10月25日から5日間連続で開催された本誌主催のウェブセミナー「CNET Japan FoodTech Festival 2021」。テクノロジーの側面から食の価値や安全性の向上、食に関わる社会課題などの解決を目指す各社の取り組みを紹介するこのイベントは、今回で3回目。2020年に続き2回目のオンライン開催となった。
最終日、前半のセミナーは、献立自動作成アプリ「conomeal kitchen(このみるきっちん)」を提供している冷凍食品大手のニチレイと、同様の献立アプリ「me:new(ミーニュー)」を提供しているミーニューの2社。両社は11月1日より互いのアプリを「me:new」へ統合をすすめていく。競合にも見える両アプリがなぜ統合へと至ったのか、そして新生me:newが今後どのように進化していくのか、経緯と展望について語った。
ニチレイが提供してきたconomeal kitchenは、つくりおきできる献立などを提案するアプリ。食嗜好分析AIによってユーザーの気分や好みに合わせた献立提案をしてくれるのも特徴だった。
一方のme:newは、最長1週間分の献立をまとめて作成するアプリ。主に小さい子供がいる家庭に向けて、親と子供が一緒に食べられるレシピや、アレルギー対応のレシピを提案する、といった特徴をもつ。
どちらのアプリも、一品料理のレシピというより複数のメニューからなる「献立」について、一定期間分をAIを用いて「提案」するという共通項がある。多くの人が悩みを抱えやすい「献立を考える」という家事負担の軽減を狙っているという部分でも、目的は同じくするところがあった。
以前からme:newをライバルとしては見ておらず、「心の中では、一緒にできればと思っていた」という関屋氏。conomeal kitchenのリリースから約1年、実際にサービス運営をしてきたことで、ユーザーが求めるものを提供し続けることの難しさも実感していた。
そんななかでミーニューの三宅氏側から提案があり、早いうちにアプリを統合した方がユーザーのためになると考え、8月にニチレイがミーニューの全株式を取得して買収。11月1日からは、アプリとしてはme:newが存続し、そこにconomeal kitchenで培った食嗜好分析AIが搭載されることになった。
統合後のme:newではどんなことが実現されていくことになるのだろうか。関屋氏はその前に、ニチレイが2012年から実施している「食生活満足度調査」の2021年の結果において、「健康」と「おいしさ」に加えて「ムード」というキーワードが目立ってきていると説明する。
巣ごもりにより家庭で食事する機会が増え、料理に関心が高まったことや、「食そのものではなく、ムード、気分を大事にすることも食に求められてきている」のではないかと分析し、今後は料理に対して「栄養」や「おいしさ」だけでなく、「社会性・承認・自己実現」という要素も加わるだろうと見る。
たとえば「おいしくて健康的で、手間がかからず見栄えのいい料理」が求められることが考えられる。だとすれば、me:newがユーザーのそうした複雑なニーズに対していかに適切な献立を提案し、価値提供できるかが鍵になってくるだろう。
そのため、現在のme:newが実現している「高効率な、時短ができる献立」に加えて、今後は「好みに合う献立」、「栄養バランスのいい献立」、そして最終的には「食材を使い切る、ロスが少ない献立」の実現を目指したい、と話す関屋氏。そこでconomeal kitchenが活用していた食嗜好分析AIが重要な役割を担うことになるとした。
食嗜好分析AIでは、ユーザーがその時の気分を答えることで献立を生成していた。関屋氏がこれらのデータからユーザーが実際にどんなレシピを求めているのかを分析したところ、たとえば「ほっとする味」を選んだユーザーには、「休日に、退屈だから鍋パーティを開いてやる気を出したい、ホームパーティでボリュームのある料理を」といった潜在的な要望があることがわかってきた。
このパターンでは、鍋レシピやパーティレシピを充実させ、気分が晴れる彩りのある盛り付けを提案する、というような改善策が考えられる。同氏によれば、こうした潜在的な感情パターンは現在のところ34種類ほど見つかっており、ユーザーのアクションから潜在感情を深く推定していくことで、よりニーズにマッチした献立を生成できるようになると見込んでいる。
一方でme:newにおいても、献立提案のAIアルゴリズムは「当初より洗練されてきている」と三宅氏。さらには法人向けの献立作成機能クラウドサービス「Menu Planner」も提供し、企業が運営するアプリやWebサービスにme:newの献立生成機能などを埋め込めるようにするなど、新たな展開もスタートしている。
Menu Plannerを実装した例として紹介した生活協同組合コープこうべのアプリでは、1週間分の献立を生成すると、料理に必要な食材の買い物リストが自動作成され、食材ごとの値段を確認しながらコープこうべに直接注文できる仕組みを実現している。
アプリ利用者からは「レパートリーが増え、フードロスが減った」、献立を考えるときの「精神的な負担が減った」、あるいは「調理時間わかるので計画的に家事ができるようになった」という声が届いているほか、コープこうべにおいては「献立機能の利用者の注文額が上がっている」という効果が出始めているとのこと。
me:newでは今後、設定した予算の範囲内で献立を生成する機能や、食材をよりうまく使い切れるようなアルゴリズムをリリースする計画。将来的にはコープ以外の食品宅配事業者との提携や、使用頻度が低くなりがちな調理家電をより使いこなせるような献立提案も検討している。
また、ウェアラブルデバイスから取得したバイタルデータから、その人の体調に応じた献立の提案、買い物レシートの情報を元にした献立の提案も考えられる、と三宅氏。ニチレイのリソースを活用することで、これまでミーニュー単独では取り組むのが難しかった料理自体のサポートも可能になり、「献立作成から買い物、料理手順までを、高いレベルで、ワンストップで提供可能になるのではないか」と期待している。
関屋氏も、「便利に使える、ロスが少ない、栄養価が高いなど、冷凍食品がもっている価値を伝えられるサービスがme:new。冷凍食品をうまく使ったレシピを拡充していくことで、冷凍食品全体のブランド価値が上がり、最終的にニチレイの商品を使っていただけることにつながる」と述べ、me:newをグループに抱えることになるニチレイ側のメリットもアピールする。
「健康的な食生活を送ることで、自分自身の心にゆとり、スペースができ、ほかのことにそのスペースをあてられる」とし、誰もがそんな食事ができるように「ユーザーが本当に欲しいものを理解し続けられるサービスにしていきたい」と抱負を語った関屋氏。対して三宅氏は、小さい子供がいる忙しい家庭に向け、「時短を支援し、穏やかな時間を過ごせる食生活体験を実現したい」というme:newの元々のコンセプトも大事にしていく考えを明かす。
大企業とベンチャーという組み合わせではあるものの、「カルチャーが似通っていて、互いのチームの相性はいい」とのこと。両社の強みを兼ね備え、新たな一歩を踏み出すme:newが日本の食生活をどんな風に変えていくのか、注目していきたい。
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