麻倉怜士のデジタル時評--ワイヤレス化はホームシアターを本格普及させるか - (page 2)

ソニーの波面合成技術が実現するホームシアターの可能性

 2021年の春、注目を集めたSOUND SPHEREの次に登場してきたのが、もう1つのワイヤレスホームシアターシステムであるソニーのHT-A9で、これは実に画期的な製品だ。4つのスピーカーとコントロールボックスから構成され、テレビとコントロールボックスをHDMIで接続し、コントロールボックスとスピーカーは5GHz帯の無線でワイヤレス接続する。

4体のスピーカーとコントロールボックスをワイヤレス接続できる
4体のスピーカーとコントロールボックスをワイヤレス接続できる

 5GHz帯を使用し、遅延が少ない点などWiSAと似ているが、HT-A9の注目は、4体のリアルスピーカーからの音の波面を合成し、最大12個のファントムスピーカーを生成できる点。今までのスピーカーの設置は、高さをそろえる必要があったが、HT-A9は、同一の高さ上に置く必要がなく、スピーカー設置の自由度を大きく広げている。

 この自由度を獲得できた理由は、各スピーカーがマイクとセンサーを内蔵し、別のスピーカーの位置を知らせあっているため。自動音声最適化技術を使って、設置時にお互いの距離や位置関係を把握しているため、高さが異なる場合でもある程度は補正ができるという。

 さらに画期的なのがバーチャルサラウンドだ。これまでもバーチャルサウンドを使ったホームシアター製品は登場していたが、音の広がりは感じられても、音像の正確な定位や移動感は得られなかった。なんちゃって、であった。ところがHT-A9は、波面合成により、正確な定位感や移動感を見事に再現している。そのパフォーマンスはまるで有線のサラウンドシステムのようだ。

 さらに面白いのは、4台のスピーカーで最大12個のファントム(仮想)スピーカーを作り出せるということ。これを新開発の立体音響技術「360 Spatial Sound Mapping」が実現している。いわゆるバーチャル再生とは異なり、信号処理負荷の大きい波面合成技術をホームシアター用にしたもので、任意の位置に音源チャンネル形成が可能。これにより、7(フロント、センター、サラウンドスピーカー).1(サブウーファー).4(天井スピーカー)のイマーシブサウンドが作り出せる。

 ワイヤレスシステムで課題となる遅延については、WiSA同様に非圧縮信号の伝送により解決。サラウンド再生時には48kHz/24ビットで伝送しているが、スペック的には96kHz/24ビット信号まで扱える。

 この技術を応用すれば、すべてのチャンネルにおいて同じ性能を持つスピーカーでサラウンド環境を構築できる。オブジェクトオーディオで使用する天井スピーカーは、設置場所の観点から、大きかったり、重かったりするスピーカーを使用するのは現実的ではないが、ファントムスピーカーであれば、スピーカーの分身を作れるので、同一の性能を持ったスピーカーを使用できる。今回は普及クラスのスピーカーだが、これがB&Wの高級スピーカーで4つそろえると、バーチャルで、高級音を”増やす”ことも原理的に可能だ。

 360 Spatial Sound Mappingは、利便性や設置の自由度など機能面での評価が優先されがちだが、高音質のスピーカーの音色を生かしたマルチチャンネルが作れるという音質面も今後おおいに期待ができる機能だと思っている。

 HT-A9の可能性は、ソニー独自の360立体音響技術を活用し、没入感のある立体的な音場を再現「360 Reality Audio」にある。私は開発当初から音を聴いているが、なかなかヘッドホンではその全容を体験するのは難しい。しかし、A9で360 Reality Audioを聴くと、これほどのものかという感動がある。

 今までのバーチャルサラウンドでは限界があったが、HT-A9は4つのスピーカーを組み合わせることで、音像の移動を感じ取れる。これが非常に手軽にできるというのがソニーのすごいところ。

 ソニーはテクノロジーで世界を感動させることを標榜しているが、その思いを具現化したHT-A9は、大変ソニーらしい製品だ。今後はAVレシーバーと合体させるなど、この延長線上でぜひ作って欲しい。

 WiSAが登場し、なおかつ同じ切り口を持つソニーの波面合成技術がほぼ同時に登場したのは、単にワイヤレスになったというだけではなく、中身をさらに進化、発展させ、本当に使えるワイヤレスホームシアターにできたということ。使い勝手とともに高音質を実現することで、より感動性の高い体験が気軽に味わえる時代がついにやってきた。

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