「パワフルな小さな政府」でさらなる規制緩和を--三木谷氏と藤田氏が振り返る新経連の10年

 楽天などのIT企業を中心にして活動する新経済連盟(新経連)は6月1日、始動10周年を迎えた記念イベントを都内で開催。

 イベントの冒頭では、代表理事を務める楽天グループ 代表取締役会長兼社長 三木谷浩史氏と、副代表理事を務めるサイバーエージェント 代表取締役 藤田晋氏が対談を実施。10年を振り返りつつ、今後の注力施策などを語り合った。

(右から)代表理事の三木谷浩史氏、副代表理事の藤田晋氏
(右から)代表理事の三木谷浩史氏、副代表理事の藤田晋氏

三木谷氏:新経連が2012年に始動してから10年ですが、振り返ってどうですか。

藤田氏:現在の施策としてはアントレプレナーシップ、デジタル化、イノベーションなどを盛り込んでおり、やるべきことをしっかり正しくやってきた、という実感があります。今では当たり前となった薬のネット通販1つとっても、始めた頃は変えるのにものすごく反対されました。「楽天のネットショップの売り上げを増やすため」とも言われましたね。

 “よいしょ”する訳ではないですが、10年間を一言で言うと、三木谷さんの強いリーダーシップのおかげ。私も普段は社長ですが、新経連で初めて“強いリーダーの下”で働かせていただいています。

新経連10年の歩み
新経連10年の歩み
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三木谷氏:デジタルトランスフォーメーション(DX)と言われていますが、この10年を振り返るとガラケーからスマホへの転換にブロックチェーンやビットコインなど、世界中の仕組みの変換というような、さまざまなことがありました。

藤田氏:不謹慎かもしれませんが、コロナ禍でDXが一気に進んだ感があります。現在もそのまっただ中で、今後10年の中でも一番重要になるのではないでしょうか。

三木谷氏:確かに追い風となった一方で、世界と比べるとかなり差を開けられてしまった感もあります。お隣の中国はもちろん、特に米国などと比べると、さまざまな仕組みにインターネット(が出る)前の規制が残っています。今までもさまざまな提案をしてきましたが、これからも(提案をして)変えていかなければならないと感じています。

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藤田氏:日本では進んでいても、世界と比べれば遅れていて、追いつく必要がありますね。追いつかなければいけない、追いつくことができる、そう皆さんに意識してもらうことは新経連の役割でもあります。

三木谷氏:その中での課題として感じる部分は、政治家や官僚、産業界のリーダーの方々のビジョンや戦略のところ。“昔のまま残したい”“1人も取り残さない”などの言葉をよく聞きますが、結構難しいですよね。危機感を覚えることがあります。

藤田氏:私はその一方で、若い政治家、官僚の方では理解が進んだ、感覚が変わったと感じることもありますね。国全体ではまだまだかもしれませんが、未来は明るいと感じています。

三木谷氏:今日は肯定的ですね(笑)。未来の話という観点だと、新経連は先輩格である経団連(日本経済団体連合会)などとは異なり、直接的なアプローチで規制改革を行っていくということが大きな違いの1つです。それから、(今は)アントレプレナーシップ。私は実業家精神と捉えていますが、日本に大きく足りないところと感じています。新経連はDX、アントレプレナーシップ、国際性、この3つを軸として活動していきたいですね。アントレプレナーシップについてはどう感じていますか。

藤田氏:国が間違った規制、政策を進めようとしていたり、規制緩和できなかったりする時、私たちは既得権益の中で声を上げて飛びかかることができます。しかし、アントレプレナーの方々はそういう団体、既得権益がない。一人一人で声を上げると自分たちのポジションのためと思われかねず、日本にとって危険なことと感じています。そのための新経連であると。参画企業の調整とか、三木谷さんがぐいぐい引っ張ってくれるので、実動性の高い団体になったと実感しています。

三木谷氏:日本国全体として、「物作り」「物作り日本」という大きなキーワードがあります。大切なことですが、物作りだけで国民全部を支えるのはかなり難しいでしょう。よく、「iPhoneの何十%に日本の部品が使われている」という話を聞きますが、利益の99%はアップルが取っている。モノ以外のサービス、コンテンツ、エンターテインメントなどを充実させていく必要があるし、国民全体が未来への方向性を感じる、考える必要があるでしょう。そういった啓蒙活動も新経連の大きなミッションの1つだと考えています。

 また、政策の哲学の3項目目としてとして掲げているのですが、今後の新経連の方向性としては、日本の良さを残しながら、グローバルスタンダードに近づけていくことを目指します。例えばシェアリングエコノミーなどがそうです。日本にとっては非常識な、海外からきたグローバルスタンダードを合わせていきつつ、コンテンツ、サービスマインドといった日本の良さをキープする。

 4項目目の「部分的でなく一体的な改革」もそうです。規制改革法案が通ってもその後のさまざまな事情で実際にはできなかった、“総論OK各論NO”みたいなことがよくあります。例えば民泊は各都道府県や市町村の規制、指導などで進みませんでした。DXも方向性としては進んでいますが、実際にはすべてを変えないとダメになる、二重コストでなかなか進まない、と言うことになりかねない。思い切ってやる必要性を感じます。

新経連の政策哲学
新経連の政策哲学

藤田氏:改めて10年前と比較するとずいぶん快適になった感じがします。

三木谷氏:そうですか? 逆風をたくさん受けている感じです。

藤田氏:向かい風は全て三木谷さんが受けてくれているということかもしれません(笑)

三木谷氏:少しまじめに話すと、日本では規制緩和のような、こういう問題がある、こう変えて欲しい、みたいなことを言うと、我田引水のように捉えられる傾向がありますが、私たちは出来るだけ実現に向けてがんばって行きたいと思っています。例えば空港での抗原検査など、場合によっては5時間くらい待たされます。ワクチンの職域接種も時間がかかりますね。民間でやれば圧倒的に効率的なことが多くあると感じています。いわゆる「パワフルで小さな政府」が新経連の方針です。

藤田氏:これからの方針の1つとしては、もっと新しい、若い人の声を拾っていきたいですね。そういった人たちが損をする社会ではいけないと思うので、注力していきたいです。

三木谷氏:日本の未来は、「おそらく大きく変わらないと極めて厳しい状況になっていく」と感じていますが、それに対する大きな打ち手の1つが、アントレプレナーであり、イノベーションであると思っています。少しでも日本が国として発展していけるように、“Japan As Number One”と言われるように、がんばっていきたいですね。

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