サッポロが打ち出すフードテックの新機軸--現役パパ社員が開発したレシピ提案アプリ「うちレピ」

 CNET Japanは10月25〜29日の5日間にわたり、オンラインカンファレンス「CNET Japan FoodTech Festival 2021」を開催した。3回目を迎えた今回のテーマは「フードテックで変わる食のエコシステム〜生産から消費まで〜」。

 初日となる10月25日には、トップバッターとしてサッポロホールディングス 経営企画部 新規事業準備室 マネージャーの保坂将志氏と同マネージャーの河内隼太郎氏が登場し、新規事業として取り組んでいるレシピ提案アプリ「うちレピ」によって同社が目指すフードテックイノベーションついて語った。

サッポロホールディングス 経営企画部
新規事業準備室 マネージャーの保坂将志氏(右下)と同 河内隼太郎氏(左上)。右上はモデレータのCNET
Japan編集長の藤井涼
サッポロホールディングス 経営企画部 新規事業準備室 マネージャーの保坂将志氏(左上)と同 河内隼太郎氏(右下)。モデレータのCNET Japan編集長の藤井涼(右上)

 うちレピは、サッポログループで開催されたビジネスコンテストから生まれた新規事業だ。今回登壇した両名の“現役パパ社員”が抱えていた課題から誕生したプロダクトで、「料理の作り手の負担を軽減するだけでなく、家族みんなが楽しく料理に参加できることをコンセプトとする、次世代のレシピ提案サービス」(保坂氏)となっている。現在ベータ版をウェブアプリとして公開中で、2022年に正式版のアプリがリリースされる予定だという。

うちレピイメージ画面
「うちレピ」のイメージ画面

 サッポログループは1876年に創業。グループのコア事業として「酒」「食」「飲」を掲げ、サッポロビールやポッカサッポロフード&ビバレッジなどの酒類・飲食事業のほかに、恵比寿ガーデンプレイスなどの不動産事業を手がけるなど、複数の領域で事業展開している。

 その中で同社は、今後を見据えて既存の事業領域を超えた部分で新たな事業を創出していくことが必要になるという認識のもと、2019年に「サッポロビジネスコンテスト」を開催。グループ社員と社外スタートアップ企業との混成チームという組み合わせでコンテストを実施し、事業化の権利を得たのが同サービスである。

 そこから、2020年2月に開催された「CNET Japan Live 2020」において事業の概要を発表。3月に新規事業検討のための専属部署が立ち上がり、2人が現部署に異動して本格的にサービス構築に着手。そして、2021年1月に「うちレピ」としてベータ版を公開し、6月からは複数の協業企業と共に実証実験を進めている。

「配偶者が疲弊」している状況を何とかしたい

 うちレピは、家にある食材で作れるレシピや買い足す食材候補を提案し、料理を通じた家族コミュニケーションができるアプリだが、なぜこの形のサービスが誕生したのか。起点となったのが、両氏の家庭環境である。「お互いに小さい子どもを抱え、特に配偶者が疲弊していた状況を改善したかった」と保坂氏は振り返る。

 そこで既婚女性にアンケートを実施したところ、最も大変な家事が「料理」であったという。その際に、料理を100%夫に移管するという形も考えたが、100%任せたいという女性は少数派だったため、“どちらがやっても負担なく楽しくできないか”を志向する形にサービスの軸が定まった。

主婦に対して実施したアンケートの結果
主婦に対して実施したアンケートの結果

 それらの課題を踏まえたうちレピのコンセプトは、まず「忙しい家庭での料理課題を解決する」こと。忙しい家庭では、まとめ買いをする機会が多くなる。そこで溜まっている在庫をもとに、料理を作るレシピを提示する機能と、まとめ買いをする際に何を買うかを考える手間を省く仕組みを用意した。

 2つめのコンセプトは、「家庭の料理に関するコミュニケーション」である。「料理は作る人へ偏ってしまい、他の家族は無関心になっている。そこを家族全員が料理に参加することで、食という体験を最高の体験に昇華する」(保坂氏)ことを意識している。特に重要なターゲット像が、忙しいために出来合いのもので済ますことが多くなってしまい、自分の料理に対して罪悪感や義務感を背負ってしまっている人たち。そうした人にも、料理や食事の楽しさを感じてもらうことを意識したサービスの建て付けとなっている。

 家族のコミュニケーションについては、LINEを活用して家族で料理に関するやり取りができる仕組み。それによって食べた後に「おいしかった」「ありがとう」を伝えやすくなり、作り手の承認欲求が満たされて一家団欒にもつながる。また、単品のレシピだけでなく献立全般を提案する機能も備えている。これにより、既存のレシピ系サービスを使いこなせないユーザーや、主菜は決まるが副菜が決まらない“もう一品難民”を支援する。

 そしてこれらを実現するために、在庫起点でAIが最適なレシピを提案する機能や、食材を登録するために買ってきた食材のレシート情報を撮影して取り込む機能などの最新テクノロジーを実装しているという。

