ツクルバとマネーフォワードは4月11日、共同で「マネーフォワード 住まい」のサービスの提供を開始すると発表した。住み替えが当たり前になる時代を目指し、所有する不動産の査定額が把握できるほか、住宅ローン情報との組み合わせにより、売却した場合の手残り額を現在から将来に渡ってシミュレーションできる。
ツクルバとマネーフォワードは、2021年7月に業務提携を発表。今回が初の両社共同事業になる。マネーフォワード ホームカンパニー執行役員COOの木村友彦氏は「マネーフォワードでは、お客様のお金に関する課題解決に取り組んでいるが、そのためにはパートナー企業との協業が必要。不動産は家計の中でも大きな割合を占め、人生最大の出費とも言える。その領域に踏み込んでいきたかった」ときっかけを話す。
マネーフォワード 住まいは、自宅不動産の査定額が数秒でわかるというもの。同時に売却した場合の手残り額を現在から将来に渡ってシミュレーションすることで、売りやすさを診断できることがポイントだ。東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県の集合住宅が対象で、マンション名や築年数、広さなどを入力することで、AI査定で相場価格を即座に導き出される仕組み。名前や電話番号などの登録は不要だ。対象地域は順次拡大していく予定だ。
「物件を売る気がなくても簡単に査定額がわかることが特徴。査定額とローン情報を組み合わせることで、売却したらいくら手元に残るか、または残らないのかを確認でき、今が売りやすい状況なのか、売りにくい状況なのかも診断できる」(マネーフォワード ホームカンパニー HOME本部新規事業部 リビングフォワードグループ リーダーの松山佳代子氏)と手軽さを打ち出す。
ユーザーターゲットに据えるのは、すでに自宅の売却を考えている顕在層と、自宅売却は考えていないが、いつか売ることがあるかもしれないと想定している潜在層。「潜在層まで幅広く使っていただくことで、売却時はもちろん、リフォームや住宅ローンなど、ビジネスを広げていける。この部分の層まで掴んでいるサービスはまだないと思う」(松山氏)と、新たなユーザー層獲得に踏み出す。
「自宅の売却は年配の人が中心と思われていたが、最近の若い世代には住み替えを想定して自宅を購入している方もいて、売却にはかなり積極的。ツクルバは住み替え時というスポット的なお付き合いになってしまいがちだが、マネーフォワード 住まいがあれば、長いお付き合いが可能になる」とツクルバ 執行役員 cowcamoサプライサイド事業部 事業部長の山田悠太郎氏はユーザーとの関係性の変化を予想する。
マネーフォワード 住まいは、ユーザー数約1200万人を誇る、家計簿アプリ「マネーフォワード ME(ミー)」から導線を引くことで「家計簿を見に来たついでに査定額を知ってもらえるようにした。査定額は毎月自動更新され、その都度メールでお知らせする」(松山氏)と、日常では意識しづらい自宅の査定額を身近に知ることができる仕組みを整える。
「マネーフォワード 住まいは、マネーフォワード MEとの連携により、多くのユーザーと関係性を維持できる。不動産の資産管理だけだと続けられないという人でも、家計簿を見るついでに資産確認ができれば、確認しやすいはず。暮らしの中に紐づくことで、サービスを定着させ、今後のサービス開発などにもつなげていきたい」(山田氏)とマネーフォワードが持つユーザー基盤に期待を寄せる。
一方、マネーフォワード側は「今回の開発はマネーフォワードがメインで担当したが、マネーフォワードは不動産仲介の実業をやっていないので、ユーザーのペインが掴みづらかった。この部分をツクルバの方に聞いたり、実際にユーザーインタビューなどを繰り返すことで探っていった」(松山氏)と開発においては両社の強みをかけ合わせる。
「外部の方とこうしたプロダクトを作った経験があまりなかったので、作り方、進め方において参考になる部分が多かった」(ツクルバ cowcamoサプライサイド事業部 副事業部長の森勇貴氏)と話す通り、社員の一部が出向するなど、密な関係性を築いていったという。
開発期間は約9カ月。「お客様のペインの部分を探ることにもっとも時間をかけた。この部分をきちんと探り出せたのは、不動産業であるツクルバの方がいたからこそ」(松山氏)とし、森氏も「不動産業としての経験からアイデアは出せるが、私たちだけでは専門的すぎたり、考えすぎていた部分もあった。壁打ちしながら作れたのはよかった」と共同開発ならではのメリットを挙げる。
「異業種による2社の業務提携ということで、企業文化が違う部分も多かったが、ここまでうまく形にできたのは『ユーザーにとって何が一番いいのか』というゴールをともに共通認識として持てたから。ここがブレなかったことで、強みをかけ合わせたものが作れた」(木村氏)と話す。
今回、AIによる査定に加え、写真など任意の情報を登録するとプロによる独自の内装査定も受けられる仕組みも用意する。「リノベーションしている方も多いので、その部分はツクルバのエージェントの方に見ていただくことで、査定することが可能。ここまでできるのはツクルバと組んでいるからこそ」(松山氏)とサービスを作り込む。
「ツクルバでもお客様に不動産売却について聞くと『よくわからないことが多い』という回答をたくさんいただく。これは不動産が情報非対称性が強い商材だからでもあるが、住み替えが一般的になっている米国では、住んでいる家の価値を調べるのは当たり前のこと。こうした文化が日本でも定着していければいいと思う」(森氏)と話す。
「野菜の値段の高い安いは皆さんご存知。なぜなら取引回数が多いから。家の売買はそれほど頻繁ではなくても、毎月スマートフォンに自宅の資産価値が届けば、今高いのか安いのかを感覚的につかめる。そういった不動産の相場観の形成を狙っていきたい」(松山氏)と今後を見据えた。
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