起業家をはじめ、自社の商品・サービスを提案することが多いビジネスパーソンにとって、プレゼン力は重要なスキルだ。しかし、どんなに自分達の事業やサービスについて熱を込めて話しても、相手に響かないことがある。
ここでは、2019年に歯科矯正サービス「Oh my teeth」を共同で立ち上げ、Onlab第21期「DemoDay」最優秀賞&オーディエンス賞。ICC FUKUOKA 2022「D2C&サブスクカタパルト」(ピッチの動画はこちら、ピッチの資料はこちら)で優勝した僕が、ピッチ準備で使ったフレームワークや、あえてしなかった10のことを複数回に分けてお伝えする。
自分のプレゼンには何が足りないのか迷ったとき、試してほしいのが相手の感情にフォーカスすること。僕自身、ピッチ準備する際はいろいろな方や本からフィードバックやエッセンスを得ている。参考にした書籍は「100%共感プレゼン」(ダイヤモンド社)、「Pitch ピッチ 世界を変える提案のメソッド」(インプレス)、「未来を創るプレゼン」(プレジデント社)。ピッチの準備ではデロイトトーマツベンチャーサポート代表の斎藤祐馬氏、ICCパートナーズ 代表の小林雅氏、認定NPO法人 e-Education代表の三輪開人氏、WAmazing 代表の加藤史子氏にお世話になった。今回の連載を通して、少しでもみなさんに還元できれば幸いだ。
いきなり矛盾するようだが、僕はピッチ大会で優勝することをKPIにしなかった。優勝するつもりで準備を進めたが、優勝に固執するのをやめた。優勝にこだわりすぎると、ほかの参加者に「勝ちたい」という思いが強くなるあまり、大目的である「事業成長」から外れるようなピッチになってしまうからだ。
たとえば僕は当初「審査員に自社サービスの良さをわかってほしい」という想いから、“ピッチのためのフレーズ”を準備してしまっていた。いわば「借り物の言葉」を使っていたため、うまく聞き手をストーリーに引き込むことができていなかったのだ(詳しくは「8. 共感を求めない」のパートで紹介する)。
僕は優勝を目指しつつも、重要な別のKPIとして「大会後、協業したい企業に所属する審査員8名全員に声をかけてもらう=興味を持ってもらう」ことを設定した。優勝とは別のKPIを設定し、ターゲットを絞ることで、伝えるべき情報の取捨選択が明確にできるようになった。たとえば店舗出店計画の話や、通常のピッチよりもユーザー体験を説明するパートを厚めにしたのもこの戦略からだ。
結果、大会後に国内大手商業施設5社から出店のお誘いをいただいたり、データから顧客体験向上を支援するICCサミット FUKUOKA 2022のゴールドスポンサーであるプレイドとの協業もすでにスタートしている。
ピッチの準備にあたり、ざっくり以下のようなToDoを書き出した。
ピッチにはこうした多くの準備が必要だが、時間は限られている。ICCカタパルトの場合、準備期間は約2週間。初めに、「目的の明確化〜ピッチ研究:2日間」「ストーリー作り〜スライド作成:6日間」練習+微調整:6日間」というざっくりとしたスケジュールを立てた。
また、それぞれのToDoを(1)自分がやった方がいいもの「目的の明確化・ストーリー作り・スライド作成」と(2)誰かに任せた方がいいもの「スケジューリング・ピッチ研究・データ集め」に分けた。
特に凝り性の僕は、ピッチ研究や素材集めが趣味みたいなものなので、やり出したら止まらない。基本的なピッチイベントの情報(審査員、ピッチ時間、質疑応答の有無)や過去優勝者のプレゼン動画などの資料をインプットしたあとは、メンバーにお任せした。
ICCカタパルトなど複数のピッチ大会で優勝経験のあるWAmazing 代表取締役の加藤史子氏は、デザインは外注し、得意のストーリー作りに注力されたそう。ただし、あくまで我々のような創業間もないスタートアップにおいて、ピッチは創業者の仕事。練習に付き合ってもらうなど、メンバーの業務時間を過度に奪うことはしないように気をつけた。メンバーにフィードバックを求めない理由は「6. チームメンバーにアドバイスを求めない」で解説する。
ピッチはつい「自分が語りたいこと」ばかりを盛り込んでしまいがちだ。僕自身も「もっと聞き手の感情を考えた方がいい」というフィードバックをたくさん受けてきた。大切なのは、あなたが「観客(審査員)にどう感じてほしいか?」を考えること。熱量を込めるのと同時に審査員の感情をつぶさに客観視しながら構成を練ることが重要だ。
もっというとピッチ後にどのようなアクションをしてほしいのか。審査員の感情をどれだけ具体的に想像できるか否かが、勝敗を決すると言っても過言ではない。心に残っているプレゼンを思い出してみてほしい。その理由を考えると、「自分の決断の後押しになった」「マインドが変わるきっかけになった」など、感情の動きから次のアクションにつながったものが多いのではないだろうか。
このような「審査員の感情の動き」を細かく整理するため、僕は表に整理して、必要なコンテンツを考えていった。以下は感情の動きの部分を抜粋したもの。
こうしてできたのが「感情トレースシート」だ。これは、縦に感情の流れ、横にコンテンツの要素を並べ、ひと目で感情の動きが把握できるものになっている。アジェンダに沿ってパートごとに審査員の感情を分析し、メンバーのマーケターと議論を重ねながら、発言やスライドを修正した。
たとえば、ICCカタパルトでは登壇が13人中最後から2番目だったため、審査員に再度注目してもらう必要があると予測。冒頭で審査員の「面白そう(儲かりそう)だから聞いてみるか」という感情を引き出すため、当初は後半に用意していたビジネスの成長性を示すスライドを、あえて冒頭で示すなどの工夫をした(詳しくは「4. パート間の接続を気にしない」のパートで解説する)。
2回目は、4〜7つ目の「やらなかったこと」として、
西野誠
Oh my teeth 代表取締役CEO(Twitter)
1994年生まれ。学生時代に物流スタートアップ「オープンロジ」にて創業期を経験。新卒でワークスアプリケーションズに入社し、大規模基幹システムの開発業務に従事。2019年10月、Oh my teethを共同創業。代表取締役CEOに就任。日本初の歯科矯正D2Cブランド「Oh my teeth」をローンチ。Onlab第21期「DemoDay」最優秀賞&オーディエンス賞。ICC FUKUOKA 2022「D2C&サブスクカタパルト」優勝。
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