Amazonの「Astro」は、家庭用ロボットの世界では画期的な存在だ。実際に商品化され、すでに人々の家で稼働しているという事実だけで、Astroは過去の多くの野心的なロボットがなし得なかったことを達成した。
筆者は長年、CESなどのテクノロジー見本市で家庭用ロボットの進化を追ってきた。この分野で筆者が特に期待しているのは、往年の名作アニメ「宇宙家族ジェットソン」に登場する家事ロボット「ロジー」のような、部屋の片付けや基本的な家事をこなす有能なロボットの登場だ。
Astroは、見ている分には素晴らしいロボットだが、ロジーの域にはまだ遠く及ばない。実際、Astroという名前は宇宙家族ジェットソンに登場する別のキャラクター、飼い犬の「アストロ」に由来している。確かにAstroは多くの家庭に受け入れられる可能性を秘めた、初めてのタイプのロボットだ。しかし良くも悪くも、ロボットをペットに見立てる現在のアプローチは、高性能なヘルパーロボットの開発よりも、むしろ人々の心(と財布)をつかむことを目指しているように見える。Astroはロボットを進化させはしたが、筆者が期待していたのは、もっと大きな進化だった。
筆者は2017年のCESで、Mayfield Roboticsのロボット「Kuri」で遊ぶ機会を得た。Kuriは、家の間取りを自律的にマッピングし、人間の指示にしたがって部屋から部屋へ移動できた。かわいらしい目は表情豊かだ。カメラを内蔵しているので、外出先からでもアプリ経由で自宅の様子を確認できる。声の指示に反応するため、近くにいるときは一緒にゲームで遊び、外出時は家の見張りを頼むことができた。
Kuriは700ドル(約9万1000円)で予約販売され、購入者には2017年12月から発送されることになっていた。2017年1月のCESで実際に動くKuriを見た限りでは、開発は順調で、予定通りに出荷されると思われた。Kuriの動きはスムーズで、指示にも反応し、アプリの動きにも問題はなかったからだ。
しかし2018年7月、Mayfield RoboticsはKuriの生産を中止することを正式に発表した。そして筆者が初めてKuriを見てから5年以上がたった今、Astroが登場した。AmazonがAstroを初めて披露したのは、2021年秋の報道関係者向けイベントだ。現在は招待制で販売されており、価格は999.99ドル(約13万円)。正式発売時には1449.99ドル(約19万円)となる予定だ。
機能面を見ていくと、Astroは表情豊かな目を持ち、音声指示に反応する。カメラを内蔵しているため、外出時は家の見張り役としても活躍する。家の間取りを把握し、部屋から部屋へ移動できる。開発元が野心的な新興企業ではなく、巨大なハイテク企業だという点を除けば、いろいろな意味でAstroは在りし日のKuriを思わせる。
Kuriは新興企業発の製品として、AmazonのAstroには不可能な方法で成功できたはずだった。Astroの一部の機能は、Amazon傘下の企業が提供するサービスに加入しなければ利用できない。具体的には、Astroに自宅をパトロールしてもらうためには、Amazonが所有するホームセキュリティ企業、Ringが提供するサブスクリプションサービス「Ring Protect Pro」への加入が必要になる。
しかしRingやAmazonとのつながりは、プライバシーに関する懸念を引き起こす。Ringは個人情報の取扱いや警察との連携を批判されてきた企業だ。Astroを使うということは、自宅の間取りを把握し、複数のカメラを搭載し、家中を動き回るAstroをRingとつなぐことを意味する。
もちろん、Amazonも安全策は講じている。例えば、Astroは顔を認識できるが、その情報はローカルで処理される。マッピング情報も大部分は端末に保存される。しかし、Astroのカメラが捉えた映像を外出先で確認したい場合は、クラウドを利用しなければならない。
Kuriならクラウドを利用しなかった、と言いたいわけではない。実用化されていれば間違いなくクラウドを利用していただろう。そもそも開発元のMayfield Roboticsは新興企業だったので、Amazonのようなほぼ無尽蔵のリソースを持つ巨大企業より、セキュリティ能力は劣っていた可能性が高い。しかし同時に、攻撃の標的にもなりにくかっただろう。
相手がKuriなら、筆者も開発元が自分のデータをどう使うかを、あまり気にかけなかった可能性もある。現在、Amazonが明らかにしている情報の使い方には何の問題もないが、Astroを使うということは、巨大企業を信頼してきわめてプライベートなデータを託すことを意味する。
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