たとえば、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)や過去経験について会話する場合、わかりやすい成果や受賞歴、出場経験そのものだけに目を向けるのではなく、努力の過程で経験した喜びや苦労など、なるべく感情が動いたエピソードを引き出します。
わかりやすい例を挙げると、「思わずチームメイトと喧嘩になったエピソード」などは深掘りのし甲斐があります。何がきっかけだったのか、どうしても譲れなかった部分があったのか、どうやって解決に至ったのか…など掘り下げていくと、実は学生自身も気づかなかった個性や強みに辿り着くける可能性があります。そして、そうした「気づき」を共同作業によって見出すことができる面接は「心の動く、良い面接」だと思います。
ただ、「深堀り」といっても、実はなかなか難しいものです。内面が見えるエピソードを引き出すにはどうすればいいのでしょうか。具体的にどんな質問をすれば見えてくるのかわからないというお悩みを抱えている面接官は多いと思います。
私のおすすめは、「STAR」フレームワークです。ご存知の方も多いかもしれませんが、「Situation:状況」「Task:課題」」「Action:行動」「Result:結果」の頭文字をとったもので、Sから順番に深掘りしていくと、エピソードをわかりやすく分解して尋ねることができるというものです。
そして、STARの中でも特に「Action」、つまり具体的な行動について尋ねると、その人の内面や個性に着地しやすいです。「さまざまなアクションが考えられる中で、どうしてその手段を選んだのか」と考えながら、質問していくと、学生の思考についてはかなり見えてくるはずです。学生の目線から見ても、自分という個人に強く注目してくれているということが伝わりやすく、「志望度をあげる」という意味合いでも使いやすいフレームワークです。
「面接本番」パートが長くなりましたが、続いて最後の「面接後」パートについても、志望度向上に効果的なコミュニケーションをご紹介します。ポイントは面接の審査・評価以上に「学生に寄り沿い、成長を願う姿勢」をストレートに表現することです。
例えばGoogleでは面接終了後にフォローアップを実施していましたが、先に紹介したA社では、面接時間の後半で「ここで面接は終わり。ここからは面談に移りますから、一度肩の力を抜いて一緒に面接を振り返りましょう」と、フェーズを移しているそうです。
やり方は会社によりますが、共通するポイントは、面接中のパフォーマンスについて「良かった点」「改善すればさらに良くなる点」を共有し、すぐに実践できる具体的なフィードバックを渡してあげることです。例えば、学生の話し方の順序に改善の余地があると感じれば、先にご紹介した「STAR」フレームワークをとりあげつつ、実際の面接に落とし込んで実践して見せるなど、具体性が大切です。
こういったフィードバックは、学生にとっては時に耳の痛い部分もあるかもしれません。大切なのは面接官のこうした行動の背景にある「学生への強い期待」をしっかり伝えることです。
たとえば「一緒に働きたいと感じたからあえてフィードバックを伝えたい」「さらに魅力的に自己表現できるようになって、合格して欲しい」といった言葉などを添えてあげたら、そういったフィードバックもポジティブに伝わるはずです。実践的で役立つアドバイスはもちろん喜ばれますが、面接後にわざわざ自分のために時間を割いてくれたという事実やその熱意が学生に伝われば、「こんな人と一緒に働きたい」「この会社で成長したい」という思いにもつながりやすいでしょう。
また面接の最後に逆質問の時間を設定するのも効果的です。「会社のこと、キャリアのこと、今日の面接のことなど、なんなりと質問してください」と伝え、学生側が主体的になれる「逆質問」の時間を用意することで、一方的ではなく双方向の時間を作り出せます。また、質問内容を通して学生自身の志向性や人柄が見える場合もあります。ちなみに
Google で実施した調査では、逆質問の時間を設けることが志望意欲の向上につながるというデータもあり、面接の最後に10分間Q&Aを実施するのがルールになっていたほどです。
長くなりましたが、採用CXの観点から、面接という空間の演出において大切にすべき考え方や、事例などをまとめさせていただきました。長く「見極め」の場として活用されてきた面接ですが、「魅力づけ」についても意識的にコミュニケーションすることが非常に大切になっています。
候補者の目線からしても、企業間で比較しやすい体験なので、積み重なれば企業の採用ブランドにも影響するほどです。候補者目線での体験設計を通して、学生の成長に徹底的にコミットすれば、「面接官に会いたくて全国から応募が集まる企業」になることも夢ではないと思います。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO COO兼CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやプレゼンテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCOO兼CHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は経営層の1人として自社事業の伸長に取り組みつつ、企業の中期経営計画を達成するための「採用・組織戦略」についてのアドバイザリーやコンサルテーションをクライアントへ提供している。
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