急速に進む円安により、日本での新しい「iPhone 14」シリーズの価格が高くなってしまったことが話題となっているが、円安による影響は価格の高騰だけでなく、海外の組織的手な「転売ヤー」による買い占めという別の問題につながりかねない。ここ最近のスマートフォン激安販売の復活により、携帯電話業界でも問題視されるようになった転売ヤーだが、その影響はより深刻なものになる可能性がありそうだ。
2022年、とりわけロシアによるウクライナへの侵攻が始まって以降、為替の変動が非常に激しくなっており、世界的なドル高の影響を受けて大幅な円安が進行。年初時点では1ドル当たり110円台であったのが、執筆時点では140円台と、1年に満たない間に30円もの円安となっている。
その影響が大きく出ているのは輸入品の価格高騰であり、2022年に入ってあらゆるモノの価格が値上がりしている状況なのだが、IT製品、とりわけ日本で人気の高いiPhoneもその例外ではない。急速な円安の進行を受ける形で、アップルは2022年7月に既存のiPhoneの価格を大幅に値上げしたのだが、日本時間の2022年9月8日に発表された新しい「iPhone 14」シリーズも、やはり前年の「iPhone 13」シリーズと比べ大幅に値段が上がっており落胆する人も少なくなかったようだ。
だが円安がもたらす問題は製品の値上げだけではない。主要通貨の中でもとりわけ円は大幅に安くなっているため、他の国の人々からしてみれば日本で販売されている製品は相対的に安くなっている。そこで懸念されるのがいわゆる「転売ヤー」だ。
なぜなら相対的に価格が安くなった日本でiPhoneを買い、海外に転売することで利益を得ようとする動きが活発になる可能性があるからだ。近年は組織的な転売ヤーが店舗に人を大量に並ばせて人気商品を買い占めてしまうことが社会問題となっているだけに、iPhone 14シリーズも転売ヤーによる買い占めにより、日本の消費者が手にしづらくなる可能性も懸念される。
ただ実は円安が進む以前から、携帯電話業界では転売ヤーに関する問題が深刻化していた。そのきっかけとなったのは、2021年の半ば頃から復活したスマートフォンの値引き販売である。
携帯電話業界では以前、スマートフォンと通信をセットで購入・契約してもらうことで、スマートフォンを大幅値引きするという販売手法が一般的だったが、この販売手法が乗り換えをしづらくし、競争を阻害していると総務省が問題視。2019年の電気通信事業法改正でセット販売が禁止され、通信契約に紐づく端末値引き額に上限が設けられるなど、業界の商習慣を根底から覆して大幅値引きの根絶を図った。
だが携帯電話会社は法の隙を突き、スマートフォン自体の価格を大幅に値引いて通信契約をしなくても非常に安い価格で購入できるようにするという、新しい値引き手法を考案。それに加えて新規契約者などには法律の上限まで値引きを適用することにより「一括1円」といった激安販売を復活させることで、通信契約の呼び水としたのである。
この値引き手法は、従来の商習慣の影響から端末購入と通信の契約はセットでするのが常識となっており、端末単体で購入するという発想を持つ人が少ないからこそ成り立っているもの。実は値引きされた端末だけを購入されると損をしてしまうという弱点があった。その弱点を的確に突いたのが転売ヤーであり、組織的な転売ヤーが人海戦術で大幅値引きされた端末を買い占めてしまうという行為が横行したのである。
そうしたことから値引きされた端末だけを購入する人に対して販売を拒否する店舗も多く現れたのだが、これはセット販売を禁止している電気通信事業法に抵触してしまう行為だ。それゆえ総務省の有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」では端末単体での販売拒否が問題視され、携帯各社には販売拒否をしないよう厳しく指導もなされている。
その一方で、同会議では端末値引きの復活以降活性化している転売ヤー対策にも議論が及んでいるのだが、その報告書を見ると、まずは携帯各社の自主的な対応で転売を防ぐことに主眼が置かれているようだ。総務省としてはその対策の動向を注視しながら、改善が見られないようであれば必要な措置を検討するとしており、積極的に関与しようという様子はまだ見られない。
ただ総務省での転売ヤーに関する議論は、あくまで携帯電話会社がスマートフォンを値引いていることが前提であることに注意する必要がある。なぜなら値引きされていないスマートフォンの買い占めは一般的な物販の問題であり、電気通信事業法の範囲から外れてしまうからだ。
それゆえ今後円安での差益を目的として、組織的な海外の転売ヤーが値引きされていない人気スマートフォンを買い占めてしまうようなケースに、行政側が対応できるかという点には不安がある。実は過去を振り返ると、値引きなしでも転売ヤーが活性化して問題となる事例は幾度となく発生しており、何らかの対処が求められているのも確かなのだ。
代表的な例となるが2014年の「iPhone 6」シリーズの販売時だ。この時は日本で、どの携帯電話会社のSIMを挿入しても利用できる「SIMフリー」のiPhoneが初めて販売されたのだが、日本でのiPhoneの価格が比較的割安だったことから転売目的と見られる人達がApple Storeに列をなし、SIMフリー版のiPhoneを買い占めてしまうという問題が発生。それ以降も携帯各社の値引きとは無関係に、転売ヤーによるiPhoneの買い占めが起きるケースが時折見られる。
そうしたことから行政には、携帯電話会社の値引きとは関係なく転売ヤーへの抜本的な対策が求められる所だ。それができなければ転売ヤーの影響で、日本人が人気のスマートフォンをいつまでたっても購入できないということが社会問題化する日も遠くないと筆者は見ている。
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