【事業開発の達人たち】新規事業担当者の役割は「打ちやすいトス」を上げること--セイノーホールディングス加藤徳人氏【後編】

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 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発やリモートワークに通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。

 前編に続き、セイノーホールディングスのオープンイノベーション推進室 室長である加藤徳人さんとの対談をお届けします。後編では加藤さんの頭の中にある新規事業構想と、その際に大切にしている考え方の軸について伺いました。

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セイノーホールディングスのオープンイノベーション推進室 室長である加藤徳人さん

カカオを使ったバイオマス発電事業とコラボ

角氏:加藤さんは6月と8月にウェブ配信された「生きづらいです2021」LIVE PITCHにも登壇されて、今取り組んでいる新規事業の話をされていましたよね。ダイキン工業子会社の発電会社、ディーケー・パワー(DK)の上野崇さんとコラボされている話とか。上野さんからは、加藤さんと一緒に面白いことをやっていると色々聞いています。

加藤氏:DKさんはカカオを使ったバイオマス発電で循環型まちづくりに挑戦されているのですが、われわれはそこで生まれたエネルギーを宅配+コンシェルジュサービスのココネットで輸送の電源として使えないかと考えています。現在輸送車は約700台あるのですが、それをEVにしていこうと。それによってCO2排出量を減らすと共に、非常時には地域の電源となってバイオマス発電の電気を運ぶ役割を果たす。番組ではそんな話をさせていただきましたね。

角氏:直近で何か進んだ話はありますか?

加藤氏:石川県の加賀温泉駅前のスマートシティ化、カカオ豆で街おこしをしようという取り組みが始まっていて、そこにわれわれも参加したいと考えています。

 北陸新幹線が延線されることで加賀温泉駅に新幹線が止まるようになったのですが、駅前は広大な農地なんですね。そこにカカオを植えてチョコレート作りや商品開発をおこないつつ、殻を使ったバイオマス発電でスマートシティ化していくという構想なのですが、その中で電力の部分でかかわっていきたいと思っています。ただここから先は社内の承認を取っている話ではないのですが……。

角氏:加藤さんの頭の中にある話ということで伺いますので、どんどん話しちゃってください。

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加藤氏:はい(笑)。ピッチでプレゼンした話が続いていまして、通常地域で発電をすると売電したらおしまいというのが一般的な形ですが、そこを売電で得た利益の一部を地域に再投資してもらうようにします。その中で上野さんには色々な構想があるのですが、われわれがかかわるのは地域にEVを設置していくという部分です。

 今ココネットは90%以上がガソリン車で、カーボンニュートラルの観点からEVにしたいのですが、高くて買い替えられないんです。一部名古屋などでEVを走らせていますが、国の補助金をもらってできている話でして。そこでココネットの車両を地域でシェアする仕組みを作ろうと。

地域貢献でEVを“使わせてもらう”形を模索

角氏:どのような事業モデルになるのか、具体的にお話しください。

加藤氏:ココネットはEVをデリバリーで使いますが、その時に通院する老人を乗せたり、お子さんの習いごとの送迎をしたりします。つまりEV車両が地域のインフラ・資源となっていて、ココネットは保有するのではなく、使わせてもらっているという形にするのです。

 その分われわれは買い物代行もするし、地域に必要な貨客混載や2種免許が必要な病院の送り迎えもする。自治体は売電収益で地域に再び設備投資できるので、われわれが100%EV保有コストを負担しなくても済むという考え方です。これを色々なところでやりたいと考えています。

角氏:なるほど。

加藤氏:送り迎えや買い物の課題は、地域に行けば行くほど大きくなります。ただドローンと一緒で、1台入れていくらだと地域は人口も少なくメッシュも荒いので、需要も少ないしデリバリーとしては非効率なんですね。そういった時にモノを届けるだけではなくて、人を送り迎えすることで穴を埋められる。

 あとは、ココネットのメインの時間帯はだいたい11時から20時なので、われわれが使っていないときは他の方に使っていただくという形もあります。駅前に置ければカーシェア的に使ってもらってもいいですし。そして災害時はEVを地域の電源にしていくということもできる。すると地域の人に受けるのではないかと、上野さんと話しています。

角氏:これもSEINO LIMITと同じ話ですよね。地域にある資源をオープンにして自由に使えるようにすることによって、1社がコストを全負担するというスタイルをなくし、資源を有効に使えるようにすることでみんなが暮らしやすくなっていく。物流インフラをオープンにすることによって赤字を抱えなくて済むようになり、地域の人たちも便利になると。

加藤氏:会社に承認を得ていないアイデアなのですが(笑)、うちのセンターの一部を発電施設にしてもいいと考えたりもします。

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角氏:構想だとしても、そういう最前線のお話が聞けて楽しいです(笑)

加藤氏:構想としてはほかにも、物流現場の課題である廃パレットの問題とか。

角氏:ハイパレットって何でしょう?

