CNET Japanは、2月21日〜3月4日の2週間にわたりオンラインカンファレンス「CNET Japan Live2022」を開催した。3月3日には、パナソニックの社内ビジネスコンテストで採択された6チームが登壇。新規事業創出を目指した事業アイデアをピッチ形式で発表したあと、Q&Aなどを通して視聴者ともリアルタイムに意見交換した。
パナソニックは、大企業内アクセラレータープログラムの先駆けとして、2016年に新規事業創出プラットフォーム「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)」をスタートした。「未来のカデンをカタチにする」というミッションを掲げ、社会課題や顧客の多様な課題を解決するような“未来のカデン”を生み出すことを目指して活動している。
Game Changer Catapultが重要視するのは、起案者やメンバーの想いと熱量。社内の技術ありきではなく、外部との連携を前提とし、「誰の何を解決するのか」を解像度高く掘り下げ、解決策を考えていく。
これまでの6年間で生まれた「未来のカデン」の種は約220件。そのうち3件が事業化を果たした。採択されなかったアイデアについても、チームに継続検討の意志がある場合はブラッシュアップのサポート体制があり、現在事業化を目指して10件程度のテーマが検証中だという。
冒頭に登壇したGame Changer Catapult事務局の向奥裕基氏は、「本日視聴下さっている皆さまには、テーマに共感いただいた共同開発者として、ぜひ、忌憚ないご意見やご感想いただきたい」と挨拶した。
ここからは、今期選ばれた6チームの事業アイデアの概要と、当日の視聴者とのやり取りをご紹介する。なお、6チームの詳しい活動内容は、こちらの記事でも紹介している。
1人目の登壇者は、チーム「FLOWUS」リーダーの大庭めぐみ氏。自宅浴室で蒸気浴をする新習慣や、置き型のカデンを紹介した。浴室のシャワーホースに接続すると高温の蒸気が出て、約3分で浴室がサウナのような温感帯になるプロダクトだ(所要時間は使用環境によって異なる)。
メンタル不調で休職した30歳前後の働く女性が、復職直後こそ大きな不安を抱えていることに着目した。1人暮らしの賃貸住宅の方でも使えることを大前提に、プロダクトを検証中だという。提供価値は3つ。「ぐっすり寝られて、スッキリ起きられる」「嫌なことを忘れ、気持ちをリセットできる」「好きな時に自分の場所でできる手軽さ」だ。
大庭氏は、「家電のボタンを押す方や、シャワーをひねる方が、必ずしも元気な状態ではないという視点は、従来の家電にはなかった切り口。心と体の不調の波を穏やかにし、自分を前向きにさせる新習慣をお届けすることで、不調に悩む女性の不安を減らしていきたい」と話した。
視聴者から、「ヘルスケアアプリと連携して、ミスト温度や時間を推奨したりできるのでは」とQ&Aで意見が寄せられると、大庭氏は「ご指摘の通り、アプリによる機器連携や個人最適化は、安全面からも重要で、より価値を感じていただけるポイントになる。今後の展開としては機器連携も視野に入れ、パーソナライズ化も検討したい」と回答した。アロマオイルとの連動や、寒冷などの地域差を超えた最適化など、ユーザー目線でのアイデアも多数寄せられていた。
2人目の登壇者は、チーム「ツヅクンデス」リーダーの薦田亮氏。高齢者の下半身の筋力維持を助けるソリューションを提案した。自力歩行寿命の延ばすことで、家族に介護の負担をかけない、同時に高齢者ご本人の個人の尊厳を傷つけないで、老後も親子で笑顔のまま過ごせるという。
着眼点は、「既往歴や病歴のある前期高齢者には、運動する必要があるのに続かずやめてしまう方が少なくない」こと。ツヅクンデスは、140名以上へのインタビューや、大学教授へのヒアリングなどを経て、筋力維持を生涯続けられることを目指した。
ソリューションの特徴は4つ。「自宅でできるオンライントレーニング」「既往歴や病歴に適した運動プロドラムの提供」「数値の見える化や、リアルタイムフィードバックによる安心感」「仲間や講師とつながれるコミュニティ形成」だ。現在すでにサービスの無償検証を実施中で、ユーザーからの前向きなコメントに手応えを感じているという。
視聴者からは、「高齢者がスマホやPCを使うサポート体制は」「無償検証はどこで行なっているのか」など、事業開発に関する具体的な質問が寄せられた。薦田氏は、「無償検証はパナソニックグループ全体で社内公募したが、今後は外部からの募集や、有償検証も予定している」と話して意欲を示した。「ツヅクンデスでのPoCを検討したい」という視聴者からのアプローチに、薦田氏がその場で連絡先を伝えるという一幕もあった。
3人目の登壇者は、チーム「KagaMe」のメンバーである多田薫子氏。マインドフルな思考法をサポートする鏡型デバイス「KagaMe(カガミー)」を企画した。出来事や物事に対して、ネガティブな感情を付け加えて評価し、無用なストレスを無意識で溜め込む“マインドレス思考”の癖を手放すためのソリューションだ。
多田氏は、「いまありのまま、その瞬間に意識を向け続けるという、マインドフルネスな状態を、日常的に作ることが大切だ」と訴えた。そして、100回以上のインタビューを実施した結果、「思考法を変えていく、3つのステップ」にたどり着いたことを説明した。
3つのステップとはこうだ。まずは、「思考法を変えることで、自分自身が生きやすくなる」と気づくこと。
そして、マインドフルネス状態を手に入れるために、最も良いとされている「呼吸瞑想」を実践すること。KagaMeと一緒に瞑想して、正しい瞑想の仕方を学び、瞑想時の状態を分析したフィードバックを受ける。
このように、KagaMeが“日常的に自分と向き合うためのデバイス”となることで、継続のモチベーションを上げ、思考法の変容を促していく。
視聴者から「自己啓発との違い」を問われると、多田氏は「大きな違いは、日常に無意識化を落とし込めるかどうかだ」と回答した。また、ビジネスモデルや収益化に関する質問も寄せられ、当日参加したチームメンバー総動員でチャット応対した。想定顧客からの「手軽に実施したい」という声をヒントに、鏡デバイスのサブスク、アプリ課金などのビジネスモデルを鏡というデバイスに縛られることなく広く検討中だという。
4人目の登壇者は、チーム「COYA(コーヤ)」のメンバーである三重野雅裕氏。初めて育児をする夫婦のための、2人の主体的な育児参加を実現するサービスを紹介した。三重野氏は冒頭、「リーダーの石崎が登壇予定だったが、ちょうど第2子が誕生して、COYA事業検討を通じて育児への理解が深まったことから、育休を取得中」と話した。
COYAは、お母さんはワンオペ育児の不安や孤独感から、お父さんは父親として認めてもらえないストレスから、ともに解放されて“2人で親になる”ことを目指すという。夫婦がすれ違っていく原因としては、「2人の意識や行動の差」に着目した。具体的には、お父さんの残業や通勤による育児参画の減少や、「お母さん1人でも大丈夫だろう」という勝手な勘違いなどだ。
解決策として提案するのは、「出産直後のお父さんの意識や行動を低下させない」ためのスマホアプリ。具体的な機能は3つ。「目標設定」と「育児状況やストレスの共有」、いつ何をすべきかという「育児To Doの見える化」だ。
「検証では、2人で育児をやっている納得感を得られた、というコメントもあった」と三重野氏が話すと、視聴者からはアプリの使用について「女性の方が役割は多くなりそう。実証実験の結果はどうだったか」と質問が寄せられた。三重野氏は、「育児内容を入力してもらう際に、気分を入れて頂く形でハードルを下げようと考えている。さらに自動入力も検討中だ」と答え、今後は有償検証の実施も予定していると明かした。
5人目の登壇者は、チーム「Ipsum(イプソマ)」リーダーの山崎智史氏。発達に特性があるお子様の強みを見つけ伸ばす教育サービスを紹介した。
いわゆる発達障がいやグレーゾーンと呼ばれる子を持つ親は、「親がいなくなった後、1人で生きていけるのか」など、子の自立に大きな不安を抱えている。また、子の特性を個性として大切してあげたいが「具体的な方法が分からない」「十分に相談できる環境がない」という困りごともある。
そこで現在、4つの機能を検討中だ。診断テストなどで「強みを見つける」、おもちゃやワークショップなどで「強みを伸ばす」、遊ぶ様子をセンシングする「適性の分析」、専門家に「相談できる」サポート機能だ。検証では、強みの発見が自己肯定感につながり、精神的に安定することで苦手なことも頑張れるようになる、といった顧客の声も得られているという。
山崎氏が、重度の知的障がいを持つ弟の社会的自立に苦心した経験があったことから、ユーザーインタビューでも深いインサイトにリーチできたようだ。視聴者からも、「いろんなタイプの子供がいると思う」「機能をもっと具体的に知りたい」という意見が寄せられ、山崎氏は「様々な方と協力していきたい。一緒にやれる方はぜひご連絡を」と呼びかけた。
最後の登壇者は、チーム「コデカケ」リーダーの松田淳一氏。身近にいる聴覚障がいを持つ方が、いつも困った顔をしていると気づいたことをきっかけに、プロジェクトを立ち上げたという。行きたいところへ気軽に楽しくおでかけができる、「後方接近察知デバイス」と「ルート提案・案内サービス」を紹介した。
聴覚障がい者のお出かけには、「移動中の課題」と「事前準備での課題」という2つの課題がかけ合わさった、大きな障壁がある。前者は、後方からの接近物が分からないため、危険かつ疲れること。後者は、ストリートビューを見ておくなど準備の煩わしさや、ナビ通りに行って遠回りになった失敗などで、外出意欲が損なわれることだ。
「後方接近察知デバイス」は、首掛け型と手首装着型の組み合わせ構成。レーダーを内蔵した首掛けデバイスで接近物を検知し、手首デバイスに振動で確実かつスピーディに通知することで、交通安全性の向上、緊張感や疲れの軽減、会話を楽しみながらの歩行を目指す。
「ルート提案・案内サービス」は、道幅、歩道の広さ、自転車の多さなどの条件から、好みのルートを提案する。おでかけ時には、予め設定したルートを手首デバイスに矢印のみで表示し、ナビに目線を奪われることなく安心して歩けるよう外出の心理的ハードルを下げる。
視聴者からは、「バッテリーは何時間もつのか」「高齢者や子どもにも転用できそう」という意見が寄せられた。バッテリーは6時間想定で、ユーザー層拡張も視野に入れる。次のステップは直近で、約1カ月間使用する検証を開始する予定だ。「健常者でもぜひ使いたくなるデバイス。商品化を期待している」とのコメントに、松田氏は「このような声がけはモチベーションアップにつながり非常にうれしい」と答えていた。
当日は、双方向のコミュニケーションで非常に盛り上がったが、最後に「共創の1番の価値とは」というカンファレンス共通の質問を向奥氏に問いかけ、同氏は以下のように答えて講演を終えた。
「これまで出会わなかった“既存知”が組み合わさるからこそ、新しい価値創造やイノベーションが生まれる。共創とは、新しい価値を生み出すためには、必要不可欠なもの。今回のような、多様なバックグラウンドを持った皆さまからご意見をいただける機会は、本当にありがたいと感じたし、いただいたコメントやフィードバックをしっかり受け止めて、これからも事業化目指して推進していきたい」(向奥氏)
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