新規事業とブランディングで6000人の意識改革--「変われない業界」に新風を起こす大成・加藤憲博氏【前編】

藤井涼 (編集部) 石田仁志2022年03月22日 09時00分

 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発やリモートワークに通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。現在は、森ビルが東京・虎ノ門で展開するインキュベーション施設「ARCH(アーチ)」に入居して新規事業に取り組んでいる大手企業の担当者を紹介しています。

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大成の代表取締役副社長である加藤憲博さん(左)

 今回のインタビュイーは、ビルのファシリティマネジメント(施設管理)を手がける大成の代表取締役副社長である加藤憲博さんです。加藤さんは大成に中途で入社され、社内改革を進める中で複数の新規事業を立ち上げて、社内のみならず業界全体に新しい風を吹き込んでいます。前編では、入社されてから改革を進める中で、新規事業開発に至るまでの話を伺います。

中途入社で感じた「変われない業界」への危機感

角氏:当連載で大企業のトップをお迎えするのは、加藤さんが初めてです。まずは、自己紹介と会社紹介からお願いします。

加藤氏:大成は創業63年で、施設管理業務を主要事業としてきた中で、少しずつ建築やプロパティマネジメント(※)に幅を広げています。売上高が直近で約250億円、経常利益が約6億7000万円で、従業員がパートを含めて6000人、社員は1300人の組織です。私は金融系の会社で10年弱働いたのち、10年前に入社しました。

※プロパティマネジメント = 建物オーナー様に代わって建物の運営・管理・経営を行い、その資産価値を高めるため、ライフサイクルコストの適正化・建物の付加価値増大・建物の収益性向上などに取り組むこと

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角氏:入社されて10年しか経っていないんですね。異業種からの入社ということですが、当時の会社の印象はいかがでしたか?

加藤氏:正直なところ、「この会社は大丈夫なのか?」というものでした。家業だったのですが、具体的に何をしていたかはあまり把握しておらず、入社して初めて実態を知り、危機感を持ちました。

角氏:その理由を教えて下さい。

加藤氏:業界自体がそうなのですが、時代の変化を捉えられず、昔から仕事の形が変わっていませんでした。施設管理は労働集約産業で、たくさんの社員を採用してその方々を教育し、お客様のビルなどの施設へ派遣して売上・利益を得ている事業モデルなのですが、その形が創業時から変わっていなかったんですね。世の中ではIT化が進んでいる中で、人をどう集めて提供するかの観点でしか見ていなくて、そこに危機感を持ちました。さらに、今後労働人口が減ることが目に見えている中、口を開けば「人が足りない」ばかりで、具体的な策もなければ戦略もない。そんな時に入社したんです。

角氏:なるほど。

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フィラメントCEOの角勝

加藤氏:そこで少しずつ変えていかなければならないと思い、入社してから2年後に一番信頼できる存在として弟(取締役執行役員の加藤千加良氏)を入社させました。いろいろなことをやって会社が変わってから入社してもらうよりも、ゼロから一緒に変えていければと思ったのです。そこで、組織から人事、海外事業から新規事業と少しずつランディングしながら、同時に企業イメージも変えているところです。

自分たちの仕事内容を語るための「ツールがない」

角氏:危機感をもって弟さんを呼び戻して、そこからどんな取り組みを?

加藤氏:まず営業にメスを入れました。われわれの業界では、実績があると一定のお客様からお声がけをいただくケースが多いのですが、その状況に甘んじている社員が多かったんです。これからはお客様と話すところに力を入れないといけないと思ったのですが、いざお客様と話すときに自分たちを語れるツールが何もありませんでした。

 サービス業なので自社開発製品があるわけでもなく、「こういう仕事をやっています」と実績を語るだけしかできない。ただ、今後は人が行う管理プラスアルファの付加価値を付けていかなければと感じ、そのためには新しいツールが必要でしたし、それがあれば社員がお客様と話すネタにもなる。それがデジタルを活用した新規事業につながっていくわけです。

角氏:労働集約的な会社がデジタルに踏み込もうとなって、どこから切り込んでいったのでしょう?社内で反対もあったと思いますが。

加藤氏:おっしゃる通りで、デジタル化に強い社員はいなかったですね。

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角氏:(社員に)言っていることが通じない?

加藤氏:やりたい方向性は理解するものの、具体的に自分たちがどうアクションしていいのかわからないという状態でした。私のやりたいことに、「そうだと思います」と何となく理解は示すんです。「じゃあ、これをこう進めるので、いいよね?」「わかりました」となるのですが、「じゃあこれをやってみてくれない?1回こういうデータを集めてみて、こんな情報を提供してくれない?」と言っても出てきませんでした。

角氏:方向性を示すだけでなく、具体的なアクションに落とし込まないと動かなかったんですね。

加藤氏:やったことがない仕事ですので、難しいことは承知してましたが、そこは苦労しました。

その他の役員からは「やらなくていい」「ほら見たことか」の声

角氏:日本の多くの企業がDXを叫びつつ進まないのと根っこは同じですね。それをどう解決したんですか?

