ドコモ、法人向けにスタンドアローン方式の5Gサービスを提供--2022年夏には一般向けにも

 NTTドコモは12月13日、5Gの進化に関する説明会を実施。5Gのスタンドアローン(SA)方式によるサービスを法人向けに提供することを発表した。

 同社のネットワーク部 技術企画担当部長である松岡久司氏はまず、これまでの5Gに関する取り組みについて説明。ドコモは5G向けに新たに割り当てられた周波数帯だけを用い、高速大容量通信にこだわった「瞬速5G」の5Gエリア整備を進めており、2020年9月には帯域幅が広く一層の高速通信が可能なミリ波帯の28GHz帯の活用を開始。同年12月にはミリ波より低い「サブ6」と呼ばれる3.7GHz帯と4.5GHz帯を束ねたキャリアアグリゲーションによる高速化も実現している。

NTTドコモは5G向けの帯域幅が広い周波数帯のみを用いた「瞬速5G」のエリアを拡大、ミリ波やキャリアアグリゲーションなどを活用した高速化も実現している
NTTドコモは5G向けの帯域幅が広い周波数帯のみを用いた「瞬速5G」のエリアを拡大、ミリ波やキャリアアグリゲーションなどを活用した高速化も実現している

 瞬速5Gのエリアも順調に拡大しているというが、整備途上で課題となっているのが通信品質だ。特にここ最近は5Gのエリアの端で通信品が大幅に低下し、データ通信が止まってしまう、いわゆる「パケ止まり」という事象が多く発生し、SNSなどで不満の声が高まっている。

 そうしたことから松岡氏は、5Gでの通信中に4Gの電波にもデータを流しやすくする、通信開始時に5Gの電波品質が悪い場所は4Gの電波を活用する、割り当てる周波数帯を最適化して送信時の信号を届きやすくするなど、3つのネットワークチューニングでパケ止まり対策を施してきたと説明。一連の施策によってトラヒックデータからは、5Gの接続率と5Gのデータ流量がそれぞれ約10%、30%改善するなど品質向上が進んできたという。

5Gのエリア端で通信ができなくなる「パケ止まり」対策として、NTTドコモは3つのチューニングを施して対処を進めているとのこと
5Gのエリア端で通信ができなくなる「パケ止まり」対策として、NTTドコモは3つのチューニングを施して対処を進めているとのこと

 しかし松岡氏は、品質改善に向けた取り組みは「終わりではない。今後も改善を続けて参りたい」と説明。新たなパケ止まり対策として、上り通信時に通信制御のための制御信号のみ送信していた部分に、ユーザーのデータも合わせて送ることで上りの通信速度を向上させる改善策を2021年度中に実施予定としている。

 そうした既存ネットワークの改善の一方で、新たな施策としてドコモは説明会と同日より、5GのSA方式によるサービスを提供開始すると発表している。当初は法人向けにスポット的なエリアで提供されるそうで、SA方式に対応した専用のデータ通信端末を用い、受信時最大1.7Gbps、送信時最大143Mbpsの通信速度を実現するとのこと。対応する周波数帯はサブ6の3.7GHz帯、4.5GHz帯になるとのことだ。

NTTドコモは2021年12月13日より、法人向けにSA方式を用いた5Gサービスの提供を開始。通信速度は受信時最大1.7Gbps、送信時最大143Mbpsとなる
NTTドコモは2021年12月13日より、法人向けにSA方式を用いた5Gサービスの提供を開始。通信速度は受信時最大1.7Gbps、送信時最大143Mbpsとなる

 現在主流の5Gネットワークは、4Gのコアネットワークに4Gと5Gの基地局を接続して併用するノンスタンドアローン(NSA)方式で構築されているが、SA方式では5G専用のコアネットワークに5Gの基地局を接続する、5G専用の機器のみで構成されることとなる。そして松岡氏は、SA方式が利用できるメリットとして「ネットワークスライシング」という技術を活用できることを挙げている。

 これはネットワークを仮想的に分割し、その1つ1つに特徴付けができる技術。たとえば、スライスしたネットワークの1つを映像伝送向けの高速通信用、もう1つを自動制御向けの低遅延用と分けることで、用途毎に最適化したネットワークを提供できるようになる。そうしたことから松岡氏は将来的にこの技術をネットワーク全体に適用し、幅広いニーズに応えられる通信環境を提供したいとしている。

SA方式では、ネットワークを仮想的に分割して用途に応じた最適なネットワークを提供できる「ネットワークスライシング」が使えるようになる
SA方式では、ネットワークを仮想的に分割して用途に応じた最適なネットワークを提供できる「ネットワークスライシング」が使えるようになる

