ソフトバンクと東京海洋大学の後藤慎平助教らの研究チームは10月22日、陸上から水中の遠隔操作ロボット(ROV:Remotely Operated Vehicle)に光無線通信経由で指示を与え、リアルタイムに制御する実証実験に成功したと発表した。
同実験は、Beyond 5Gによる海の産業革命を目指して行われたもので、画像処理技術や精密制御技術を駆使して、水平方向と垂直方向にそれぞれ約60度の自動追尾性能を持ち、ROV本体から有線接続で独立して動作するトラッキング式水中光無線通信機を開発。
照射角7度の可視光無線通信機を使って、東京海洋大学の全長50mの船舶運航性能実験水槽の水深約1mで、2台の通信機(親機と子機)が互いを捕捉して自動で光軸を合わせ、子機に接続されたROVを陸上のPCから操作するものとなる。
両者によると、船舶やROVなどの水中航走体の本体に有線接続され(本体に随伴して自律動作するトラッキング式の水中光無線通信機同士が自動で捕捉・追尾し合って通信を確立・維持している状態)で、水中航走体を遠隔操作する実証実験の成功は世界初になるという。
近年、海洋国家である日本の沿岸・離島地域における水産業や海上輸送の高度化、洋上風力発電などの新産業や海洋観光などといった海域利活用の発展に向けて、海中で働く遠隔操作ロボットや自律航行ロボット向けの水中無線通信ネットワークへの期待が高まっている。
しかし、海水・淡水を問わず水中では電波がほとんど透過しないため、既存の無線通信技術は利用できない。
そのため、水中での通信には音波が使用されてきたが、遅延やノイズなどの外乱の影響が大きく、伝送速度も数百キロビット毎秒程度と限られており、大容量の映像伝送や観測機器のリアルタイム制御には課題があった。
大容量・低遅延の可視光を使用した無線通信技術を水中の通信に適応する研究が各国で進められているが、高出力を維持したまま遠方まで光を照射するには、ビーム幅の狭いレーザー光(概ね±10〜15度程度)に頼らざるを得ないというのが現状。
通信の質を維持するためには、送信機と受信機の光軸を正確に一致させる必要があることから、水流などの影響により姿勢の保持が難しい水中航走体などに対し、大容量・低遅延の無線通信を可能とする光無線通信の安定的な通信を実現する技術として、画像認識によるトラッキング技術に着目。両者で共同研究を進めてきた。
今回の実験結果から、自律動作型のトラッキング式水中光無線通信機を使用することで、水中航走体を安定的に制御することが可能となった。これにより、海底ステーションと水中航走体のドッキングやデータ通信、有人潜水船から小型の航走体を発進させて狭小部を調査する技術、海底地盤の高精度な変化計測など、さまざまな分野での活用が見込めるという。
また、自律制御ロボットの群制御による効率的な海洋資源管理や水中設備点検、海底灯台による海中航路や新航法の開拓による海の次世代モビリティの利活用といった新たな市場の創出も期待できるとしている。
通信距離がさらに長くなれば、実用的な水中(海中)無線通信ネットワーク網の構築によって、海洋産業の効率化や新産業の創出などで大きな経済効果が期待できる。
両者は、Beyond 5Gによる海の産業革命の実現に向けて、より高度なトラッキング技術の研究開発を進め、通信距離1kmを超える長距離水中光無線通信の実現による全球的な海中通信網の確立を目指す。
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