加藤氏:今でも解決には至っていませんが、10年かけて少しずつ理解させて、仲間を増やしています。今はもう退職しましたが、当時の役員からはなかなか理解を示してくれませんでした。取締役会で、「こういう取り組みをしましょう」と言っても誰も文句は言わない。ただ、具体的に話を進めようとすると、「そんなことやらなくていい」「どうせわからない」「できないから」となり、全て止まってしまう。

角氏:よく聞く話ですね。

加藤氏:さらに、新しいデジタルツールを開発するため会社にリソースを要求しても、本業のビルメンテナンスが人手不足なので人は出せないという話になるわけです。それで少数精鋭で取り組む中で、当然どんどん失敗もするのですが、すると周りから「ほらね」と言われてしまって。

角氏:「ほら見たことか問題」ですね。

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加藤氏:そうです。でもそれは、その人たちが正しく物事を評価してくれていたらできていたことなんです。空中分解の連続でしたが、それらを1つずつ時間をかけて解決していきました。そして否定的意見も徐々になくなって自分も立場が上がり、これからのミッションやビジョン、方向性を周りに刷り込んでいくうちに、若い社員たちからは賛同を得られるようになってきたという状況です。

「意識改革」をするためには「風土改革」から

角氏:地道ですね。その当時、役員の方たちも自分たちが対峙している、目先の人が足りない問題があるから、もしかしたらそちらに意識が行って悪気はなかったのかもしれない。

加藤氏:意識改革は難しいです。私も昔は若い社員とお酒を飲みながら、ああだこうだとやっていたのですが、うまくいかなかったですね。本来、風土改革が先なんですよ。会社全体の風土を変えていくと、会社が変わったと言われるようになり、そこに対して意識改革を植え付けていく方がはるかに早いんです。

角氏:なるほど。

加藤氏:なので今は、新規事業と並行して会社の見せ方、ブランディングにも注力しています。海外事業もその一環で、業界で海外に出ている会社が少ない中、香港から東南アジアへと進出し、「うちの会社は海外事業もするようになったんだ」と社員に意識させるようにしました。さらに外に対するアピールとしてウェブサイトを変え、CMも作りました。

 そうやって少しずつ企業の見せ方を変えていく中で、新しい付加価値を入れた商材が増えていき、さらに2021年に東京オフィスも移転して、今どきの事務所に変えました。社員の家族から見に行きたいと言われたり、訪問されたお客様に「大成さんってこんな会社なんですか?」と驚かれたりするようになり、それが社員に対してもいい刺激になっています。

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角氏:なるほど。そうでしょうね。

加藤氏:CMにも女優の小芝風花さんを起用しているのですが、お客様からの反応もよくて、そういった話を聞くと社員も喜びます。すると社員も「変わらないといけない」と自覚するようになり、今ではだいぶ変わっています。口だけで言ってもついてはきません。社員自身が感じるようにしなければならないのです。

全員が新規事業開発に参加する仕組みを作る

角氏:インナーブランディングがとても上手ですね。風土を変えるのは基礎の部分を変えないといけないのでとても大変ですが、それを変えると中にいる人の意識も変わると。それに併せて仕事もデジタルに寄せているというイメージでしょうか?

加藤氏:その前から少しずつIT化は進めていきましたが、そういった形にすることで、新規事業開発に参画したいという社員が増えてきました。当社の業務は警備、清掃、設備管理と大きく3つに分かれるのですが、必ずそれぞれの部門ごとにプロジェクトを作って、全員がプロダクト開発に参加できるような仕組みを採っています。部長も課長もなるべくプロジェクトに参加させて、自分たちがどういうことをDXしたいか、「これだったらこういうところを取り込んでいきたい」とか、「こうやっていきたい」とか、うまくいい形で議論をさせながら開発を進めています。

角氏:現場のスペシャリストが現場のオペレーションを一番知っている。そこの苦労が開発のベースになっているということですか?

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加藤氏:それもありますし、全体は私が考えて、それを現場がブラッシュアップしていくという形です。

角氏:各部門が自由に参加して、忌憚なく話し合えるコミュニケーションの基盤ができているわけですね。それで生まれたデジタル製品が……。

加藤氏:警備ロボット「ugo TSシリーズ」や、ビルメンテナンスプラットフォームの「T-Spider」です。

 後編では、新規事業で誕生したデジタル製品と今後の事業構想について伺います。

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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