ソニーグループは、2022年度経営方針を発表。ソニーグループ 会長兼社長 CEOの吉田憲一郎氏は、同社の基本姿勢について説明。「ソニーのパーパスのキーワードは感動であり、感動を作るのは人であり、感動する主体も人である。経営の方向性は、クリエイターやユーザーといった人に近づくことであり、人を軸として経営に長期視点で取り組んでいる」と、これまでの姿勢を強調する一方、「ソニーのブランドを、世界中のクリエイターから最も愛されるものにしたい。感動を作るのはクリエイターである。クリエイティビティを世界に広げることが企業文化になればいいと考えている」と語った。
また、「ソニーグループには6つの事業セグメントがあるが、私は『人の心を動かす』事業、『人と人を繋ぐ』事業、『人を支える』事業の3つの領域に分けて考えており、2018年以降、この3つの領域への投資を進めてきた。現在、ソニーグループでは、ノンコア事業と認識しているものはないが、経営が新たな挑戦をすることは大切である」などと述べた。
そのほか、バリューチェーン全体でのカーボンニュートラル達成目標時期を2050年から2040年に、自社オペレーションでの100%再生可能エネルギー電力化の達成目標時期を2040年から2030年とし、それぞれ10年前倒しすることも発表した。
吉田会長兼社長 CEOは、ゲーム、音楽、映画による「人の心を動かす」事業、テレビなどのエレクトロニクス製品やCMOSイメージセンサーなどによる「人と人を繋ぐ」事業、メディカル、金融による「人を支える」事業という3つの事業領域における投資と成長戦略を推進してきたことを強調しながら次のように説明した。
「『人の心を動かす』事業では、EMI MUSIC PUBLISHINGやCRUNCHYROLLの買収など、過去4年間で1兆円を超える戦略投資を実施してきた。なかでも、DTC(Direct to Consumer)サービスでは、感動をユーザーに届けるパートナーとの関係を重視。さらに、10億人と直接つながることを目指している。また、『人と人を繋ぐ』事業では、感動コンテンツを作り、それを体験するためのテクノロジー、製品、サービスを提供。成長するCMOSイメージセンサーには、過去4年間で1兆円の投資を行い、トップシェアを獲得している。車載向けやIoT向けセンシングは今後の成長領域になる。そして、『人を支える』事業は、感動の前提となるのは人々の健康、安心であり、癌やウイルスなどの研究、細胞薬製造に貢献しているほか、金融では4000億円を投じてソニーフィナンシャルグループを完全子会社化し、800万人を超える保険や銀行の顧客に対して、生活の利便性と金融面での安心を提供している」と述べた。
今回の事業方針説明では、「人の心を動かす」事業について時間を割いて説明した。
吉田会長兼社長 CEOは、「感動を経営のキーワードとした2012年度以降、ゲーム、音楽、映画は継続的に成長を続けている。2021年度にはこれらの売上高の合計が、連結全体の50%を超え、営業利益は約3分の2を占めている」と、ソニーグループの屋台骨になっていることを示した。
ゲームについては、「IPの創造でクリエイターに近づき、DTCサービスでユーザーに近づく取り組みを推進している」と前置きし、「PS4」の累計出荷台数が1億1700万台以上、「PS5」の累計出荷台数が1900万台以上になったこと、ECオンラインストア「PlayStation Direct」では地域ごとの独自展開に注力していること、PlayStation Networkでは売上高が1兆8000億円以上となり、1億人以上のユーザーが利用していること、2015年からスタートした「PlayStation Plus」を6月に大幅リニューアルする計画であることなどに触れた。また、「PlayStation Studios」では、過去1年間で数多くの買収を行ったこと、PCゲームにも展開していることを紹介しながら、「大きな期待を寄せているのが、2022年に買収したバンジーである。ライブサービスの能力を高める起爆剤であり、本格的なマルチプラットフォーム展開につながる大きな一歩である」と位置づけた。
また、「ゲーム領域には継続的な投資を行い、開発能力とクオリティを上げていくことが戦略の柱である。機会があればスタジオの買収を検討していく」(ソニーグループ 副社長兼CFOの十時裕樹氏)とした。
音楽では、「アーティスト、ソングライターにとって、最も近い存在である企業を目指し、クリエイティブ側から支えることに注力している」とし、音楽事業が、2014年以降、ストリーミングサービスの伸長によって拡大していること、継続的にヒットを生み出す仕組みを構築していること、インディーズレーベルやアーティスト個人、多様化する配信パートナーとの連携を強化していること、インドやブラジル、アフリカなどの新興市場における音楽クリエイターとの関係拡大、ソーシャルを通じたアーティストの発掘、拡散などを行っていることを示した。また、「感動コンテンツを生み出すアーティストや、クリエイターへの支援は制作面だけでなく、心と身体のサポートにも及んでいる」などとした。