うちレピのサービス概要
うちレピのサービス概要

食材の登録やおすすめメニュー表示にテクノロジーを活用

 アプリを使うにあたり、食材の登録からレシピ提案までの流れには、家にある食材をリストから選んで登録する方法と、購入してきたレシートを撮影して登録する方法がある。それらを登録すると、家にある食材の中からレシピが提案される。その際、レシート表記にはスーパーマーケットや対象商品によってゆらぎがあるが、例えば、さつまいも、薩摩芋、甘藷、紅あずまなどをすべて“サツマイモ”に変換するマスタを作って対応しているという。

アプリの使い方(食材の登録からレシピ検索までの流れ)
アプリの使い方(食材の登録からレシピ検索までの流れ)

 家族のコミュニケーション機能では、料理をする人が献立を作ってから家族に共有する流れとなる。提案画面からメインのレシピを選ぶと、そのレシピに合うメニューが提案される。その際、選んだレシピのジャンルに比較的近く、一緒に作れるように調理方法が違うものや全体的に栄養のバランスが良くなるものをAIが選択する。そこで献立を決めた後、内容をLINEで家族に共有したり、献立を作る食材リストを送ったり、食べ終わった後に感想を聞いたりできることで、家庭内コミュニケーションを促す仕組みとなっている。

家族コミュニケーション機能
家族コミュニケーション機能

 うちレピで紹介されるレシピは1万6000種類以上あり、それらは20社以上の食品メーカーから提供されたものとなっている。「提供されるレシピは自社製品の魅力を伝える目的でで作られているため、おいしくて失敗がない。初心者から上級者まで、多岐にわたるユーザーに魅力を感じてもらえるコンテンツ」(保坂氏)となる。

20社以上の食品メーカーのメニューを掲載
20社以上の食品メーカーのメニューを掲載

 これらによってうちレピが目指すのは、家族に寄り添うライフスタイルアプリである。その結果、10月末時点で3万4200ユーザーを獲得。特筆すべきは男性の利用率が高いことで、「家族で使っているところが刺さっている」と保坂氏は語る。またウィークリーアクティブユーザー数も1万人で、この数字は国内アプリの上位7〜8%に相当するという。

買い物から調理までの「一気通貫」を目指して実証実験

 うちレピが目指すところは、「中長期的には買い物から調理までを一気通貫でつなぐようなエコシステムを確立し、生活者に便利なスマートライフを提供する」(保坂氏)というもの。そこで他社と連携した業界横断型のプラットフォームの構築を目指し、現在複数の企業と実証実験をおこなっている。

 買い物の領域では、イトーヨーカドーネットスーパーや、店舗型スーパーのユニバースおよび京急ストアと連携。購入情報の連携では、東芝テックの電子レシートアプリ「スマートレシート」や、MCデータプラスの家計簿アプリ「recemaru」と連携し、スーパーで買ってきた食材をうちレピの食材在庫に変換してレシピを提案する実験をしている。

 調理の領域では、シャープの調理家電と連携してレシピデータを調理家電に送信する試みや、パナソニックと連携して冷蔵庫内の特定食材の残量管理をおこなう実証実験を展開する。「みなさまのご協力のおかげでさまざまな可能性を検証、検討できている。お互いのサービスをよりシームレスにつなげることで、ユーザーファーストのサービスを実現できる可能性が高いと考えている」(保坂氏)

実証実験の概要
実証実験の概要

 今後については、現在フラーと共同でアプリを開発中で、2022年正式版がリリースされる予定。最後に保坂氏は、「いろいろな企業の力を借りて前進している。サービスに興味をお持ちの方、オープンイノベーションの可能性を感じられた方は連絡して欲しい」とパートナーシップの構築を呼びかけ、講演本編の結びとした。

FULLERとの共同開発でアプリがリリースされる
フラーとの共同開発でアプリがリリースされる

他のレシピサービスとの違いは「必ず作れること」

 講演の後半では、視聴者から多くの質問が寄せられた。まず、他のレシピアプリとの違いについて河内氏は、家にある食材在庫で作れるレシピが提案されることが最大の強みと話す。「大半の人が調べているのは、今日何を作ろうかという部分。一般的なレシピサービスでは食材がなくて作れないことが往々にしてあり、それがストレスになっている。そこを解決するために、登録した食材で作れるレシピを提案して課題解決する。そこがオリジナルな発想で、特許も出願中」(河内氏)

 その中でユーザーから人気があるレシピは、簡単に作れるもののほかに、“驚きのある”レシピだという。一見ミスマッチな取り合わせでも、食品メーカーが自社商品を売るためのお墨付きのレシピであるため、味は保証されている訳である。それも含めて、各社のおすすめレシピを一括検索できるところが評価されているという。

 パートナーシップに関して、食品メーカーとの協業に際しては、「家庭の食の課題を解決して、幸せな食卓を囲めるというコンセプトを紹介して納得してもらえた。目指すところは一緒だし、各社の商品を使うところにもつながるため、大きな苦労はなかった」(保坂氏)とのことである。実証実験の成果としては、ビジネス関係では双方にサービスに対しての相互送客の効果が確認できているという。

 またアプリの作りに関しては、「現在は極力シンプルにしている」(河内氏)とのこと。今後はユーザーアンケートの結果も踏まえつつ、賞味期限の管理や、食材の数量および調味料の項目、その日の気分と組み合わせたレシピ提案などの実装を検討していくとしている。

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