*前編「パナソニックグループCEOの楠見氏が話す--事業会社制、環境、ウェルビーイング」はこちら
パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏が合同取材に応じた。3年間の累計営業キャッシュフローの2兆円に触れたほか、EV市場に対するパナソニックの姿勢などについても話した。
2018年に創業100周年を迎えた際、パナソニックは、「くらしアップデートの会社」になることを標ぼうした。
楠見グループCEOは、この言葉に触れながら、「くらしをアップデートするということは、一人ひとりのお客様に徹底して向き合っていくことである。多様な人々が、多様な暮らしをするなかで、その人に応じた機器の使われ方がある。スマホが自分仕様になっているように、家電も同じように自分仕様になっていく。このように、家電などを使いやすくアップデートしているということがひとつの意味である。もうひとつの意味は、資源という観点からの狙いがある。一人ひとりの暮らしに寄り添った結果、新たな機能が出てきても、これまで使っていた機器を使い続けることができるという世界の実現である。だが、そうなれば、ハードウェアの販売だけでは売り上げが落ちてしまう。リカーリング事業となるためのサービスの提供などを、お客様に納得して、利用してもらう必要がある。これは、お役立ちができるからこそ、納得してもらえるものであり、いまパナソニックグループが取り組んでいることに通じている」とする。
その上で、「パナソニックは、新たにブランドスローガンに、『幸せの、チカラに。』を掲げた。幸せのチカラになることを実現する会社になりたい」と語った。
新たなブランドスローガンの「幸せの、チカラに。」は、変化する世界のなかでも、お客様に寄り添い持続可能な「幸せ」を生みだす「チカラ」であり続けたいというパナソニックグループの存在意義を表現したものだという。
楠見グループCEOは、「CEOに就任した直後には、新たなブランドスローガンは、つくらなくてもいいのではないかと思っていた」と明かすが、「物と心がともに豊かな理想の社会を実現し、人生の幸福の安定に貢献するのがパナソニックの使命であることを、いつも思い起こせるように、新たなスローガンを掲げることにした」と語る。
パナソニックは、1932年5月5日に、第1回創業記念式を開いた。パナソニックの創業は1918年3月13日であり、すでに14年で経過していたが、このときを第1回創業記念式としたのは、松下幸之助創業者が「事業経営は、人間生活に必要な物資を生産する聖なる事業である」と考え、その考えをもとにして改めて創業する意思を示したことが背景にある。
松下幸之助氏は、「産業人の使命は、水道の水のごとく、物資を無尽蔵に提供し、無料に等しい価格で提供し、それによって、人生に幸福をもたらし、この世に楽土を建設することができる」とし、このときを「真の使命を知る日」と定義。創業命知の1年目に位置づけた。いまでも、パナソニックの創業記念日は、正式な創業日の3月13日ではなく、創業命知の5月5日となっている。
楠見グループCEOは、「この時の式典では、創業者が語った水道哲学が有名だが、同時に、250年計画を打ち出している点も重要である。真の使命を達成するために、建設時代10年、活動時代10年、社会への貢献時代5年を合わせた25年間を1節とし、これを10節繰り返すという250年計画である。精神的な安定と物資の無尽蔵な供給が相まって初めて人生の幸福が安定することが示されている。だが、このことを私たちは忘れていた。パナソニックの真の使命は、人生の幸福を安定させることである」と改めて強調した。
この考え方が、「幸せの、チカラに。」という新たなブランドスローガンになっているという。
その上で、「幸福が安定するという言葉を英語にすると、サステナブルハピネスになる。これは、いまでいうウェルビーイングである。ウェルビーイングについて、多くの企業が語るようになったが、パナソニックは、90年前から、それを目指していた会社である。ウェルビーイングは、パナソニックにとって、新たな取り組みではなく、経営の基本や原点に立ち返る取り組みである。『幸せの、チカラに。』は、経営の基本に立ち返るという点で、また、私が最もやりたいことにフィットした言葉であった」とする。
そして、「社員のウェルビーイングは、まだまだ達成されていない。社員に苦労を掛けており、必ずしも、ウェルビーイングにはなっていない。ミドルマネジメントの負担もそのひとつ。社員にとっても、安心して、自分の全力を傾けて挑戦できる環境があり、その挑戦が評価されて、お客様に喜んでもらうことに、仕事のやりがいがある。それが担保されなくてはいけない。パナソニックグループが競争力を強化する上で、ウェルビーイングは、重要な要素であると考えている」と述べた。
楠見グループCEOは、就任以来、松下幸之助氏の言葉を数多く引用してきた。CEO就任以来、創業者と向き合う時間が増えているのだろうか。
楠見グループCEOは、自らのスマホを取り出しながら、「創業者に関する書籍は数多く出版されている。私のスマホには、いつでもKindleで読めるように、重要な本はほぼ入れてある。いつでもどこでも読むことができる」と笑う。また、「社内アーカイブがあり、キーワードを入れれば創業者の言葉を検索することができる」とする。
「創業者と向き合う時間を取るというよりも、知りたいと思ったときにいつでも知ることができる環境が整っている。Yammerで発信したいことがあるときに、創業者はどう言っていたかを知りたいと思えば、すぐに検索できる」とする。
楠見グループCEOのスマホには、多くの書籍のアイコンが画面に表示されていた。「創業者のマテリアルも、デジタルトランスフォーメーション(DX)している」と笑ってみせた。