 また松岡氏は、2022夏にはSA対応スマートフォンを用意し、一般ユーザーに向けた5G SAのサービス提供も開始するとしている。ただし、現時点で一般ユーザー向け端末に関して決まっている内容はなく、展開エリアや使用できる端末などについてもサービス開始時に改めて発表すると説明するにとどまっている。

2022年夏には一般ユーザー向けの5G SAサービスも提供予定で、SA対応スマートフォンも提供されるとのことだが、具体的な内容は改めて発表するとしている
2022年夏には一般ユーザー向けの5G SAサービスも提供予定で、SA対応スマートフォンも提供されるとのことだが、具体的な内容は改めて発表するとしている

 ただSA方式への移行は法人向けでのメリットが大きい一方、一般ユーザーが受けられる恩恵は正直なところあまりない。そのため、ドコモとしては一般ユーザーに直接サービスを提供するだけでなく、同社がB2B2Cの「ミドルB」(真ん中のB)となり、他の企業にネットワークを使ってもらう形で一般向けサービスを提供することも検討しているとのことだ。

 続いてドコモの5G・IoTビジネス部 ビジネス企画担当部長の岩本健嗣氏が、SA方式を活用した法人向けの取り組みについて説明。岩本氏の説明によると、SA方式によるサービス開始時点で提供されるのは、シャープ製のデータ通信端末「SH-52B」をSA方式に対応させた専用端末と、低遅延の実現などに貢献するMEC(マルチアクセス・エッジコンピューティング)の「ドコモオープンイノベーションクラウド」、そして5Gの特性を生かした高精細映像やXR、デジタルツインなどのソリューション群になるとのことだ。

5G SAサービス開始時に提供される内容。端末は既に提供されている「SH-52B」のSA対応版を用意し、MECには自社製のドコモオープンイノベーションクラウドが用いられる
5G SAサービス開始時に提供される内容。端末は既に提供されている「SH-52B」のSA対応版を用意し、MECには自社製のドコモオープンイノベーションクラウドが用いられる

 また今回のサービス開始に当たって、SA方式のサービス創出に共同で取り組む顧客は、ドコモがパートナー企業と5Gビジネスの創出を進める「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」に参加する企業や自治体のうち、医療や製造業、放送など41社にのぼるとのこと。岩本氏はそれらの中から具体的に4つの活用事例を紹介している。

 1つは東京女子医科大学との取り組みで、5G SAとMECを用いてスマート治療室「SCOT」と医局をつなぎ、医局にいる熟練の医師が、治療室の医師とコミュニケーションして、素早い意思決定をする取り組みを進めているとのこと。5Gによる手術などの高精細映像を低遅延で、なおかつ閉域でセキュアな環境で伝送できることがメリットになっているという。

東京女子医科大学の活用事例。5G SAとMECを用いて治療室の高精細映像を低遅延で医局に送り、素早い意思決定をできるようにする取り組みが進められているという
東京女子医科大学の活用事例。5G SAとMECを用いて治療室の高精細映像を低遅延で医局に送り、素早い意思決定をできるようにする取り組みが進められているという

 2つ目は日立製作所との取り組みで、製造現場の人材不足やスキル継承などの課題を解決するため、5G SAとMECを活用した閉域網での通信で現場の3Dモデルをサイバー空間に構築し、遠隔地から自由視点でモニタリングできるシステムを構築する取り組みを進めているとのこと。3つ目はTBSテレビとの取り組みで、5G SAと専用線を活用して中継映像を低遅延かつ高速、安定的にスタジオに伝送することにより、ワイヤレスでの中継ができる仕組みの実現を目指すとしている。

 そして4つ目は、アニメ制作会社のカラーと、5G SAを活用したアニメ制作のリモート化による働き方改革を実現する取り組みである。こちらはスプラッシュトップのリモートデスクトップ環境を、5G SAとMECネットワークを通じてワコムのペンタブレットに伝送し、リモートでも快適な制作環境を実現するものになるという。

カラーの活用事例では、5G SAを用いてリモートデスクトップをペンタブレットに送ることで、リモートワークでもスムーズな操作を実現するとしている
カラーの活用事例では、5G SAを用いてリモートデスクトップをペンタブレットに送ることで、リモートワークでもスムーズな操作を実現するとしている

 ほかにも、5G SAはさまざまなシーンでの利活用が考えられることから、岩本氏はNTTが全国に持つ各地域の拠点、そして神奈川県横須賀市にある研究開発拠点「ドコモR&Dセンタ」などを活用して5G SAの取り組みをサポートし、社会課題の解決と産業の高度化を進めていきたいとしている。

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