「1回のワーケーションの予算はどれくらいがいいのか?」。よく寄せられる質問ですが、ワーケーションには最低いくらかけましょうという基準はありません。
基本的には、通常の旅行にかける費用と変わりないものの、予定を詰め込み過ぎず「余白」を楽しむ余裕を持つには、最低でも3泊4日以上をおすすめします。また十分な速度とセキュリティが担保されたWi-Fi完備の宿泊施設に泊まる必要があること、格安パッケージ旅行などが整備されている地域以外に出かけていく可能性が高いこと、自分が「欲しい刺激」を受けるために各種アクティビティやオプショナルツアーなどに申し込む可能性が高いことなどを踏まえると、通常の旅行の1.2〜1.5倍の範囲で余裕を持った予算組みにしておくと安心です。
実はワーケーションでは「お金」以外にも、大切にして欲しい「投資」がいくつかあります。今回は、旅から戻ったあと、「ああ、いいワーケーションだった」と満足できるように惜しみたくない「投資」について、詳しく書いていきたいと思います。
ワーケーションを企画・運営してきた立場から見ていると、時間なりお金なり、その他リソースをしっかり自分に「投資」してワーケーションをしている人は、旅先でも能動的に動き、その分たくさんのものを得て帰っていく傾向にあります。
この入門編で一貫してお伝えしているように、ワーケーションでは、いま心底行きたい場所に行き、心底やりたいことに優先的に時間を配分することが何よりも大切です。そしてそれを叶えるために、現時点で自分にできる限りの「投資」をケチらずにしっかりとすることが鍵となります。
ポイントは、「時間」「お金」「手間」の投資です。
まずは「時間の投資」から説明していきましょう。たとえば、筆者が企画・運営に携わっている五島のワーケーション・イベントでは、4泊5日を滞在期間として推奨しています。2泊3日であれば土日にプラス1日なので週末を利用して気軽に参加できますが、4泊となるとそうはいきません。
仕事やプライベートの予定を調整し、どうしても対面でやらなくてはいけない仕事は事前に済ませておく必要があります。家族の都合も考えなくてはなりませんし、滞在費も長い分かさみます。結果、「それでも行く!」という前のめりな参加者が集まりやすくなり、結果としてワーケーションをしている人同士が与え合う刺激も良質なものになっていきます。
何より意識的に「時間」の投資をすることで、「せっかく確保した時間を精一杯満喫しよう」と腹が括れますし、旅先を満喫するために進んで情報を集めたり、周囲の人に話しかけたりと自分の中の「能動性のスイッチ」をONにできるのです。
もちろん「お金の投資」も大切にしています。冒頭で「普段の旅の1.2〜1.5倍の予算を確保しておくと安心」という話をしましたが、補足すると「安いから」「お得だから」という観点に引きずられて、自分が今本当に行きたい場所やしたいことから離れてしまわないように注意しましょう。
たとえば、地方自治体が主催しているワーケーション企画では、税金を原資とした交通費補助や滞在費補助がついている場合がよくあります。あるいは、レビューやレポートを書くことを条件にワーケーションにかかるすべての費用が全額補助されるモニターツアーもあります。
これらの施策は、ワーケーションに参加するハードルを下げるという意味では有効だと思いますが、最初から参加者に「お金の投資」を求めないため能動性の高い人は集まりづらいでしょう。どうしても「安いから」「トクだから」という理由で申し込む人の割合が高くなってしまいます。
再び五島を例に引きますが、五島は離島のため交通の便がそれほどよくありません。羽田からであれば福岡か長崎で乗り継ぐ必要があり、直行便のある沖縄よりも交通費が1.5〜2倍は高くなります。それでもこれまで一度も費用の補助をしたことはなく、全額参加者の自己負担です。
宿は数千円で泊まれるゲストハウスから1泊数万円の一棟貸しまで、幅広い選択肢があり、お子様のためのアウトドアスクールや見守りサービスといったオプションも多いので一概には言えませんが、1人当たりの1回の消費額は4泊5日のモデルケースで12万円程度です。1回の国内旅行にかける予算としては高い方でしょう。
1回の国内ワーケーションにそんなに費用はかけられない、という声もあるかもしれません。これまで書いてきたようにワーケーションには「旅行」の意味合いに加えて、新しい経験をする「学び」の要素、普段出会えない人とつながる「ネットワーキング」の要素、今後の仕事の幅を広げる「キャリア探し」の要素などが織り込まれています。
単なる旅行と考えれば「高いかも……」と感じる額でも、そうした要素を全部含めた額なら「未来の自分」のために投じる価値は十分にあると思います。一概に最低いくらかければOKという基準はありませんが、自分の貴重な時間を投じてワーケーションをするなら、「こういう経験を得て帰りたい」という期待を描いて、投じた分以上に貪欲に満喫するつもりで出かけましょう。
それから、一番大切なのが「手間の投資」です。
つまり、平たく言えば「お膳立てがされすぎていない」ということ。楽しいワーケーションをするために、自分から情報を取りにいく、自分から情報を発信する、自分から行動する、自分から人に声をかける、自分から地域とつながるということです。筆者たちが手がけるワーケーション・イベントでも、現地までの移動手段や宿泊施設、各所オプションの案内など必要最低限のことは事務局で手配しますが、いろいろな場面で「自分から◯◯する」余地を残しています。
参加者が「お金だけ払ってあとは任せた」というお客様気分ではなく、自分から動かなければ、面白い体験にアクセスできない仕掛けになっているのです。でもいったん動いてみると、芋づる式にどんどん面白い体験に出会えます。
たとえば、旅の目的地に着いた初日、夜ごはんを食べる店を決めるとき、あなたならどうしますか?SNSやウェブで検索してみたりしますか?宿のフロントの人に聞いてみますか?観光パンフレットを探して開いてみますか?はたまた数日前から滞在している人を見つけて尋ねてみますか?いろいろな方法を思いつくはずですが、できれば「知らない人を捕まえて聞く」という能動性を発揮してみてください。検索するよりある意味めんどうくさい「手間の投資」が思わぬ愉快な「偶発性」を呼び込んでくれます。
「時間の投資」「お金の投資」「手間の投資」。この3つを、惜しまずにできる範囲でしっかり行う。それがまずは自分自身が能動的に楽しみ、旅から戻った時に「行ってよかった」と満足できるワーケーションをするためのポイントです。
(書籍「どこでもオフィスの時代」に関する情報はこちら)
鈴木円香(すずき・まどか)
一般社団法人みつめる旅・代表理事
1983年兵庫県生まれ。2006年京都大学総合人間学部卒、朝日新聞出版、ダイヤモンド社で書籍の編集を経て、2016年に独立。旅行で訪れた五島に魅せられ、2018年に五島の写真家と共にフォトガイドブックを出版、2019年にはBusiness Insider Japan主催のリモートワーク実証実験、五島市主催のワーケーション・チャレンジの企画・運営を務め、今年2020年には第2回五島市主催ワーケーション・チャレンジ「島ぐらしワーケーションin GOTO」も手がける。
「観光閑散期に平均6泊の長期滞在」「申込者の約4割が組織の意思決定層」「宣伝広告費ゼロで1.9倍の集客」などの成果が、ワーケーション領域で注目される。その他、廃校を活用したクリエイターインレジデンスの企画も設計、五島と都市部の豊かな関係人口を創出するべく東京と五島を行き来しながら活動中。本業では、ニュースメディア「ウートピ」編集長、SHELLYがMCを務めるAbemaTV「Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜」レギュラーコメンテーターなども務める。
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