2021年を振り返ると、「ワーケーション」という言葉をよく目にしたのではないだろうか。ワーケーションは「Work+Vacationの造語」で、テレワークなどを活用し、リゾート地や温泉地など、普段とは異なる場所で地域の魅力に触れながら仕事を行なう働き方のこと。
2020年7月に開催された観光戦略実行推進会議で、政府がワーケーションの推進を打ち出したことをきっかけに大きな注目を集め、多くの自治体がワーケーションの誘致を行うようになった。
このワーケーションにおいて、先進事例に必ずといっていいほど名前が挙がるのが和歌山県。2017年からワーケーションに取り組んでおり、2017年〜2019年度の間で100社を超える企業をワーケーション誘致しているトップランカーだ。また、2019年には長野県とともに「ワーケーション自治体協議会」を設立。ワーケーションの世の中への浸透と、自治体間でノウハウを共有する活動なども行っている。
和歌山県のように県が主導でワーケーションに取り組みながら、他自治体を巻き込んだ活動を行なうのは稀なケースだ。そこで、和歌山県情報政策課長でワーケーション自治体協議会事務局なども務める桐明祐治氏に、和歌山のワーケーションの特徴や狙いについて聞いた。
和歌山県はもともとIT企業の誘致に力を入れている県だ。2015年にはセールスフォース・ドットコム、2016年にはNECソリューションイノベータがサテライトオフィスを開設。「IT企業誘致の入口として導入したのがワーケーション」だと桐明氏は明かした。
和歌山県のワーケーションには3つの変遷があるという。
フェーズ0では、ワーケーションという言葉自体がまったく浸透していない時期に手探りで可能性を模索。日本で受け入れられるか、和歌山県にポテンシャルがあるかを企業へ営業やヒアリングを行い、モニターツアーを実施した。続くフェーズ1では、和歌山型のワーケーションを構築。桐明氏は和歌山型のポイントを「オーダーメイド」と説明する。
「モニターツアーを実施したことで、旅費、労災、勤怠管理などに対する課題や、企業ごとにプログラムへのニーズが違うことが分かった。そこで企業ごとのニーズにオーダーメイドで応えるワーケーションプラン作成。また、県庁職員がワーケーションコンシェルジュを称して、毎週のようにコーディネートをしたことで100以上の企業を誘致できた」(桐明氏)
そして、現在取り組んでいるのがフェーズ2だ。和歌山県庁がこれまで取り組んでいたものを県内で民間でも自走できるように民間事業者同士の体制を構築。さらに、ワーケーション自治体協議会を設立し、ワーケーションの全国的な認知拡大と需要喚起に取り組んでいるという。
オーダーメイドのワーケーションとはどのようなものだろうか。桐明氏に聞くとメガバンクが年間を通して実施している事例を紹介してくれた。
「白浜町で2泊3日の研修合宿型のワーケーションを実施。1日目、2日目は社内チームでグループディスカッションし、3日目は地元の農家さんと交流しながら農業を手伝う農業ボランティアを行なった。農業ボランティア部分を県庁職員がコーディネートした。1日だけの手伝いなので初めは農家さんの反応があまり良くなかったが、年間を通して続けることで『次はいつ来てくれるのか?』と期待してくれるようになり、メガバンク側にも好評で、良い関係が築けている」(桐明氏)
和歌山のワーケーションでは、地域住民や企業との交流がプランされているものが多い。これは、「関係人口の創出」がワーケーションを推進する理由の1つだからだという。
関係人口とは、観光に来た人(交流人口)ではなく、定住までは至らないものの、地域と継続的に多様に関わる人のこと。メガバンクの事例のように、「地域との良好な関係が築けることでお互いの刺激になり、また、企業誘致や移住・定住の推進にもつながることを期待している」という。
和歌山県では2019年に県主催で総務省「関係人口創出拡大事業」を活用した地方創生研修も実施。首都圏企業に勤める次世代リーダー候補15名が参加し、「虫食い材(あかね材)のブランディング」「地域食材を活用したユニークな自社商品の開発」「伝統工芸(表具)を継承するための新規事業の開発」をテーマに、意見を出し合い事業者へ提案を行なった。
オンラインオフラインを交えながら4カ月間の期間で開催された研修は、関係人口の創出となっているだけでなく、商品化などのアウトプットも行なわれ、都市部企業として次世代リーダーの育成を行いながら地域課題解決にも貢献しているという。
和歌山県のワーケーション誘致には「欠かせない存在」がいるという。それが、「コーディネーター」だ。コーディネーターというと旅行業が思い浮かぶが、和歌山県のコーディネーターは、ワーケーションに来た来訪者と、地元の企業や人をつなぐ人のことだと桐明氏は話す。
「都市部と地方ではバックボーンもロジックも違うので、ハレーションが起こることもある。コーディネーターは間に入って通訳をしてくれる存在。そして『あの人がいるからまた行ってみたいと思う存在』でもある。和歌山では、都市部や企業のこともわかる移住者などがコーディネーターをしている。地域側にハブになる人がいることが和歌山のワーケーションのポイントではないか」(桐明氏)
一例によると、地元の宿泊事業者がワーケーション用の宿泊プランを作ろうとした際に、満足してもらおうと豪華な食事や体験プログラムを盛り込むことを検討していたが、企業目線では旅費規定の宿泊上限額を超えると自己負担が発生してしまうため、ビジネス利用では難しくなってしまう。そこでコーディネーターが、1泊1名食事なしで安価に宿泊できるプランとした上で、ニーズに応じてオプション対応するように助言した結果、実際にビジネス目的でのプランの利用が増加したという。企業目線と地域目線の両方から受入れ体制を整えることのできるコーディネーターの存在がワーケーションの適地として評価される大きな要因かもしれない。
桐明氏はワーケーションを「都市部と地域の関係性の再構築であり、一緒に成長していけるモデル」だと捉えているという。「今後も相互に刺激し合えるワーケーション誘致を行い、どんどん広げていきたい」と展望を語った。
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