数カ月前に起こりそうだったことが、さらに現実味を増している。Googleが拡張現実(AR)ヘッドセットを開発中だと報じられている。奇妙なことに、これは同社が何年も前に通った道でもある。
私は2013年、「Google Glass」をかけて通勤電車に乗った。初めてのスマートアイウェア体験だった。「Android」スマートフォンと連携するGoogleの仮想現実(VR)ゴーグル「Daydream View」も使ってみたし、Googleの「Daydream VR」ソフトウェアと連動するレノボのスタンドアロン型VRヘッドセットも試した。当時、GoogleのAR・VR事業を統括していたClay Bavor氏に、私はGoogleがハードウェアからスマートフォン用のユーティリティーARアプリに軸足を移した理由を聞いた。最後に話をしたとき、同氏はこう言っていた。Googleは、AR・VRの未来に関する「深い研究開発」の時期に入る、と。
The Vergeは先週、Googleが「Project Iris」というコード名でARヘッドセットを開発していると報じた。この記事を読む限り、Googleの新しいヘッドセットは他社が開発しているヘッドセットと大きな違いはないようだ。カメラを使って、ディスプレイの向こうに見える現実世界と仮想の映像を融合する。VRにおける複合現実のようなイメージだ。これはMeta(旧Facebook)の次期ヘッドセットが約束しているものにほかならない。私は、これをすでに実現しているVarjoのハイエンドヘッドセットを試したことがある。The Vergeの記事によれば、Project Irisから生まれる製品は早くて2024年に出荷される見込みだという。
Googleは長年VRとARに取り組んできた。そう考えると、にわかに盛り上がるメタバース関連の議論や報道にGoogle製品の名前が見られないのは奇妙に思える。Googleはスマートグラスの方向性を決める重要な、おそらくは最も必要な存在なのだから。
Qualcommは最近、スマートフォンと連動するスマートグラスの開発に力を入れているが、これはどうすれば高性能なスマートグラスを快適に装着し操作できるかという問題への答えのように思われる。Niantic、Snap、Metaも似たような製品を開発中だ。現代人は一時もスマートフォンを手放さない。これは当面変わらないだろう。プロセッサーを搭載したスマートグラスは、少なくとも現時点ではバッテリーの持ちがきわめて悪いため、ARはスマートフォンを積極的に活用するか、少なくともスマートフォンに入れたアプリを簡単に動かせるようになる必要がある。
私は新型のスマートグラスをいくつか試したが、他のデバイス、特にスマートフォンとの連携はスムーズとはいえなかった。しかし、GoogleはAndroidの開発元だ。アンビエントテクノロジー(スマートスピーカーやスマートスクリーン、スマートウォッチ等のデバイスにまたがって動作するアプリやサービス)にも多額の投資をしている。スマートグラスも投資対象の1つだ。GoogleのProject Irisは、Oculus Questを継ぐスタンドアロン型のデバイスのように思えるかもしれないが、スマートフォンと接続する役割も求められる可能性が高い。この役割は他のデバイスにも求められているが、現在の出来はかんばしくない。
Appleは、ARやウェアラブルテクノロジーの分野では多くの経験を持つが、VRヘッドセットを作ったことはない。それに対して、Googleは初期のスマートグラスを実際に市場に投入した実績があり、さらにはVRエコシステムを構築するなど、すでに10年の経験を有する。
それだけではない。Googleは検索やマップにもARを導入している。2020年には、近未来的な店で自社開発のスマートグラスを販売していたスマートグラスメーカーのNorthを買収。この他、VR描画アプリ「Tilt Brush」や、人気VRゲーム「Job Simulator」「Vacation Simulator」を開発するOwlchemy Labsも所有している。The Vergeに掲載されたAlex Heath氏の記事によれば、GoogleはMagic Leapにも早くから投資していたという。
私はまだ試せていないが、Googleは2021年、「Project Starline」を使ったARテレプレゼンスを実験した。Bavor氏が率いるこのプロジェクト(同氏はGoogleの新しいARヘッドセット開発プロジェクトのリーダーでもあるとされる)は、現在のVRとARに欠けているもの、すなわち優れたコミュニケーションソフトウェアの開発に取り組む。現在のVRはZoomを完全に置き換えられる水準には達していない。ARについても同じだ。
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