多治見で始まった再エネ利用のシェアEV--脱炭素と地域循環への新たな挑戦

 岐阜県の多治見駅前で、再生可能エネルギーを利用した電気自動車と電動自転車のシェアリングサービスがスタートした。屋根部分に太陽光パネルを備え、発電したエネルギーで車や自転車を充電し、動かせる次世代型充電インフラ「E-Cube」を採用する。

 手掛けたのは、多治見市で再生可能エネルギー事業を数多く提供するエネファント。地元企業であるエネファントを中心に、エネルギー端末を供給するパナソニック、シェアリングシステムを担うSBテクノロジー、さらに次世代EVに取り組むAZAPAなどが手を組み、脱炭素と地域循環に関する新たな挑戦が始まっているという。

各企業の役割
各企業の役割

 電気自動車と電動自転車のシェアリングサービスは、多治見駅北口と南口に設置。現在、プレサービスとして運用しており、12月から本格稼働する予定だ。利用できる電気自動車はトヨタ自動車の超小型EV「C+pod」で、現在計4台を用意する。多治見市エリアには、このほかシェアサイクルの貸し出し拠点14カ所も設置しており、こちらは、10月にサービスをスタートしている。

次世代型充電インフラ「E-Cube」
次世代型充電インフラ「E-Cube」
貸し出し用のEV車としてトヨタ自動車の「C+Pod」を用意
貸し出し用のEV車としてトヨタ自動車の「C+Pod」を用意

 E-Cubeは再生可能エネルギーを活用したマルチモビリティプラットフォーム。太陽光パネル12枚を備え、発電出力は3.84kW。約6時間でC+podを満充電できるという。コンテナ型の自立パッケージのため、工事は不要で、2時間程度で設置が可能。エネファント 代表取締役の磯崎(漢字は立つ崎)顕三氏は「地域に電源を作ることによって、街の困りごとを解決していきたい。平常時はマルチモビリティプラットフォームだが、災害時には電源を地域の方に供給できる。ここを拠点に5Gや公衆Wi-Fiを整備したり、周囲の草刈りをする草刈りロボットを設置したりといった使い方も可能だ」と電気を作り、貯められる一体型施設であること、系統電力につながず使用できること、据え付けではなくコンテナ型であること、などの強みをいかした利用法を提案する。

 シェアリングサービスには、SBテクノロジーのシステムを採用する。貸し出し時にはスマートフォンで解錠できるバーチャルキーを使い、非対面での鍵の受け渡しを実現。貸し出し、返却、操作履歴もログとして残す。

 リアルタイムで走行情報やバッテリーデータを取り込み、二酸化炭素の削減量を見える化する。SBテクノロジー 執行役員の児玉崇氏は「太陽光による再生可能エネルギーを使ったクリーンな移動体験と、どれだけ二酸化炭素が削減できたかを可視化することで、環境への貢献度をはっきりさせる。これにより、環境問題を身近に感じてもらえるはず」と、電動自動車シェアリングと二酸化炭素削減量の見える化で狙う効果を話す。

CO2削減量の見える化
CO2削減量の見える化

 アプリには、シェアサイクルで4100カ所の導入実績を持つ、OpenStreetの「HELLOSCOOTER(ハロースクーター)」を採用。スマートシティに向けたビッグデータの活用にもつなげる。

次世代EVが切り拓く電気自動車の普及

 シェアリングにおける再生可能エネルギーの利用を促す一方で、電気自動車の普及にも取り組む。商用バンや軽トラックなどのガソリン車にバッテリーを搭載し、電気自動車へと転換する次世代EV(コンバージョンEV)の導入を進める。

 コンバージョンEVの知見を持つAZAPAが主要部分の設計を担い、多治見を拠点に据える米田モータースが実際のEV化を推進。AZAPA 代表取締役社長の近藤康弘氏は「地域が自立的にアップデートするために必要なのは、エネルギーとモビリティの融合。このチャレンジをみなさんと一緒にやる」と意気込む。搭載するバッテリーは、EV車に搭載されていたものを再利用することで環境への負荷を低減。バッテリー自体の流通性も上げていく。

 「EV車の普及は高所得者には進んでいるが、一定層からなかなか進んでいかない状態。すべての人にEVを普及させるには、ビジネスとテクノロジーを両輪で回し、しっかりと経済循環を構築していくことが大切。この動きをPoCではなく、事業として実施することで、新しいビジネスモデルのチャンスにつなげる」(近藤氏)と、EV車における現状の問題点を指摘する。

 現在、コンバージョンEVの販売価格は350万円ほどと高価。車両価格に加え、コンバージョンするための追加費用が170万円程度かかる見通しだ。これに対し近藤氏は「スケールさせていくにはコストを下げていく必要がある。1000台の目標台数を実現できれば、150万円程度になると試算している」と今後を見据える。

ガソリン車にバッテリーを搭載し、電気自動車へと転換する次世代EV(コンバージョンEV)。電池を搭載した分、荷台のスペースは狭くなる
ガソリン車にバッテリーを搭載し、電気自動車へと転換する次世代EV(コンバージョンEV)。電池を搭載した分、荷台のスペースは狭くなる

 パナソニック エレクトリックワークス社主任技師の西川弘記氏は「多治見の取り組みがほかの地域と違うのは、実証実験やPoCではなく、エネファントという地元企業が自らの力で実装を進めている点。そうした動きに対し、米田モータースを始め、SBテクノロジー、AZAPA、パナソニックと多くの企業が支援している。ソーラーカーポートと次世代EV、シェアリングなどを組み合わせることで、環境に優しく、賢い電気の利用を促進できる。移動する喜びに加え、脱炭素に向け生活が変わり豊かになる。この環境を提供していくことが私たちの務め。多治見での取り組みは他地域からも注目されており、パナソニックへの問い合わせも多い。事業としての手応えを感じている」と説明する。

 磯崎氏は「多治見は車が重要な足の一つになっているが、お酒を飲んで帰りたいときは運転代行を呼ばなければならず大変。今回開始したEV車のシェアリングと自動運転を組み合わせ、将来的にはお酒を飲んでも帰れる街を目指したい」とした。

左から、パナソニック エレクトリックワークス社主任技師の西川弘記氏、AZAPA 代表取締役社長の近藤康弘氏、エネファント 代表取締役の磯崎顕三氏、米田モータース 代表取締役の米田一哉氏、SBテクノロジー 執行役員の児玉崇氏、OpenStreet 代表取締役社長の工藤智彰氏
左から、パナソニック エレクトリックワークス社主任技師の西川弘記氏、AZAPA 代表取締役社長の近藤康弘氏、エネファント 代表取締役の磯崎顕三氏、米田モータース 代表取締役の米田一哉氏、SBテクノロジー 執行役員の児玉崇氏、OpenStreet 代表取締役社長の工藤智彰氏

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