3月に大修理を終えた唐招提寺御影堂の内部をパナソニックのLED照明が守り、照らしている。御影堂には、国宝である鑑真和上坐像が納められ、L字型に座敷を囲む襖には東山魁夷氏による襖絵が描かれている。
唐招提寺は、奈良県奈良市にある寺院。元は興福寺別当寺院であった御影堂だが、1964年に鑑真和上像安置のため、唐招提寺に移築された。東山魁夷氏による襖絵が奉献されたのは1975年のこと。美しい海と山の景色を襖の中に見ることができる。
大修理は、移築から50年が経ち、建物に傷みが目立ちはじめたため、実施されたもの。地盤が緩かったため、十数センチの落ち込みが見られたほか、屋根は雨漏りもしており、大規模修繕となった。
大修理は2016年から取り掛かり、2022年の3月31日に竣工。約6年の月日を費やした。特徴的だったのは、解体をせず、曳家工法を用いたこと。曳家工法とは、建物をそのまま持ち上げて移動させる建築工法の1つ。御影堂は建物の強度は十分だったが、地盤の改良が必要だったため、建物を60センチ持ち上げて、約30メートル北へ移動。基礎地盤を改良後、引き戻したという。この際、雨漏りがしていた屋根の銅板はわずかに厚くしている。
修理の期間中、襖絵は全国美術館などで巡回展を開催。美術館の専門照明で照らされた襖絵を見て、唐招提寺 執事長の石田太一氏は「御影堂でもこの照明を取り入れたい」と感じたという。そこで、以前からつながりのあったパナソニックに照明の提案を受けたことを機にLED照明を導入した。「国内の数々の施設に導入されている実績を聞いて採用を決めた。国産メーカーということで応援したい気持ちもあった(笑)」(石田氏)と話す。
御影堂の内部には、障壁画用にスポットライト、写経用のベースライトを導入。スポットライトには太陽光のもとで見るときに近いレベルで色を再現する高演色スポットライトを採用。器具個別に調光ができるため、それぞれの照射物に最適なライティングができるという。
ベースライトは、春、秋の年2回実施される写経時に使用するため、3500ケルビンの色温度で明るさを確保。全体をバランス良く照らすことを目指したという。
導入時に気をつけたのは照明がとにかく目立たないこと。建物は重要文化財のため、釘が打てず、ベースライトは配線ダクトにボルトを入れ、天井板に取り付ける手法を採用。ベースライト自体も細断面とノイズレスな角型デザインにし、配線ダクトと一体感が得られる設計にするなど、存在感を抑えつつ、明るく照らせる照明を目指したという。
また、LEDにすることで、紫外線による襖絵の劣化も極力排除。「日本画などは60ルクス程度の照度を採用するのが一般的だが、御影堂では40ルクスにすることで劣化を抑えている」(パナソニック エレクトリックワークス社ライティング事業部エンジニアリングセンター大阪エンジニアリング部建築環境デザイン課課長の福澤広行氏)と細心の注意を払う。
襖絵の向かいには障子が並び、柔らかな外光が襖絵を照らす。「障子を開けると外光が入ってくるが、天候によって襖絵の色味は異なる。雨の日は暗い色に、晴天の日は真っ青に見え、季節を感じられる。こうした変化は、美術館などの照明では感じられないこと。御影堂では、そうした障子越しの自然の明かりに近づけている」(石田氏)とその仕上がりを評した。
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