【事業開発の達人たち】NTT東日本で10件以上の新規事業を立ち上げ--長谷部豊氏が大切にする「2つの軸」【前編】

石田仁志 藤井涼 (編集部)2022年01月27日 09時00分

 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発やリモートワークに通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。現在は特別編として、森ビルが東京・虎ノ門で展開するインキュベーション施設「ARCH(アーチ)」に入居して新規事業に取り組んでいる大手企業の担当者さんを紹介しています。

 今回は、東日本電信電話(NTT東日本) ビジネスイノベーション本部 ソリューションアーキテクト部長の長谷部豊さんです。NTT東日本という大組織内でこれまでに10件以上の新規事業とサービスの立ち上げを経験されている事業開発の達人に、事業開発を成功させる方法論について伺いました。

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NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 ソリューションアーキテクト部長の長谷部豊さん(左)

最新テクノロジーを活用して「課題解決」を提案

角氏 : 大企業が事業のライフサイクルを進めていく上で、新しい事業の弾込めをするのは大切な仕事です。ARCHの中にそこをうまくやっている人はいないかと尋ねたら、たくさんの事業を作った凄い人がいると伺いました。今日はぜひそのあたりのお話をお聞かせいただければと。

長谷部氏 : これまでさまざまな新規サービスや新規事業を立ち上げてきたので、頭の中には過去の成功や失敗からエッセンスとして集約しているものがたくさんあります。そのあたりをいろいろとお話できればと思います。

角氏 : それは楽しみです。長谷部さんの現在の所属はビジネスイノベーション本部ですが、どんな仕事をされているのですか?

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フィラメントCEOの角勝

長谷部氏 : ビジネスイノベーションというとイノベーションだけやっているように見えるかもしれませんが、一般的な企業でいうと法人営業部隊です。データ分析やAI、弊社が強い領域だとローカル5G※といった最新テクノロジーを活用しながら、お客様の課題にどうアプローチができるか、どんなソリューションをモデル化できるかを考え、課題解決のためのソリューションを作る、現在はそういうアーキテクト部隊が集まった部署で責任者をしています。

※ローカル5G 特別な用途を目的に、非通信事業者の企業や自治体等が個別に利用できる5G網

「ソリューション」と「新規サービス・新規事業」の違い

角氏 : まだ作られていないものを作り、売るところまでセットでやっていると。そうなると、次々と新しいものを作っているわけですね。新規事業のど真ん中で活躍されているということですか?

長谷部氏 : 何をもって新規サービスや新規事業というかなのですが、たとえば法人ビジネスでは、1社ごとにカスタマイズして、お客様のニーズにぴったり合うものを作るのが、ソリューションという形になります。ただそれは、特定顧客のニーズに合わせて提供しているだけなので、当然新規サービスや新規事業とは言いません。作ってでき上がったソリューションが、他の同様なニーズを持つユーザーに対しても一気に普及展開していけるものが新規サービスや新規事業です。

 共通項に投資をしてシェアリングをして、たとえばそこで使うような通信設備をシェアするとか、そこで作ったアプリケーションに弊社自らが投資し、複数のユーザーでシェアし、割り勘で料金を安くしていく形にすることで、初めてサービスや事業と言えるようになるんですね。サービスと事業の違いは後ほど少し触れたいと思います。

角氏 : 大きな塊としてソリューションがあって、それをカスタマイズなしで使えるようにして、いろいろな企業に売れるようになると新規サービスや新規事業であると。

長谷部氏 : そうですね。ノンカスタマイズの部分が増えてくると提供できるスピードも速くなりますし、多くのユーザーに価値を提供し対価をいただければ、ある程度の需要を予測して投資をしていく形ができるので、そこで初めてひとつのサービスや事業としてでき上がっていくわけです。NTT東日本としては、ソリューションから出てきたサービスや事業を数百億円単位の収益を生み出せるところまで狙って取り組みます。まだこの部署が発足して1年ですが、最終的にはそこを目指して価値あるビジネスを作っていきたいと考えています。

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角氏 : そういう部署を作るのは大変そうですね。

長谷部氏 : 大変ですが、テクノロジーを先取りした部隊を作っておくことで、お客様がどう課題解決をしていいのか分からない状態の時に、われわれからプロアクティブに「こういう最新技術を組み合わせれば課題を解決できます」と、説得力を持って提案ができる状況になるんですよ。

角氏 : 技術を先に使ってみて、その特性や問題を把握した上で提案ができるような部隊ですか。

長谷部氏 : 提案は必ず明確な課題解決とセットでないといけません。従来のプロダクトアウト型がそうだったように、技術があっても、「こんなことができます」の“こんなこと”が抽象的だと、お客様もそれをどう使っていいかわからなところで止まってしまいますからね。