映画では、「クリエイターを支え、コンテンツIPを創出し、展開していくことが中心になる。映画製作においては劇場公開を重視する方針を維持していく」とした。
「Spider-Man: No Way Home」が全米累計興行収入で歴代3位を記録。4月にはMarvelキャラクターである「Morbius」の劇場公開を行ったことに触れながら、今後もSony Pictures Universe of Marvel Charactersの世界を広げていく考えを示した。また、2月に公開した映画「Uncharted」に続き、ゲームタイトルの IP を活用した映画やテレビ番組作品を今後も制作することに言及。「『鬼滅の刃』もグループの多様性を活かしたIP展開の成果である」などとした。
さらに、独立スタジオとしての立場を活かして配信パートナーとの連携を強化。また、動画ストリーミングサービスの伸長によって、テレビやモバイルでの視聴が増加していることを背景に、テレビドラマの制作スタジオなど、複数の買収を実行していることも示した。
「感動体験や関心を共有する人たちのコミュニティを、『Community of Interest』と呼んでいる。ユーザーの動機に近づき、ユーザーから学ぶため、特定領域ではコンテンツを直接届けることにも注力している。そのひとつがアニメである」などとした。
続いて触れたのが、「感動空間」と位置づける「メタバース」と「モビリティ」への取り組みだ。
メタバースについては次のように語る。「感動を作り、届けることはソニーが創業時から取り組んできたものである。だが、感動を届ける手段は、テクノロジーの進化により、放送からパッケージ、ネットワークへと広がり、さらに、ネットワークでのエンターテインメント体験は、ダウンロード、ストリーミングに加えて、時間と空間を共有するソーシャルでインタラクティブな体験へと、いまも進化しつづけている。エンターテインメントの本質は、時間と空間を共有するライブである。ネットワークの体験が、テクノロジーを通じて、よりライブ化している。ライブネットワーク空間で、人と人をつなぐのがゲーム技術である。ネットワーク空間では、ゲームや映画、音楽などのジャンルが交わるようになり、それぞれの楽しみ方が広がっている。FORTNITEは、ゲームをプレイするだけでなく、時間と空間を共有でき、アーティストにとっては、ゲームが新たな表現の場になり、ゲーム以外のIPの価値も高めるライブネットワーク空間になっている」などとした。
ゲーム領域においてはバンジーによるライブサービス、スポーツ領域ではマンチェスター・シティ・フットボール・クラブとの協業、音楽領域におけてはソニーミュージックのアーティストによる仮想空間でのライブなどを行っている例を示した。
吉田会長兼社長 CEOは、「買収完了が前提にはなるが、バンジーからライブサービスを学びたい。ライブサービスはユーザーとともにインタラクティブにゲームを開発していくことが大切であるということを、バンジーの経営陣から教えてもらった。これは、ソニーグループが足りていない部分でもある。PlayStation Studiosからも、2025年度までに10タイトル以上のライブゲームサービスを展開する予定である。また、ソニーミュージックのアーティストがゲーム空間のなかで、多くのライブパフォーマンスを行っている。新しいライブエンタテインメント体験の創出のための取り組みを強化する。映画、音楽、アニメといった多様なエンタテインメント事業と、長年取り組んできたゲーム技術によって、クリエイターとユーザーがつながるライブネットワーク空間を実現し、新たな感動体験を創出したい」と述べた。
また、ソニーグループの専務兼CTOの北野宏明氏は、「ソニーは、1990年代後半にVRML 2.0を制定したが、あまりうまくいかなかった経験がある。だが、その経験をもとに、なにに可能性があり、どこに問題点があるのかということを理解している。新たな技術のなかで、なにが速く商用化できるのかといったことを見極めて、技術投資や事業化を進めていく」とし、「単一の大規模なメタバースが実現し、そこにすべてが入るのではなく、さまざまなメタバースが提供されることになるだろう。ソニーグループが強みとするのは、『360 Reality Audio』や『グランツーリスモ』などの映像や音響のリアリズムであり、リアルなメタバースを提供することができる。大きなものを作るよりも、クリエイターの創造性をどれだけインスパイアできるか、ユーザーに感動を与えられるかが、メタバースにおいても、ソニーグループの重要なミッションである」と述べた。
