一概に海外がオシャレで日本はそうではない、というわけではありません。1つは日本の結婚式の独特な「マナー」ですね。誰が提唱したのかも、どこから現れたのかもわからない昔ながらのマナーが根強く残っています。たとえば絶対にストッキングを履かなければいけないとか、指先が出ているサンダルなどの靴はダメとか、革製品もダメだとか。
そういう慣習のせいで、参列者としては無難にシンプルな服にしようと考える人も多いと思います。ところが海外はどうかというと、結婚式は必ずしも正装をしなければいけない場ではないんですよね。パーティーの感覚に近いので、みなさん好きな服を着ますし、華やかな洋服も着ます。楽しむこと、お祝いをすることが目的なんです。でも日本はマナーを守ることが目的になってしまっていますよね。
それでいながら、先ほどお話ししたように新郎新婦様のほうはすごくカジュアルダウンしてきています。花嫁さんが髪の毛を結ばずに綺麗に巻くダウンスタイルと呼ばれるものにしていたり、サンダルやスニーカーを履いたり。そういう海外のトレンドが入ってきているなかで、なぜ参列者だけがいまだにガチガチのマナーを守り続けなければいけないのか、そこに違和感がありました。
かといって、ANDYOU DRESSING ROOMでは、ぱっと見はかわいいけれど着るのは勇気がいる、みたいな突飛なドレスを扱うことはありません。でも、ノースリーブのドレスを着てボレロみたいなものを羽織るのであれば、最初から長袖のドレスでいいじゃないですか、という感じで、昔ながらのスタイルばかりにこだわらず、もっとおしゃれを楽しみましょう、といった提案はしています。
——EC専門となると、サイズ感、フィット感の確認が難しいと思いますが、そのあたりはどう解決されていますか。
ネット通販で洋服を買う世代も増えてきてはいますが、まだ抵抗がある方もいらっしゃるのはたしかです。ですので当社としては、レンタルする前にお手持ちのワンピースの実寸で比較していただくという方法をおすすめしています。
ただ、それでもわかりにくい場合もありますので、常時開設しているチャットやLINE電話でご相談いただいたり、Zoomなどを使ったウェブ接客による相談にも応じています。
少しでもご不安な点やご不明な点があれば、お気軽にお問い合わせいただいて、一緒に衣装を決めていく感じですね。最初の頃は「Zoomって何?」状態だったのが、コロナ禍以降はウェブ会議に慣れている方も増えて、ナチュラルに受け入れてくださるようになった実感があります。
——ANDYOU DRESSING ROOMを実際に利用された方からはどんな声が届いていますか。
お客様の反応はすごくいいです。ECサイトですから対面で接客する機会はないですし、当初はお客様との距離が感じられてしまうかなと懸念していましたが、お客様からご返却いただくドレスの箱の中にお手紙が同封されていることがけっこう多いんです。
素敵なドレスを着られて嬉しかった、というようなご自身の喜びをつづっている声や、「周りのみんなから褒められました」という声もよくいただきます。そういうところはやはり女性ならではの感情なのかなと思いますし、私自身サービスの価値みたいなところをそこで改めて感じることができていますね。
——ちなみに今人気のあるドレスはどんなものでしょう。
売れ筋とそうでない商品との差は思った以上にあります。一般的なファッショントレンドに通じるところもあるかなと思いますが、人気があるのは総レースの華やかな印象のドレス、もしくはハイネックですね。「総レースのハイネックドレス」みたいに2つの要素が掛け合わされた商品はすごく人気です。
色味については、最近はパーソナルカラーを気にされる方も多いので、特定の色に集中することはありません。自分に似合う色はみなさんご存知のようなので、色はばらけますね。
——レンタルだと汚れたり、破れたりすることもあると思います。
ドレスによって耐久性が違いますので、4、5回でダメになってしまうものもあれば、10回くらい使えるものもあります。返却されたものをクリーニングして、お直しが必要かどうかをチェックして、必要であれば手を加えて、また貸し出すという流れになります。一着がフル稼働すると半年程度で廃棄になってしまいますが、今のところ750着ほど用意していますので、そこまでフル稼働するようなこともありません。今のところはいいバランスでラインナップできているように思います。
——その割には料金が安すぎるように感じますが、利益は大丈夫でしょうか……。
パーティドレスのレンタル事業は薄利多売のビジネスではあります。婚礼プロデュース事業をメインとしている親会社としては、もう少しどうにかならないのか、と感じるところがあるかもしれません。。
それでも、私としては料金を上げることは全く考えていません。この料金であることが付加価値の1つでもあると思っていますので。この価格設定のままでたくさんのお客様にご利用いただいて、いかにたくさんのお客様の不便を便利に変えていけるかがチャレンジです。今の価格でしっかり利益が出るようにやっていきたいと思っています。
——今のところの業績としてはいかがですか。
まだ難しい状況ではあります。2019年4月にサービスをローンチしましたが、ブライダル業界は繁忙期と閑散期がはっきり分かれていて、春と秋が繁忙期、夏と冬が閑散期になるんです。1年に2回盛り上がりがあるものの、春の盛り上がりが終わった4月後半にローンチしたので、2019年に経験した繁忙期は秋だけでした。
ですので、2年目の2020年春に期待して下準備を頑張っていたところ、ご存じのようにコロナ禍です。ブライダル業界全体が本当に厳しい状況になり、当社も全く受注が入りませんでした。業界全体としてもとても厳しくて、当初の予算通りには進んでいませんでしたが、「今できること、今だからこそできることを一つひとつ丁寧に」という意識をもってグループ全体で取り組んでいました。
とはいえ、結婚式を延期されている方も多くて、そういう方が10月、11月にかなり控えてらっしゃるのも事実です。この2021年の秋以降、業界にとってはすごく盛り上がりが出てくるのかなと期待しています。
——今後改善していきたいと考えている課題はありますか。
ECに不慣れな方にどこまでアプローチできるかは、ずっと課題になり続けるのかなと思っています。当社がコアターゲットとしているのは20代後半のお客様ですから、徐々にITリテラシーの高い方々がコアターゲットに入ってくると思いますが、それでも試着したいという声は一定程度ありますので、そこの初回ハードルをどう乗り越えていくか、ですね。
今は採寸アプリや、自分の体型にフィットするかどうかを3Dグラフィックでチェックできるサービスもありますが、当社としてもハードルが高い技術になりますので、そこをどのようにして打開していくかは考えているところです。
リアルの試着コーナーを作ることも考えられますが、当社としては、北海道から沖縄まで、どこにいらっしゃる方にも同じようにサービスを提供したいという思いがあります。ですから、やるとしても、配送してご試着をしていただくか、サイズの確認方法をもっとわかりやすくして、利用される方が「絶対に合う」という確信がもてる何らかの方法を検討しなければいけないのかなと思っています。
そう言う意味で初回ハードルは高いと思うんですが、1回でも利用していただいた方に関してはリピート率がすごく高いんです。当社のサービスはリピート率が25%もあります。一度利用していただければ、その後も機会があればレンタルに意識が向くと思うんです。継続的に使っていただける方が多いので、いかに初回のハードルを下げるかが経営課題にもなってくるだろうと思います。
また今は一般的なサイズのものしか提供できていませんが、マタニティの方向けなど、一番ドレスを買いたくないタイミングで利用できるような衣装も提供できるようにしたいですね。新郎新婦様のお母様も、これまでは留袖のような和装の方が多かったんですが、最近は洋装の方も多くて、でも意外とお母様層に受ける洋装が少なかったりもします。そういう50〜60代に向けたワンピースドレスも考えられるのかなと思っています。
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