2021年に開設した宇宙ビジネス専門メディア「UchuBiz」の初となるオンラインイベントが、5月17日にCNET Japanとの共催で行われた。 「CNET Japan × UchuBiz Space Forum 無限に広がる宇宙ビジネスの将来~相次ぐ参入企業の狙い~」と題し、宇宙産業に関わる企業、組織による6つのセッションプログラムが実施され、宇宙ビジネスの現在と将来の展望を明らかにした。
ここでは、キユーピー 研究開発本部 萩原雄真氏とパル 3COINS ブランド長 肥後俊樹氏が語った「大手食品・雑貨ブランドが語る『宇宙の暮らし』を変えるビジネス」についてレポートする。
セッションに登壇した両社は現在、宇宙をターゲットとしたビジネスにチャレンジしている。まずキユーピーと宇宙との関係性を見ると、過去には2007年に日本国内で製造された初の宇宙日本食として同社のマヨネーズが認証を受け、2009年には若田光一宇宙飛行士、2020年には野口聡一宇宙飛行士がキユーピーマヨネーズを携行したという“実績”を持つ。
現在は、萩原氏が所属する研究開発部門が宇宙ビジネスとの接点を持っている。グループとして「2030ビジョン」を掲げる中で、「過去に調味料や調理ソース、卵の加工品などの製品を開発していく過程で生み出した“コア技術”と、グループで製造または使いこなしている“強み素材”、世界中の“パートナー”を掛け合わせることによって、(1)人の健康、(2)地球の健康、(3)未来の食生活の創造――を作り上げるというミッションがある。宇宙領域の取り組みは、その3つめに紐づいている」(萩原氏)という。
取り組みを進めるにあたっては、SPACE FOODSPHEREに参画し、オープンイノベーション方式で取り組んでいる。SPACE FOODSPHEREは、地球と宇宙の食の課題を解決することを目的とした共創プログラムで、約60の企業や大学などが参加。そこでは「2030年、2040年に宇宙で人間が生活するようになったときに、どんな課題に立ち向かう必要があり、その課題に向き合ったときにどんな技術を開発していく必要があるのかを、食品だけではなく異業種のメーカーやアカデミア、研究機関も含め一緒に議論をしている」(萩原氏)
同所での研究においては、そのプロセスで生まれた技術やビジネスを地球上で展開することも視野に入れているとのこと。その際に軸足となるのが「愛は食卓にある。」という同社のコーポレートメッセージだ。SPACE FOODSPHEREが挑戦するテーマの中では、「閉鎖環境の日常の食卓」「閉鎖環境の特別な日の食体験」「極小空間の単独の食事」の課題解決に取り組んでいる。
「これまでグループが蓄積してきた簡便調理や鮮度保持に関する技術、メニュー開発のノウハウをSPACE FOODSPHEREの取り組みの中で活用することによって、食事の楽しさやコミュニケーション、モチベーションをしっかり作り上げていきたい。宇宙での生活における人の心の健康、体の健康、QOL(Quality of Life)の向上に刺さるような食のソリューションを作っていきたいと考えている」(萩原氏)
複数のアパレルファッションブランドを運営しているパルは、低価格雑貨を販売する「3COINS」ブランドの下で、約1年前から宇宙に対する取り組みを開始。現在2つの軸で取り組みを進めているという。
1つめは、JAXAが公募する「宇宙生活/地上生活に共通する課題を解決する生活用品アイデア募集」に2021年度に応募した、「自在にカスタマイズができる上に持ち歩くことまで出来る壁面収納」の開発に取り組んでいる。同製品は2023年以降に国際宇宙ステーション(ISS)への搭載を目指す生活用品アイデアとして選定され、現在は「実際に持っていけるものにするためのやり取りを進めている状況で、宇宙飛行士との面談も予定している」(肥後氏)とのこと。
2つめは、JAXAが実施している「THINK SPACE LIFEアクセラレータープログラム」への参画である。同プログラムは、3COINSを含めた参加6社の事業領域とそこに紐づく日常生活の課題・ニーズを起点として、宇宙と地上の暮らしをより良くしようというオープンイノベーションの共創プロジェクト。各社が設定するテーマに対して複数の企業がアイデアを出し、それを実現していく形となる。
