不動産テックのハウスコムが目指す「多様性を源泉とした共創」から生み出される新しい変革とは

 「社内外の『知の結集』で生み出すイノベーション」をテーマに、2月21日から3月4日までの2週間(平日9日間・全18講演)にわたり開催されたオンラインカンファレンス「CNET Japan Live 2022」。初日のトップバッターは業界でいち早く不動産テックを導入したハウスコム代表取締役社長執行役員の田村穂氏が登壇した。「多様性は共創を生む」と題し、業界他社と共同展開するオープン・サービス・イノベーションラボ、新しいサービスを生み出すビジネスコンテスト、社会課題などをテーマにした社内プロジェクトなどについて語った。

右上がハウスコム代表取締役社長執行役員の田村穂氏。左上がCNET Japan編集長の藤井涼
右上がハウスコム代表取締役社長執行役員の田村穂氏。左上がCNET Japan編集長の藤井涼

 1998年創業のハウスコムは、全国に展開する賃貸仲介店舗をはじめ、管理業務では入居者側のエージェント(購買代理人)サービスを中心にビジネスを展開している。大東建託の子会社からスタートし、上場を経て現在は3つのグループ会社(宅都、ハウスコムテクノロジーズ、エスケイビル建材)を抱え、法人営業なども強化している。2018年にリアルで開催されたCNET LIVEにも登壇し、2015年からいち早く不動産DXに取り組んでいることを紹介した。今回は現在進行中の5つの共創事例を紹介した。

1. AI・ITベンチャー企業との共創

 世の中の背景として全てがネットで完結する世界観が広がり、「脱皮できない蛇は滅びる」というニーチェの言葉にもあるように、このままでは不動産業界は社会に取り残されるという危機感がある。「メイン事業である賃貸仲介の効率化は進めていても、それ以外のインセンティブマインドがなかなか上がらない。そこで、いろんな会社の知恵を取り入れ、構想の大きい事業をしていくためにAIやITを取り入れることを決めた」と田村氏は語る。そこで、IT・AI・データ分析・マーケティング等、さまざまな分野での知見や専門性あるベンチャー企業をも巻き込んだオープン・サービス・イノベーションラボを展開する。自らITベンチャー企業を数十社訪問し、共創につなげていくという活動は、ネットビジネスの成功事例を集めた著書でも紹介された。

オープン・サービス・イノベーションラボの活動は著書でも紹介された
オープン・サービス・イノベーションラボの活動は著書でも紹介された

2. デジタルネイティブ世代との共創

 顧客でもあり、デジタルネイティブでもある大学生とビジネスコンテストを実施し、併せて社外有識者とも共創し、顧客目線でさまざまなサービスを実装している。話題を集めた「オンライン接客・内見」をはじめ、2019年にリリースした「校区・学区検索」も学生のアイデアから生まれた。Googleストリートビューを使う「Map-地図検索」も業界初。AIで住みたい街を提案する「ライフスタイルリサーチ」も話題になった。

デジタルネイティブ世代との共創からさまざまなサービスが生まれた
デジタルネイティブ世代との共創からさまざまなサービスが生まれた

3. DX推進会議

 2021年3月に設置されたDX推進会議は、社内にDXの知見を取り入れることを目的にスタートした。最初は管理職向けの社内教育として月2回のオンライン会議を実施し、会議にはAmazonやGoogleなどの社外の有識者も参加してもらい、最新の情報共有やDX推進をサポートした。そこから生まれたのが、基幹システムをはじめ、ウェブサイト、ポータルサイトなどで顧客データを集積し、分析と解析を行うプラットフォームの構築だ。具体的には、成約賃料査定サービスや反響・成約分析ツールを開発し、オーナーレポート、外部アプリ向けの空間・地図マッピングなどに活用し、API連携も行っている。田村氏は「集積したデータをお客様に提供することで、情報のマッチング精度を向上している。プラットフォームの構築は社外の声とベンダーの協力が不可欠だった」と語る。

 ハウスコムでは、このDX推進会議の設置や社内のレガシーシステムを刷新し、データドリブン戦略をするための新たなシステム開発などの取り組みにより、経済産業省が定める「DX認定事業者」の認定を取得している。