事業を開発するプロセスや進め方を確立

角氏 : 顧客の目線にいかに寄り添っていけるかが本質なんですね。

長谷部氏 : そうですね。私が過去を含めて繰り返しサービス開発や事業開発に取り組んできた中で、ある程度新たにサービスや事業を開発するプロセスや進め方の形ができ上がっているのですが、どうやっているかお話しましょう。

角氏 : 本当ですか?それはもうぜひ知りたいです。

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長谷部氏 : まず前段のところですが、よくサービス開発とか製品開発と事業開発の区分けで、あいまいな言葉を使ってしまうんです。会社のリソースやバリューチェーンがつながってすでにサービスを提供している中で、同じラインに新しいサービスを追加していくのは、サービス開発と呼んでよいでしょう。その際は、バリューチェーンがつながっているところに、新たなサービスの提供ラインを追加していく形になります。

 これに対し、プロダクトラインも全く違った製品・サービスという非連続な領域にサービスを作っていく場合や、ビジネスモデルが全く異なる場合は、新しい事業を作るというイメージになります。さらに今までリーチできてないお客様層に対して製品やサービスを作る場合も、新しい事業を起こすということになります。内部的な話では、組織の動かし方も少し異なるので、区別しておきたいと思います。

角氏 : お客さんが違うと、社内のバリューチェーンも見直していかなければならないということですよね?

長谷部氏 : そうです。会社の中にもさまざまなチャネルがあり、販売チャネルも含めて社外と連携するにしても連携先が変わってくるので、そこははっきりさせないといけません。

角氏 : それを踏まえた上で、サービスや事業をどう作っていくかということですね。では具体的にどうしているのですか?

長谷部氏 : 私はいつも、2つの軸を掛け合わせて回しています。1つめは、“顧客から絶対に目を離さない”こと。これはサービス開発でも事業開発でも、顧客に対してどんな価値を提供するのか、当然ニーズをしっかり把握していないといけないし、それに対してお客様がお金を払っていいと思うくらいのバリューを出せているか、チェックし続けなければなりません。

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 ところが最初は顧客を見ようとするのですが、やることがたくさんあるため、いつの間にかそこから目が離れてしまうんです。なので、そこを徹底することが押さえておくべき、常に意識すべきポイントになります。それが1つめの軸です。

不安を解消するために必要な“Will”の形成作業

長谷部氏 : もう1つは、“Will”、つまり意思を形成していく作業です。新しい領域に挑戦するにあたっては、当然最初に顧客がどんな課題を解決したいかをしっかり把握できているわけではありません。そこに対して、自分たちが提供するサービスや、お客様からお金をいただいて十分なサービスが提供できるのかという自信を最初から持てるわけではなく、最初は不安な状態からスタートします。私もこれまで10くらいの事業やサービス開発に携わってきましたが、常にそうでした。そこで必要なのが、熱意やWillです。

角氏 : どのくらい熱意や意思をもって取り組めればいいのですか?

長谷部氏 : 社内の事業開発室のイントレプレナー・企業内イノベーターと、アントレプレナーの対比で説明するとわかりやすいのですが、要はその領域に専門会社を作ってビジネスをするアントレプレナーたちに、どれだけ肉薄できるかなんです。私は少なくとも同じレベルまでもっていかないといけないと思っています。彼らは、人生をかけているくらいの思いでその課題解決に取り組もうとしているので、そこに対峙するためには、大企業の中の事業開発チームでも熱意やWillをそれと同じところまで持っていかなければいけないんです。

 肉薄するという意味では、顧客理解についても同じことがいえます。顧客の課題・悩みをどこまで理解し、洞察を持っているかという点に関しても、アントレプレナーや経営者たちは、自身が顧客のど真ん中にいます。つまり自分がこういうことに苦労したからこういう会社を立ち上げたというような、自分がかつて1ユーザーとして課題を抱え、それを解決したくて立ち上げたという経緯の会社や経営者が多いので、顧客理解が凄いのです。

角氏 : そうなりますよね。

長谷部氏 : 私は大企業内で事業を起こす場合も、顧客理解とWillを同じレベルにもっていかないと戦えないと思っています。この顧客理解とWillが足りないと、世の中で勝てない事業になったり、もしくは大企業のリソースを大量に突っ込まないと少数精鋭のベンチャーに勝てないという事態になるのです。

 私はその2つを意識してサービス開発や事業開発をやっています。さらに、これを今度は具体的にどうやってそのレベルに持っていくかというところも、だいたいは確立しています。たくさんの経験をしてわかった鉄板のやり方があるんです。

角氏 : 本当ですか?俗人的にどうやって広げていくかというところはぜひ伺いたいです!

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 後編では、長谷部氏が確立された新規事業開発を進める際の鉄板メソッドと、事業を成功させるための要素について伺います。

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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