガーだけを考えても、PSVR2はゲームの世界に新たな地平を開くものとなるだろう。個人的にはQuest 2よりも、軽量で視野が広く、解像度が高く、有機ELディスプレイを搭載したPSVR2を推す。現在手に入るオールインワン型のVRシステムとしては、今もQuest 2が最高の選択肢だが、PSVR2向けの完全新作VRゲームが増えていけば、PSVR2が高い人気を博す可能性は十分にある。
もっと遊びたい――今の気分はこれに尽きる。カリフォルニア州で楽しい週末を過ごし、自宅に帰った私を待っていたのは、デスクの上で山を作っているPSVRのケーブル類だった。古くて重いヘッドセット、一昔前のコントローラー。蘇る体験会での記憶。PSVR2のすごさを改めて感じた一瞬だった。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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