楠見グループCEOは、2021年度と2022年度を、「競争力強化の2年間」として経営を進めている。
では、これまでの1年で何が変わったのか。「さまざまな事業があるなかで、グループ全体が一気に変わるというのは難しい」と前置きしながら、「だが、変化している事業は変化している。現場での改善の速度がどんどん上がり、これが、事業領域や経営領域における競争力強化につながっている」とする。
その例としてあげたのが、現場革新への取り組みである。改善思想とデジタル技術によって、サプライチェーン全体のオペレーション力を強化。さらに4月に、楠見グループCEO直轄のオペレーション戦略部を設立するとともに、事業会社ごとに専任の「伝承師」を任命して、あらゆる現場でムダ取り活動を推進。Blue Yonderの社内活用によって、実需起点でのPSIの自動立案や、画像認識AIを活用した作業動線などでのムダを分析し、可視化し、改善する取り組みが始まっている。
「これまでのパナソニックは、事業計画を立てて、その計画を達成することに主眼を置いてきた。だが、そのこと自体が競争力強化を阻害してきた。30年間やってきたので、その考え方が抜けきらない。ではどうするか。この職場であれば、こういうツールを入れれば、改善のスピードを上げていけるといったことを実感してもらい、自分のところではどうするのか、ここはどうするのかといったことを考えてもらわなくてはいけない。いままで通りのやり方で改善するのではなく、AIやデジタルの力を使えるところはそれを使っていく。全社一律ではなく、まずは取り組み事例が出てくることが重要である」とする。
だが、楠見グループCEOが指摘するように、30年間やってきた手法から抜けきるのに時間がかかるのも確かだ。
「現場では、変え方がわからないという声があるのも確かである。少しムダがあっても、いままでのやり方で、営業利益率が5%に達していることで、安心してしまっている事業もある。それでは進歩がない。現状を良しとするのではなく、常に改善する意識が必要である」とする。また、「課長をはじめとしたミドルマネジメントに負担がかかりすぎている。内部調整や資料作成、労務管理に手間がかかり、本来やらなくてはならない仕事である知恵を集めて、本業の仕事に集中することができていない。キャリア採用者からは、『前の会社ではこんなことはやっていなかった』と言われることも多く、それが現場の改善のための阻害要因になっている」とする。
競争力強化に向けた現場革新の取り組みは、2022年度においても、引き続き重要な課題になるといえる。
一方、パナソニックグループでは、「一人ひとりが活きる経営」を打ち出し、従業員一人ひとりの個性が最大限に活きる環境づくりを推進していく考えを示している。
楠見グループCEOは、「人材への投資は、財務指標だけで見るのがすべてではない。それだけを見ていると経営を誤る。人に投資をすると、財務帳票の上ではコストになるが、財務帳票には出ない大きな資産が生まれる。単に、教育に対する投資だけでなく、自分の能力を超えるような挑戦して、失敗しても、そこから学びを得てもらうことも会社にとっては大きな投資である。一時的にはロスがあるが、次にはいい仕事につなげてもらえればいい。そうした考えで人材投資を捉えている」と述べた。
なお、注目を集めている週休3日制の導入については、「週休3日制が採用できるかどうかは、職場によって違ってくるだろう。検討主体となるのは事業会社であり、職場に応じて検討してもらうことになる。パナソニックホールディングスも個別に検討することになる。週休3日制は、個人の事情によって選択できることが大事であり、2日制に戻りたければ戻れるようにもしたい。柔軟な制度設計にしておきたい」などと述べた。
パナソニックでは、環境戦略として、「環境ビジョン2050」とともに、新たにグループ長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を打ち出し、2050年に向けた削減インパクトに向けた具体的な数値目標に、現時点の全世界CO2総排出量の約1%にあたる3億トン以上の削減インパクトを目指すことを発表している。
この狙いについて楠見グループCEOは、「これまでは、使うエネルギーと創るエネルギーの比較によって目標を定めていたが、系統電力を再生エネルギー化していくという動きが急加速しており、それを利用すれば、カーボンニュートラルになってしまうことがわかった。本当にそれでいいのか。地球温暖化の影響がさまざまな形で出てくるなかで、少しでも早く、その影響を軽減しなくてはいけない。そこで、2050年に向けた目標を再設定した」とする。
また、楠見グループCEOは、「私には、まだ孫がいないが」と前置きしながらも、「30年後には、孫が不自由な生活をしていることになってはいけない。私たちが、いま不自由なく生きている世界を、次の世代、その次の世代にも引き継いでいく責務がある」と強い口調で語ってみせた。
「パナソニックグループが、それぞれの事業を通じて、圧倒的な省エネ商品を開発し、BtoB向けにはCO2排出量削減の提案を行い、選択する際に、環境負荷が小さい商品を選んでもらえる社会を作ることにも貢献したい」と述べた。
環境戦略は、楠見グループCEOが最も力を入れている方針のひとつであり、これまでの社長会見のなかでも必ず触れてきた内容だ。約30年という長期戦略ではあるが、電気を使って動かす商品を作り続けてきたパナソニックが、より現実に沿った形で、目標を設定しなおしたことは大きな意味がある。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」