Facebook(フェイスブック)は米国時間10月28日、社名を「Facebook(フェイスブック)」から「Meta(メタ)」に変更した。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者によると、従来のSNS事業に加えて「メタバース」の構築に事業をリブランディングするため、社名の変更に踏み切ったとのことである。
最近よく耳にするようになった「メタバース(metaverse)」。これは英語の「超(meta)」と「宇宙(universe)」を組み合わせた造語である。もともとはSF作家ニール・スティーヴンスンが1992年に発表した作品『スノウ・クラッシュ』に登場する、架空の仮想空間サービスに付けられた名前を指していた。現在は、オンラインに構築された3DCGの仮想空間の説明する際によく用いられる。人々は世界中から自分の好きなアバターで仮想空間に参加し、そこでフィジカルとは別の仮想空間で、「現実」として新たな生活を送る。これまでSF小説で描かれてきたアイデアが、現実のサービスとして提供されている。
最近のニュースでは「メタバース(metaverse)」という言葉がよく用いられるが、定義自体が人によって大きく異なったり、いくつかの付加的な意味が込められており、いまいち理解できていない人も多い。メタバースという言葉によってコモディティ化された感はあるが、一方で、「バーチャルSNS」や「VR SNS」と呼ぶ人もいる。そこで、バーチャル空間で学校運営やバーチャル美術館などのイベントを開催してきた筆者の見解をもとに解説していきたい。
メタバースの代表的なものは、2000年代に一世を風靡したサービス「セカンドライフ」や、以前筆者がコラム(※2021年7月15日掲載「世界で最も“カオス”なVR空間「VRChat」とはなにか--その魅力から始め方までを解説」)でも紹介した「VRChat」などが挙げられるだろう。またそれだけに限らず、Nintendo Switch用ゲーム「あつまれ どうぶつの森」も、メタバースの一つであると言う人もいる。メタバースという言葉を使うこと自体適切かどうかと考える人もいるが、そもそもメタバースという造語は、
【超(meta)+宇宙(universe)】
という二つの単語から構成されている。インターネット上に構築される多人数参加型の3次元空間のことの説明として使われるが、メタバースは単なる仮想空間だけを指すのではなく、より広いイメージを筆者は持っている。メタバースは単一の仮想空間そのものを表すのではなく、「現実世界」も含んださまざまな仮想空間の集合体というイメージだ。そのため、VRChatやFortniteなどは現状まだメタバースと呼べるものではなく、バーチャルSNSサービスが独立して存在している状態に近い。そもそも「宇宙」という意味を持つ「universe」から、わざわざ「uni(単)」の部分をとって、そこに「meta」を組み込んでいるので、単一の仮想空間ではなく、単一の空間が銀河のように多数存在し、それぞれが併存しているという感じである。VRChatやセカンドライフを代表に、日本からもclusterやREALITYなどマルチプラットフォーム対応のバーチャルSNSは生まれている。今後も世界からたくさんのバーチャルSNSが誕生し、それぞれが一つの宇宙を創造していくと想像すると、ワクワクしないだろうか。
これまでのゲーム業界は、どれだけプレイヤーを増やすかという覇権争いが目立ったが、今後は、どれだけインターネットに接続する人を増やすかがポイントになってくる。宇宙(ここでいうバーチャル空間)を増やして、それぞれを相互接続してユーザーとを増やすということの重要性が増していきそうである。Facebookのkeynoteの発表の順番もゲームからスタートしていたところから、今後のゲームの可能性、あるいはゲームの形がこれまでのゲームとは全く異なる形になっていくのだろうと感じた。フィジカルな現実世界は、無数に存在する宇宙空間の一部となり、それぞれの仮想空間や現実世界を行き来し、それぞれの空間にそれぞれの経済が発展していくと妄想すると、本当にSF小説の世界になっていく。
メタバースが注目された理由の一つに、コロナ禍で人々が対面することが難しくなったことが挙げられる。音楽イベントなどはコロナによる影響が大きかったが、2020年8月には、シンガーソングライターの米津玄師さんが、バトルゲーム「FORTNITE(フォートナイト)」の空間でイベントを開催した。従来のコンサートとは趣の違うイベントではあったが、雷が鳴ったり、紙吹雪が降り注いだりする演出もあり、バーチャルでしかできない演出には驚かされた人も多いだろう。複数のユーザーがバーチャル空間で同じ音楽イベントに参加した事実は、もはやゲームのあり方を変え、FORTNITEというゲーム空間もメタバースの一部分であるとも言える。
現状、仮想空間には、VR HMDを被って体験するものから、スマホやPCなどでも体験が可能なものもあり、メタバースの入り口は最低限の共通化がされ多様になってきた。しかし、ユーザーからすると、例えばVRChatでは使えたアバターが他の仮想空間では使えないなどが発生すると、ストレスを感じることがある。そういった意味では、全ての空間を相互接続すべきかどうか、あるいは相互接続されていくか、全ての空間を相互接続にするかは少し懐疑的である。企業がVR OSの開発を進めれば、その環境に依存したアプリケーションがOS上に公開されるかもしれない。そうなってくると、依存関係や互換性の問題、覇権争いなど、想像しているメタバースよりも複雑なものになる可能性もある。
メタバースを語る上で欠かせないのがアバター文化である。現状、バーチャル空間に接続するときは、各々が好みのアバターで空間に入り、そこで他のユーザーと交流をしたり、コミュニティを作ったり、ゲームをしたりして生活をする。自分自身をスキャニングしてフィジカルの自分と同じ見た目のリアルアバターを使う人もいたり、こだわった自作のアバターを披露したりする人、またバーチャル上でのファンションショーなども存在し、アバターに対するアイデンティティがそこには垣間見える。
アバターを活用するというのは、メタバースの大きな特徴である。バーチャル上で恋愛に発展したり(中身はおじさん同士がイチャイチャしているということもある)、バーチャル上で出会った人と結婚したりするケースも報告されている。アバターによって視覚情報をジャックできるというのは、性別とか見た目とかではなく、気が合うとか性格が合うなど、より人間を表層的なバイアスではない部分で評価できることにもつながってもいる。つまり、自分あるいは他人の視覚からくるバイアスを修正しやすいため、現実世界と違う人との出会い方ができ、違う文化や社会が育っていく。
メタバースはエンタメに限らず、さまざまな業界で活用されていくことになるだろう。VRならではの新規ビジネスだけなく、新たなマーケティング施策も行えるようになる。現実には再現が難しいシミュレーションやトレーニングをVRで行うケースも増えてきている。ただ、現状は、VRゴーグルなどの機材や高性能なパソコンなど、メタバースを楽しむためにはある程度の費用と知識が必要と感じる。しかし、参入障壁や手軽さはここ数年で大きく改善されてきている。メタバースの普及は少し先になるかもしれないが、ここから急速に発展していくメタバースで我々の生活が180度変わるのは、もう目の前かもしれない。
齊藤大将
Steins Inc. CEO兼CTO
エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。在学中に現地コーディネート事業で起業。大学院では文学の数値解析の研究と小型人工衛星研究開発に従事。エストニアでのハッカソンでの受賞歴や、登壇多数。 VR美術館をはじめするアートに関するVR・AIの事業に力を入れている。元テニスコーチ。
Twitter @T_I_SHOW
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス