回転寿司チェーン「くら寿司」を運営するくら寿司は10月28日、全国の生産者との協力や独自生産を行う子会社として「KURAおさかなファーム」を11月1日に設立すると発表した。
資本金は、1000万円(くら寿司100%)。代表取締役社長には、くら寿司の取締役副社長の田中信氏が就く。
世界の漁業・養殖業は近年増加しているのに対し、日本は大幅に減少しているという。その原因として、少子高齢化に加え、都会への若者流出による後継者不在など、人手不足を挙げている。
具体的には、天候や魚価の変動による不安定な収入と、荒れた海上での作業や労働時間の不規則性による労働環境の厳しさなどが、若者の漁業離れの大きな原因だ。
一方で、海外の魚食ブームにより、魚の価格は年々上昇。安定した価格と量の供給が、将来的な課題になる可能性もある。
日本国内では、改正漁業法(2020年12月1日施行)により、企業の養殖分野への参入が規制緩和されるなど、漁業活性化に向けた動きが強まっている。
そこで同社は、持続可能な漁業と食材の安定供給、高品質でリーズナブルな寿司の提供を今後も継続していくため、養殖業を基盤とする新会社の設立を決定した。同社における飲食以外の子会社は初になるという。
新会社では、漁業協同組合に加入し、漁業権取得したうえで高付加価値な魚を自社ファーム(自社養殖)で育てていくという。
まずは、国際的基準を満たしたオーガニック水産物として、日本で初めて認証取得した「オーガニックはまち」の生産を開始。国内での流通に加え、海外輸出も視野に入れるとともに、他魚種の生産についても検討する。
また、人手不足と労働環境改善を目指し、AIやIoTを活用した「スマート養殖」も開始。持続可能で国際競争力のある水産経営モデルを創出する。
スマート養殖は、ウミトロンと協業し、AI・IoT技術を活用したスマート給餌機「UMITRON CELL(ウミトロンセル)」を活用した養殖事業となる。
UMITRON CELLは、水産養殖者向けスマート給餌機で、スマートフォンなどの端末から生け簀で泳ぐ魚のリアルタイム動画を見ながら、遠隔での餌やり操作が可能。また、AIが魚の食欲を判定し、餌量やスピードを最適化・制御できるという特徴がある。
これにより、労働負荷の削減と餌の最適化、海へ餌が流出することを防ぎ、環境に配慮した養殖業を実現した。
なお、近畿・四国・九州地域を中心に、主に真鯛、シマアジ、サーモントラウトなどの魚種に導入され、出荷時のサイズや品質を保ちながら短い期間で生育することに成功しているという。
同社によると、スマート養殖については外部の生産者への委託養殖となるが、新会社が中長期契約で全量買い取りすることで、生産者の収入の安定化も狙うという。また、新会社が各生産者に機器をリースすることで、養殖業への新規参入を促し、雇用創出や地方活性化につなげる構想だ。
将来的には、養殖だけではなく、これまで10年以上かけて協力体制を構築してきた全国の漁協などと提携し、国産天然魚の卸売り事業も計画する。
販売先は「くら寿司」とともに、全国のスーパーにも広げることで、漁協の販路開拓につなげていく考えだ。
さらに、生産者や漁協とも連携し、収益機会の提供と労働効率の改善を通じて、若者の漁業就業や地方創生への貢献にも取り組み、限りある海洋資源の保全や漁業の持続可能な発展に向けた協力を進めていくとしている。
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