DeNAに聞く「MIKU BREAK」事前アプリの狙い--ゲーム活用でライブ体験を特別なものに - (page 2)

ゲーミフィケーションの要素を用いて“ミクとヒップホップの境界をブレイク”

 今回話しを伺ったディー・エヌー・エーの近藤一仁氏は、ソーシャルゲームのプランナーや3D演出などの経験を経て、今回のMIKU BREAKアプリにおけるディレクションやシナリオを担当。DeNAとして、MIKU BREAKアプリの企画ディレクションならびに、2Dイラストやドットイラストのクリエイティブ制作、アプリにかかわるライブ内の演出部分で関わっているという。アプリ制作においては、DeNAにおけるゲームのノウハウやイラスト制作の強みが活かされていると語る。

ディー・エヌー・エーの近藤一仁氏
ディー・エヌー・エーの近藤一仁氏

 ティーアンドエスとDeNAは、かねてからMRやXRに関する研究や実証事件を共同で手掛けてきたという。ライブやイベントといったリアルな体験の提供だけではなく、事前や事後にもなんらかの体験を提供することで、ライブ体験をより豊かで拡張したものとする。その領域を開拓できるのではと、議論を重ねていたという。

 そして、バーチャルに限らずリアル会場を含めたインタラクティブ体験と技術を掛け合わせ、時間と場所を超えたインタラクションを軸として、バーチャルとリアルが溶け合い、現実の在り方を根底から変えるライブエンターテイメント体験を提供するプラットフォーム「RimiX」のプロジェクトを進めており、そのファーストステップとなるのが、今回のMIKU BREAKとしている。

 近藤氏自身が本企画が立ち上がった当初“ヒップホップを知らない”“CONDENSEも知らなかった”という背景をもとに、観客として参加するのであれば、ヒップホップとCONDENSEを知っていたほうがより面白くなる感覚があったと振り返る。このことを踏まえ、ヒップホップを知ってもらい、ミクとCONDENSEと出会うストーリーを通じて、ライブが特別な体験となるようなアプリとして制作したという。

 近藤氏はMIKU BREAKアプリについて、いわゆるゲーミフィケーションのような形でゲーム要素も盛り込んだ“ロールプレイング型ライブアプリ”のような感覚で制作したと語る。

 「ライブは、その日その場所で楽しむ一点集中型の楽しみであり、一方のアプリはいつでもどこでも楽しめるもので、対極な位置にあるものととらえた。イメージとしては、ライブがRPGにおけるボスバトルで一番楽しめるところ。であるならば、RPGは事前に街に行って情報を集めたり、装備やアイテムを手に入れるといった準備をする楽しみもあり、それが思い出としてあるからこそボスバトルが一連のドラマとなって彩られるものとなって、より楽しめるものになる。単にライブを見に来た観客という立場ではなく、ミクもCONDENSEも知っていて、このライブに至るまでの経緯や想いも知っている感覚を持って行くと、特別感が得られる。それをコンテンツとして落とし込むことを目指した」(近藤氏)

 加えて、昨今ではARゲームのように現実のリアルな場所を舞台にしたゲームもあるなか、ミクが実在する感覚も目指したという。ステージ上でもミクは実在するような振る舞いをするのだが、それだけではなくライブ2週間前からの交流を通じて一緒に過ごしたような感覚を持たせ、ライブ後にはいなくなってしまうのだか、“いなくなること”で実在感をより持たせたかったと、その意図を説明した。

 ユーザーが参加できる要素も多く取り入れたのも、特徴という。ライブは“見る”楽しみがあることは前提として、参加するというレイヤーも増やして、いろいろ楽しみ方ができることも意識したという。前述したように育成モードを通じて育てたミクが登場したり、ラップモードのユーザー作品をステージで披露。ほかにも、アプリを通じてライブのオンライン視聴もできるようになっていたが、演目によってはオンライン視聴者の参加によって、演目が成り立っていることを示すといったことや、オンライン視聴者のコメントが、ある場面ではステージ上で流れて反映されるといった、専用の演出も用意して、おいてきぼりにならないような工夫は意識したという。

 「ライブにおいては“見る”という楽しみが当然としてあるなかで、“参加する”レイヤーはもっと増やせるものと感じていた。なので、いろいろな楽しみ方を提示することは意識した。特に初音ミクというカルチャーは、みんなが主役。そして、みんなで何かを作るというものがある。ユーザーもアプリを通して介入するかのように参加できることによって、その参加の仕方によって別の景色が見えたり、オンライン視聴者を置いてけぼりにしない形で一体感を生み出せたと感じている」(近藤氏)

 アプリ制作にあたっては、CONDENSE側ともかなり議論を重ねたからこそ成り立ったものと振り返る。ミクがいろんなものに宿るというステージ上での展開があるため、アプリにもミクが宿るような感覚が欲しいと提案したのは、CONDENSEのダンサーで演出家としても活動している植木豪さんだったという。またラップモードについても、ステージ上でボタンを押すと音が鳴る電子楽器を使う演目があり、ミク自体バーチャル・シンガーでもあることから親和性が高く、体験を通して身近に感じてほしいという狙いから導入したとも語る。

 「自分自身もあまり触れてこなかったように、ミクに興味がある方でライブに来る方は、ヒップホップの知識に乏しい可能性が高いと推測していたし、それを前提にアプリは制作した。ヒップホップは見た目や雰囲気で怖いという先入観も少なからずある。でもMIKU BREAKの名を示す通り、ミクとヒップホップにあるカルチャーの境界もブレイクしたかった。今回『SPACE』という曲がメインとなってるが、これは“スペースを埋める”ことを示す曲。ミクとヒップホップとの間にはスペースがある。それをどう埋めていくか、ということをCONDENSEが考えて表現されたもの。アプリでは、どういう思いでこの曲を作って、どのようにしてできたのかを描いた。CONDENSEのキャラも、ミーティングで実際に見て感じたものを入れ込んだ」(近藤氏)

テックダンスフュージョン集団「CONDENSE」
テックダンスフュージョン集団「CONDENSE」
「MIKU BREAK ver.1.0」での、CONDENSEによるパフォーマンス
「MIKU BREAK ver.1.0」での、CONDENSEによるパフォーマンス

 今回でいえば、初音ミクの名前を知っている人は多数存在し、ゲームは昔に比べたら一般化している状況があるなかで、ヒップホップの入口にゲームを用いたところがあると踏まえて、今後はゲーム要素を用いることで、そのアーティストのファンではなかった方も、関心を持ってもらったり、ライブなどへ足を運んでもらえるものを提供していくことが次の理想と語る。最近では、あえて顔を出さないような世界観を重視しているアーティストも多く、いろんな想像力も生まれる。こうした世界観を表現するのは、主にミュージックビデオ(MV)となるがゲームも相性がいいと、近藤氏は感じているという。

 「アーティストが描く大きな世界観を、おおむね4分程度におさめて曲という形にしているが、イラストや物語としても表現できるものもある。これまでは映像作品としてMVがわかりやすく伝える手段になっているが、“アーティスト×ゲーム”のような新しい切り口があってもいいし、アーティストが深い世界を持っているからこそ、表現の余地があってゲームでも活かせるものがあるのではないか。ゲームの可能性をもっと広げたいという想いもあるし、フィクションが好きでもあるので、ライブに新しい物語の付与するという取り組みは、今後も挑戦したい」(近藤氏)

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