DX推進会議からプラットフォームを構築
DX推進会議からプラットフォームを構築

4. 不動産事業者との共創

 不動産賃貸仲介業を中心に業界の持続的な発展を目的とした研究会「REAN JAPAN」を立ち上げている。ネットワークを通じて業界の知見を集約し、ノウハウの共有、知識の共有、業務効率化、価値創造に向けて、競争から共創へつなげる活動を行っている。さまざまな価値づくりや発信を行っており、例えば、S-FIT 代表取締役社長の紫原友規氏、誠不動産 代表の鈴木誠氏らと一緒に、業界で面白い取り組みしている人などをYouTubeで紹介したり、新卒研修などを実施している。今後さらに参加者を増やしたいとしている。

REAN JAPANの活動内容
REAN JAPANの活動内容

5. 従業員による共創

 より魅力ある会社にするために社内でさまざまなプロジェクトを立ち上げ、業務の役割や役職に関係なく参加できるようにしている。プロジェクトの内容は、ペーパーレスの推進や健康経営のための喫煙率を下げるといったものから、女性やLGBTQの働く環境づくりなどさまざま。

 「同様の取り組みは他社でもたくさんあるが、例えば障がい者と一緒に働く環境づくりでは、個別に部署を立ち上げるのではなく、すでにある職場環境の中でどのような働き方ができるかを考えるというように、新しい発想で社内に多様性を取り入れることを目指している点が他社とは異なる」と田村氏は言う。活動は社外からも評価されさまざまな賞を受賞している。「賃貸仲介に特化せずいろんなアイデアを出している。プロジェクトの存在を知って入社を希望したという声もあり、地道な活動だが成果はあると感じている」

多様性を重視したさまざまな社内プロジェクトを実施
多様性を重視したさまざまな社内プロジェクトを実施

 2015年から不動産業界の変革に取り組み、不動産テックの成功モデルと言われるハウスコムだが、当初は新しいことに対する抵抗もあり、どう浸透させるか苦労したという。「将来的に不動産業がITで変化するとわかっていたが、現場はお客様の目の前で説明したいという思いが強い。社内でも対応に力を入れなさいと指示しており、オンライン内見も最初はトップダウンで号令をかけて実施し、結果が出てようやく理解してもらえるようになった」

 田村氏自身も社内の意識変革は課題の一つとしており、そもそもどんなDXがあるのか教育することにも力を入れたいと話す。一方でオンライン対応はあくまでツールの一つだとしている。「ARやVRなどアバターを使ったサービスが登場するのは想像できるが、いきなりメタバースには移行しない。コロナ禍の時にデジタルで完結しようとしてみたが、物件を直接見たいというリアルタッチは残ると考えている」

 2月に間取り図販売のSaaS「らくマド」を開始するなど、業界のテクノロジー活用やオープンイノベーションは進んでいるが、全く新しいサービスやビジネスモデルはまだ登場しておらず、攻めのDXにまでは至っていないと田村氏は分析する。「不動産業に限らず普通は自分が持つリソースをオープンにしたがらないもの。しかし、成長には自社のリソースだけでなく、オープンイノベーションが不可欠だ。共創の必要性を理解している人たちと一緒にさまざまな課題に取り組み、真のDXにつなげたい」

 ハウスコムでは社員の行動規範であり、優先すべき価値基準として「THE HOUSECOM MIND」というキーワードを掲げている。14の項目があり、わかりやすい言葉に整理することで社内に浸透させている。中でも大切にしているのが多様性だ。「当社では共創の源泉である多様性を育むことに力を入れている。多様性とは、それぞれのアイデンティティを尊重し、自分自身を理解する一番の近道である」

優先すべき価値基準に「多様性」を掲げる
優先すべき価値基準に「多様性」を掲げる

 本カンファレンスでは、すべての講演者に対して「共創の価値とは?」という質問をしている。これに対して田村氏は「繰り返しになるが、共創の源泉は多様性であると考えている。そこから生まれてくるものが価値観を変革し、イノベーションの創出につながり、組織にとっては古い考え方から脱皮するために大事なことだと言える」と答え、カンファレンスを締め括った。

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