吉田会長兼社長 CEOも、「人同士のコミュニケーションをベースにしたメタバースや、NFTなどの経済圏を中心にしたメタバース、デジタルツインなどのインダストリーメタバースなど、さまざまな形態があるが、ソニーグループでは、エンターテインメントからメタバースを考えたい。ゲーム、スポーツなどが切り口になる。ゲームはビジネスモデルができつつあり、ライブサービスも展開できる」などとした。
そのほか、メタバースの取り組みの一環として、人工衛星に搭載したカメラを用いた宇宙空間でのDTCサービスを実現する「STAR SPHERE」を11月以降に打ち上げる予定や、マイクロソフトやNIANTICと連携する形で開発した完全ワイヤレスイヤホンの「LinkBuds」によって、現実空間の音にデジタルの音を重ねる体験を提案していることも紹介した。
「モビリティ」では、ソニーが1979年に発売した「ウォークマン」によって、音を自由に持ち運び、どこでも楽しむことができる新たなライフスタイルを提案したことに触れながら、「モビリティという移動空間を、新しいエンターテインメント空間にしたいと思っている。次のメガトレンドはモビリティである。10億台のクルマが稼働しており、これがIT、通信と結びつくことで、長期的にサービス化し、クルマの機能がソフトウェアによってアップデートし、進化する。購入したあとも進化するクルマであることが重要になる。セーフティ、エンターテインメント、アダプタビリティが、モビリティにおけるソニーグループの貢献領域である」と切り出した。
セーフティでは、CMOSイメージセンサーやLiDAR向けSPAD距離センサーなどによって貢献。これらが多くの自動車メーカーに採用されはじめているという。また、アダプタビリティではゲームや「aibo」で培ってきたクラウドサービスの知見を活かして、進化するモビリティの実現に貢献するという。
さらに、「VISION-Sの研究活動を通じて、モビテリィの進化に貢献するためには、商用化して、世に問う必要があると考えたが、自社だけではできない。そこで、ホンダと戦略的提携https://japan.cnet.com/article/35184471/をした。ホンダが長年培ってきたモビリティの開発力、車体製造の技術力と知見に、ソニーグループのセーフティ、エンターテインメント、アダプタビリティの3つの貢献領域を組み合わせていく。合弁会社を通じて、2025年にEV発売を目指している」と述べた。
なお、ホンダとの合弁会社については、「異なる事業を行っていることや、違う歴史や文化があり、話す言葉が違う場面もある。だが、新たな価値を作るという点では一致しており、進捗している」と述べた。
最後に触れたのがテクノロジーである。「センシング技術とAI技術は、モビリティの安全を支えるADASにおいて重要な役割を果たすが、エンターテインメントの進化を支えるテクノロジーでもある。ミラーレス一眼カメラの「α」シリーズに搭載されているリアルタイム瞳AF機能はその一例となる。音と映像の領域でも活用されているほか、ゲームや映画制作でもAIが使われているいる」とした。
AIへの投資は、人材投資が重要になるとして、日米欧を中心に、グローバルでの採用を加速。戦略的な投資が必要なAI分野での人材採用を強化するという。
また、テクノロジーの成果として、「Crystal LED」を用いたバーチャルプロダクションや、最先端AIを活用してアスリートの動きをバーチャルに再現する「Hawk-Eye Innovations(ホークアイ)」のトラッキングシステムなどの取り組みも紹介した。
さらに、次世代VRシステムである「PlayStation VR2」https://japan.cnet.com/article/35183892/では、「現実空間にいる人が、仮想空間に入り込むためのキーデバイスであり、プレイヤーの目の動きをセンシングすることで、視野の中心を高解像度で描画できる。ゲームの世界での体験価値向上につながるレーシングAIエージェントや、好奇心を持ち、人と寄り添いながらともに成長していくaiboも、センシング技術とAI技術を活かした商品である」と位置づけた。
最後に、吉田会長兼社長 CEOは、「エンターテインメントの進化を支えるのは、クリエイティビティとテクノロジーの進化である。IP、DTC、テクノロジーを中心に投資を行い、パートナーや11万人のソニーグループ社員とともに、世界に感動を届けることで、成長を実現したい」と述べた。
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