加藤氏:荷物の輸送時に載せる木製のパレットです。あれは最後どこに集約されるかというと、多くは物流事業者に溜まっていくんです。工場からパレットに載せてご出荷頂き、納品後は物流現場にパレットがたまってしまうケースが多くあります。最終的には物流事業者がコストをかけて処理をしていることが多く、そこに年間何千万円ものコストをかける事もあるんです。

ARCHを通じて出会った「スペースクール」

角氏:大阪ガス子会社のSPACECOOL(スペースクール)との協業についてもお話されていましたよね。SPACECOOLが開発している放射冷却素材の活用について、カンガルー便のトラックに貼るなど色々使い方についてプレゼンされていて、SDGs文脈で面白いと思ったのですが。

加藤氏:お伝えできる部分では、実証ベースでココネットの車両にフィルム型のSPACECOOL素材を貼ったところまでですが、インドネシアのグループ会社を通じてインドネシアで車両に貼れないか、ビジネスにできないかというところで今ディスカッションしています。ほかにも当社と関係の深いトラック架装メーカーに、製品に組み込めるのではと紹介したり、ココネットの沖縄の車両に貼ろうかという話をしていて、粛々と進んでいるといったところです。

角氏:一緒に取り組もうという話になったきっかけはARCHですか?

加藤氏:そうです。あのときのピッチイベントの直前に、協業パートナーとしてどうかとお声がけいただいたんです。

角氏:テレ東さんがイベントを作っていなかったらやってなかった?

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加藤氏:でしょうね。ARCHがなかったら、そもそもああいう技術があることなんてわかりませんから。

出会いを次のプロジェクトに「トスする」

角氏:ARCHで生まれた出会いから次のプロジェクトへと、一部すでに加藤さんが手を離して物事が動いているというのも、SEINO LIMITのオープンパブリックな考えにつながる話ですよね。自分で全部抱えていたら広がりが限られてしまうじゃないですか。

加藤氏:私は、アンテナの感度を高くして、とにかくレシーブすることを大事にしているんです。それをトスアップしたものをどんな料理にするかは、また別の話になります。地方に行ったときに様々な課題を伺いますが、それをいかにレシーブできるかということが大きいんです。新規事業はどこで生まれるかわかりませんし、結局は出会いの数だと思うので。なるべく人と会って、出会いの機会を作ることを心がけています。

角氏:SEINO LIMITの考え方もそうですし、加藤さん個人の考え方もレシーブという言葉を使われていましたが、それってギブの精神じゃないですか。自分で決めてやろうではなくて、誰かが決められればいいという。

加藤氏:そうですね。そう思っていますね。新規事業に類する組織はそういう情報が集まってくる部署でないといけないと思っています。そしてそれが次につながるように、ある程度料理してあげる。

角氏:確かに加藤さんには、あの人ならレシーブしてくれるという安心感がありますね(笑)。だからSPACECOOLの時も声がかかったんですよ。

加藤氏:僕もそうですが、トスを上げるところまでがこういう舞台の役割だと思います。

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角氏:トスって多分、ちゃんと「こういうシナリオじゃないかな」と決めてあげることだと思うんです。それを決めてあげられる人はなかなかいないんですよね。でもそこを心がけて、実際に結果も出されているので素晴らしい。

加藤氏:充分にできているとは思っていませんけどね。あとは、各事業会社や事業部がやりたいことは何なのか、同時に両輪で把握しておく必要もあります。僕は地域の課題を解決したいのでまたその話になってしまいますが、地域の人に「課題は何ですか?」と尋ねるのはおかしいと思っています。地域の人たちはそれが見え辛くなっているから、何か提案して欲しいと思っているケースが多いと思います。そこに事業会社の目線で、答えを投げ込めるようにしたいんです。ただそれは“1社”でなく、オープンイノベーションによって実現する“ワンチーム”でないとできない。単独でできるとは思っていません。

角氏:広げていくスタンスといいますか、自分たちだけではコスト面などの理由でできないということを最初に理解して、広めていくという方向性を考えられているところが素晴らしい。僕らも公民連携の事業に挑戦しようと思っているので、今日はとても勉強になりました。ありがとうございました!

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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