「スマートシティ加賀」を推進する石川県加賀市は、スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定に向けた公募に申請して、3月に「デジタル田園健康特区」に指定されるなど、注目を集めている自治体の1つだ。2021年12月2日には、次世代モビリティの事業創造を目指す兼松と、「空飛ぶクルマ・ドローンを用いた地方創生に向けた包括連携協定」を締結。両者は、加賀市における関連産業の定着や社会貢献活動の推進に向けて、ともに取り組んでいくと発表した。
その加賀市で5月、新たな動きがあった。自治体と企業の実証実験の間に入り、実証実験の受け皿として機能することで地方創生の加速を図る、デジタルカレッジKAGAが加賀市と連携し、「空飛ぶクルマ」課題の検証に乗り出した。
「空飛ぶクルマ」は、日本でも2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で、本格導入を目指す方針。ヘリコプターやドローンを用いたルート実証が行われているが、本実証の特徴はパラモーターを使って、加賀市街地上空を実際に“人が飛んで”行われたことだ。
ドローンは基本的に、上空150m以上の飛行は難しい。また、ヘリコプターの最低安全高度は300m。本実証は、150m以上300m以下の空域において、複数のカメラやセンサー類を搭載して長時間の飛行ができることから、パラモーターを採用したという。必要となる機材が少なく安価に検証ができること、滑走路を必要とせず騒音もない、航空法上の規制を受けずに飛行できるなど、パラモーターでの実証は合理的な選択肢の1つといえそうだ。
本実証の飛行経路は、山間部の山中温泉から海岸の橋立漁港まで、加賀市街地上空を含む約25kmで、高度は約100〜200m。航行速度は約時速30kmだった。
まず、1300年の歴史を持つ山中温泉の町の中にある、野球グラウンドから離陸した。
離陸するところ
その後、山代温泉、大聖寺周辺、加賀温泉駅周辺を次々と飛行。ドローン空撮でもなかなか見られない、観音像をすぐ上から見下ろしたビジュアルは圧巻だった。
離陸から約1時間後、橋立漁港にある小学校のグラウンドに着陸した。大きなトラブルなく検証を完了したという。
着陸するところ
なお、安全に飛行にするため、加賀市、各観光協会、小松空港管制、自衛隊小松基地、石川県警察に事前に連絡を取って各所から支援を受けたほか、離発着時の風速や風向きの検証、飛行経路上の車両での伴走、なども実施し、約1kmごとに緊急着陸場所をあらかじめ想定して臨んだ。
本実証で抽出できた具体的な課題などの詳しい成果は、夏以降に加賀市で開催予定のシンポジウムで発表するというが、すでに提示した課題もある。「実際に市街地を飛行してみた」からこそ、見えてきた課題だ。
本実証では、半年以上かけて経路を下見し、自治体他との調整や、実際に飛行するにあたっては風況データの計測も行った。その上で、上空から「GoPro」や「ハンディカム」で映像を取得しつつ、飛行時には地上車両でパラモーターを追跡して上空での挙動などをできる限り確認した。
1つは「都市部または山間部における離発着場所」の課題だ。日本でもバーティポートの事業化検討が始まっている。バーティポートとは、垂直離着陸機用の離発着場所のことで、エアモビリティと呼ばれる、人が乗るための電動垂直離着陸機(eVTOL)のための施設だ。特に都市部への設置では、やはり交通渋滞の解消や既存の交通網とのアクセスが重視されるが、本当に重要なのは安全性の確保と社会受容性の向上だ。
今回の取り組みでは、「バーティポートには、機体の大きさに応じた広いスペースが必要で、最低1万平方m程度になる」と試算したという。また、外周に木や電線がある場所は不向き、風が安定していない場所は不向き、などのさまざまな課題が明らかになったという。
さらに興味深いのは、「市街地上空を飛行する機体の滑空性能」についての言及だ。eVOTLには、ドローンのような回転翼のみで離陸して航行するもの、飛行機の翼のような固定翼と回転翼とを併用したものなど、さまざまな構造の機体があり、それぞれ飛行性能は異なる。
本実証では、市街地の上空を飛行するということで、パラモーターの滑空性能を考慮し、例えば上空100mで有事が起きた場合でも700mは滑空できると想定して、退避できる緊急着陸場所を設定したという。つまり、滑空能力を持たない機体が市街地上空を飛行するのは、非常に危険であるという課題も抽出されたのだ。シンポジウムでの発表に注目したい。
パラモーターによる実証実験のダイジェスト動画
今後、デジタルカレッジKAGAは、加賀市に「空飛ぶクルマ」産業が定着する土壌創出を目指して、シンポジウムなどの活動を予定しているというが、本実証で得られたパラモーターを活用した空飛ぶクルマのルート検証のノウハウや知見は、加賀市に限らず国内の自治体や企業から要望があれば適宜提供していくという。
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