ワーケーションは福利厚生?研修?--企業にとっての「メリットとデメリット」

鈴木円香(一般社団法人みつめる旅・代表理事)2021年11月25日 11時25分
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 前回は個人レベルでのワーケーションのメリット/デメリットがテーマでしたが、今回は会社レベルでのメリット/デメリットについて紹介したいと思います。

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 現在、ワーケーションを社会の中でどのように位置付けるかについて、いろいろな場で議論されています。人を送り込む側の企業にとっては、社員をリフレッシュさせてQOLを上げ、労働生産性を改善することができるだろうから「福利厚生」に含まれるのではないか。新しい環境での事業創造や異業種交流によって人材育成の機会になるのだから「研修」に近いのではないか。あるいは、地方の課題解決によって社会をよりよくすることに貢献できる要素も多いから「CSR(企業の社会的責任)」を果たせるのではないか。

 人事部、それに付随する働き方改革系の部署、CSRやソーシャルイノベーション系の部署、地方創生系の部署など、企業の中でワーケーションに興味を持っている各部署の皆さんは、この新しくやってきたワークスタイルをどう捉え、会社に取り込んでいくか頭を悩ませています。

 ワーケーションは、「福利厚生」なのか?「研修」なのか?「CSR活動」なのか?結論から言えば、どれも当てはまります。ワーケーションは、福利厚生であり、研修であり、CSR活動です。すべての要素をあわせ持っています。

 それでも、企業にとっては、

  • 本当に、労働生産性は上がるのか?
  • 本当に、人材育成になるのか?
  • 本当に、イノベーティブなアイデアや事業は生まれるのか?
  • 本当に、優秀な若手社員の離職率ダウンにつながるのか?

 といった疑問がまだまだ根強くあり、社内の制度を変更してまで社員をワーケーションに送り込むことに積極的になれずにいます。現時点(2021年秋)では、ワーケーションを実際にやっている人はほとんど個人として動いていて、会社公認で実践している人はごく一部に留まっています。

最大のメリットは「自律型人材の育成」

 前回、ワーケーションの本質は「自分で決めること」にあるという話をしました。旅をしながら仕事をする体験を通じて、「wantの発見」→「能動性の再起動」→「結果の引き受け」のサイクルが回り続けることで、個人レベルでは「人生の主導権を取り戻す」というメリットがあるわけですが、これは会社レベルに置き換えても同じです。

 近年、「自律型人材の育成が急務」だとよく言われますが、「wantの発見」→「能動性の再起動」→「結果の引き受け」が自然とできるようになっている人材こそ、会社の側から見ればまさに「自律型人材」であり、喉から手が出るほど欲しい人材であると言えます。

 企業が制度上の数々のハードルを乗り越えてまで、ワーケーションを導入するメリットがあるとすれば、この点が最大の理由になると思います。「研修」「福利厚生」「CSR」のどの文脈で捉えて実施するにしろ、そこには必ず「自律型人材の育成」に繋がる「自分で決める体験」が織り込まれているべきです。

 そして、そうした「自律型人材の育成」を通じて、

  • 若手社員の離職率が下がらない
  • 中高年社員の労働生産性が低い
  • イノベーションにつながるような新規事業が生まれない
  • メンタルの問題を抱える社員が多い

 といった積年の課題に効果が生まれます。上記のような具体的課題にワーケーションがどのように効いてくるかについては、拙著「どこでもオフィスの時代」(日本経済新聞出版)に事例を踏まえて詳しく書いてありますので、ご興味のある方はそちらをご覧ください。

メリットを最大化させるために必要なこと

 したがって、もし読者の皆さんの中に、会社の経営層の方、組織の意思決定層の方がいらっしゃったら、ぜひお願いしたいことがあります。それは、従業員の皆さんにワーケーションを推奨するのであれば、必ずそこでの過ごし方を個々人が「自主的に考えて決めること」とセットで実施していただきたいということです。

 しかし残念ながら実際には、「朝10時から夕方18時までは常に連絡が取れる状態で、PCの前にいること」という会社からの条件つきでワーケーションに来ている会社員の方が少なくありません。つまり普段、オフィスに出社しているときとまったく同じ状態でワーケーション中も過ごしなさいと会社から言われているわけですが、残念ながら、それではワーケーションの意味がほとんどありません。

 ワーケーション中は、一人ひとりが自由に自分の中のWant(真にやりたいこと)と向き合い、自由に時間の使い方をデザインするべきです。こういうと、組織のルールを無視して自分勝手に生きる人が増えてしまうような印象を持ってしまう方もいるかもしれません。特に企業の管理職や経営層のなかには、「そんな人間が社内で増えたら困るよ」「そんなことをしたら、会社を辞めちゃうんじゃないの?」と心配する方も少なくないでしょう。