同社が設定しているテーマは、「地上でも宇宙でも『ちょっと幸せな日常』を提供する商品開発」というもので、現在多数の応募を受けて選定をしている状況であるとのこと。「地上でのビジネスを経由しながら最終的に宇宙を目指すという考え方で、いきなり宇宙に持っていくものではなく、宇宙・地上の課題を解決するためのプロダクトを開発し、まずそれを地上で販売するところから始めるスキームを目指している」(肥後氏)
パルでは宇宙ビジネスに参入するにあたり、3COINSの商品部を中心にメンバーを組んで宇宙を知るところから取り組みを始めたという。
「知れば知るほど、宇宙は身近なものと感じるようになった。自分たちがこういうアクションをすることで、宇宙ビジネスや宇宙そのものを知ってもらえるきっかけになれば嬉しいと思って取り組んでいる」(肥後氏)
セッションの後半で両者は、主催者と視聴者からの質問に回答した。肥後氏、萩原氏の個人としての宇宙ビジネスへのかかわり方については、共に現在メインのミッションを抱えつつ、その活動の一環として宇宙ビジネスに取り組んでいるという。宇宙ビジネスに関わりたくてそれぞれの企業に入社したわけではないが、2人とも自ら手を挙げる形でスタートしたという。
社内外からの反応について、肥後氏は「宇宙と言い出した時には、周りからは変な目で見られるような違和感があったが、実際に始めるとみんな面白がってくれた。外に対しては3COINSが新しいことをやっているということで、結果的にブランド価値を上げてくれている」と話す。
萩原氏は、「社内での反応としては、基礎研究をやっているような未来志向の強いメンバーは特に強い興味を持ってくれているが、ビジネスの視点では正直クエスチョンマークが付く状態であり、二極化している」と明かす。一方で、「キユーピーの見学施設内で宇宙日本食マヨネーズを紹介する中で、特に子どもから良い反応が得られている。宇宙ビジネスへの挑戦がブランド価値につながる取組になることにも期待している」と、総じてポジティブな効果を生んでいるとの認識を示した。
現状両社ではブランド価値の向上につながるという話だが、実際に宇宙に関連していない事業者が宇宙ビジネスに参入するにあたっては、最初に社内を説得しなければ事が始まらない。そこでまず、担当者は宇宙ビジネスをどう捉えていくべきなのだろうか。
これに対して両社ともすぐに宇宙でのビジネスは成り立たないとの認識を示した上で、まず萩原氏は「地球と宇宙で共通した食の課題はいくつもある。それを実際に宇宙視点で解決することは、地上で今やっている事業や今後の事業に対する後押しになることは間違いない。地上の事業への波及効果に期待を寄せている」と話す。
肥後氏は、「あくまでも宇宙の生活も、遠い先ではあるが日常生活の延長にあるという考え方ができれば、さまざまな接点がある。生活をする場所のひとつとして宇宙があるという考え方のもと、宇宙ビジネスに対する取り組み方は色々とあると思って取り組んでいる」という。
宇宙で暮らす人々は数十年後でも1千人程度と考えられている。そうなると輸送費も考えると、お手頃価格なマヨネーズや300円の生活雑貨を販売するビジネスモデルではペイできない。肥後氏は、「やはり宇宙と地上をどういった形で紐づけられるかが必要」とし、萩原氏は「人間が宇宙で日常生活を送るようになったとき、食品を製造する、商品を売る以外でまったく違う角度でのビジネスもあると思っている」との見方を示す。
そうした中で、大きな組織の中で周囲を納得させるためのコツとしては、「ただ宇宙というよりは、今の自分たちの事業とどう紐づいていて、どう自分たちの事業にメリットがあるかを明確化できると理解してもらいやすい」(肥後氏)、「地上での事業やこれから地上でやっていくビジネスとの接点を丁寧に説明していくことが大事」(萩原氏)と、アドバイスした。
なお、2人とも名刺の肩書に“宇宙”という言葉はまだ入っていないという。肥後氏は「今のところはまだ早い」とし、萩原氏は「今日で認知度が上がったので検討したい」とそれぞれ思いを語った。
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