地球低軌道にギガビット級の光通信網を構築--ワープスペース森氏に聞いた

UchuBizスタッフ2022年08月22日 16時00分

 「24時間365日、地球低軌道(LEO)から低遅延でデータを地上に送れるようになる。通信速度は最低でもGbpsからスタートする」──。そう語るのは衛星間光通信を用いたデータ中継サービス「WarpHub InterSat」を開発するワープスペースの最高戦略責任者(CSO) 森裕和氏だ。


 LEOには現在、多数の衛星が周回しているが、LEO衛星から取得したデータを地上に送信するためのインフラが不足しており、衛星サービスを展開するうえで深刻なボトルネックになっていると森氏は話す。

 「高度500km付近を周回するLEO衛星は、地球1周90分のうち1つの地上局にデータを降ろせるのは10分程度しかない。それは物理法則や地政学的に絶対に変えられない。地上局をたくさん作る構想もあるが、地球表面の7割を占める海への建設は難しい。地上局をたくさん建てるだけではいずれ限界がくる。そこで、中軌道での中継サービスを思いついた」(森氏)

 ワープスペースでは、地球中軌道(MEO)に中継衛星を配置することで、LEOと地上間で効率的に通信できるインフラの構築を目指している。3基のMEO衛星でLEO全体をカバーできるといい、最初の衛星は2024年Q4、残り2基の衛星は2025年の打ち上げを目指している。

電波ではなく「光」を活用

 同社のサービスがユニークなのは、LEO衛星とMEOを周回する中継衛星間の通信に、電波ではなく光を用いる点だ。なぜ光なのか。森氏は次のように説明する。

 「電波の場合、衛星で利用できる周波数帯は周波数調整という形で世界共通で決まっている。衛星ごとに使う周波数や使用期間を登録する必要がある。しかし、最近は衛星が増加し、使える周波数が埋まってしまい、使いたいバンドが使えないということがある。一方、光を利用すればそうした制約がなく自由に使うことができる」

 同社のサービスでは、厳密には可視光ではなく近赤外線を用いるが、可視光と同じように扱えるという。望遠鏡と同じ構造の光通信ユニットを衛星に搭載するだけで通信できるという。ワープスペースはLEO衛星のオペレーターに光通信端末を提供する形でサービスを提供する。

 遅延も大きく短縮できるという。「従来は地上にデータを降ろすまでに平均して45分〜90分かかった。それが弊社のサービスを用いれば、中継衛星とLEO衛星間で位置を特定して、光通信のリンクを確立する時間を含めても、遅延を15分程度に抑えられる」と森氏は話す。

 通信速度は最低でも2.5Gbpsをみているという。「正直、通信速度はどれだけパワーを使うかや、アンテナのサイズで変わってくる。やりようによっては100Gbpsや1Tbpsも可能」と話す。

さまざまな地球観測衛星事業者が想定顧客に

主な顧客には、光学をはじめ合成開口レーダー(SAR)やハイパースペクトル、RFなどを用いるさまざまな地球観測衛星事業者を想定している。「現在の観測衛星事業者は、地上に降ろせないデータは捨てている現状がある。そうしたデータも役に立つ可能性があるし、例えば動画も生データの画質で送信することで、より洞察インサイトが得られる解析が地上で行えるようになる」とメリットを説明する。

 競合企業については、米国のSpaceLinkなどがあるが、自社の優位性は「スタートアップならではのスピード感」だと森氏は説明する。

 「我々は2024年をめどに最初の衛星を打ち上げ予定で、衛星の開発もスタートしている。また、コスト面でも、我々も開発パートナーもスタートアップ企業という点が有利に働く。クレディビリティが少ないなどのデメリットはあるものの、コスト感はだいぶ抑えられる。それがサービスの価格にも反映され、中長期的には手頃な価格で誰でも使えるサービスに繋がる」(森氏)

 また、同社はAmazon Web Service(AWS)の採用も発表した。想定顧客となる観測衛星の事業者の多くがAWSを利用している点を考慮したという。「ラストワンマイルはAWSに任せる。すでに観測衛星事業者がAWSのパケットなどを入れてるところに、我々のサービスを通じてデータを送るところまではやりたい」と話した。

(この記事はUchuBizからの転載です)

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