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 でも、実際は逆で、心配は杞憂です。むしろ、これからの時代は、組織の中に「自分の人生の主導権を握れていない人材」を抱え続ける方が、経営上のリスクであるとさえ言えます。売上の前年比増、株価の最大化……。揺るぎない一つの「正解」のために、トップダウンで全員が同じ方法論に則って一直線に頑張れば確実に結果が出た時代には、確かに自分のwill(意思)はいったん脇に置いて全力疾走できる人材こそが、評価されました。

 対して、今回の新型コロナウイルスの蔓延により変化が一気に加速し、明確になったように、これからは「正解」のない時代です。正解がない時代には、自分の頭で考えて動ける人材こそが求められる、そんな話も頻繁に耳にしました。でも、「正解がない時代」って結局何なの?「自分で考えて動ける人材」って結局誰なの?それがわからない……。どこの企業も悩んでいる問題です。

企業が抱える課題への処方箋として

 そして、この問題に対する処方箋こそ、「自分の人生の主導権を握れる人材を増やすこと」なのです。自分が今、心の底からやりたいことがわかっている人は、当然ながら、モチベーションが常に極めて高い状態にあります。「自分の仕事の専門領域」と「自分のモチベーションが高まる領域」が重なり合うポイントを、積極的に見つけ出すことができます。そのポイントにおいて、実現したいことを具体的に思い描くことができます。

 さらに、思い描いたことを実現するために行動を起こすことができます。正解も正攻法もない時代に、そういう人材はどこの企業も喉から手が出るほど欲しいのです。

 ワーケーションを通じて、自分の人生の主導権を取り戻す人材、つまり一般的に言われる「自律型人材」が増えれば、会社にとっても実はいいことずくめです。そして、言うまでもなく、個人にとってはこの先どのように時代が変化しようとも、社会から求められる人材であり続けられるわけです。

ワーケーションを取り入れ始めた企業

 現時点で、ほとんどの企業はワーケーションを取り入れる積極的な理由を見いだせていません。自然に囲まれた環境で仕事をすれば、気分もリフレッシュして生産性が上がる、というのはなんとなくわかる。でも、そのメリットだけでは、「勤怠管理をどうするの?」「セキュリティは守られるの?」「労災はどうするの?」といった制度上の種々のハードルを越えてまで推し進められないと二の足を踏んでいる。それが企業の本音です。

 対して、社内の経営層やその他の意思決定層など決裁権を持つ人が、実際に自分でワーケーションを体験し「これは意味がある」と実感した場合、そのあとの企業の動きは比較的スムーズです。「ワーケーションって、本当にいいの?」と疑問を感じている、企業の意思決定層の方がいらっしゃったら、一度ご自身でワーケーションにチャレンジすることをおすすめします。

 最後に、私たちが企画・運営するワーケーションに会社公認で7泊8日の日程で参加した日系大手企業の役員クラスの方が言語化してくださった、「ワーケーションをするメリット」を紹介しておきましょう。

 「仕事をする上で、普段からたくさんの物事に触れていることがとても大事です。新しい企画や斬新なアイデアは、そういう刺激がエネルギー源となって生まれてきます。また経営面でも重要な意思決定をする際には、物事を自分の目で見ている人材が最終的には強いんです。人から聞いた話では意思決定をする勇気が湧きません。いくら緻密な数字やデータが膨大にあっても、最後は自分の体感知で『これはいける』と飛ぶしかない局面は、どうしてもあります。なので、普段から自分の身体で感じて頭で考える“体感知”を鍛えておくことが非常に重要です。その意味で部下にはワーケーションを強くすすめます」

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(書籍「どこでもオフィスの時代」に関する情報はこちら

鈴木円香(すずき・まどか)

一般社団法人みつめる旅・代表理事

1983年兵庫県生まれ。2006年京都大学総合人間学部卒、朝日新聞出版、ダイヤモンド社で書籍の編集を経て、2016年に独立。旅行で訪れた五島に魅せられ、2018年に五島の写真家と共にフォトガイドブックを出版、2019年にはBusiness Insider Japan主催のリモートワーク実証実験、五島市主催のワーケーション・チャレンジの企画・運営を務め、今年2020年には第2回五島市主催ワーケーション・チャレンジ「島ぐらしワーケーションin GOTO」も手がける。

「観光閑散期に平均6泊の長期滞在」「申込者の約4割が組織の意思決定層」「宣伝広告費ゼロで1.9倍の集客」などの成果が、ワーケーション領域で注目される。その他、廃校を活用したクリエイターインレジデンスの企画も設計、五島と都市部の豊かな関係人口を創出するべく東京と五島を行き来しながら活動中。本業では、ニュースメディア「ウートピ」編集長、SHELLYがMCを務めるAbemaTV「Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜」レギュラーコメンテーターなども務める。

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