パナソニックは、2022年4月から、持株会社制に移行するのに先立ち、2021年10月1日からカンパニー制を廃止し、新たな事業体制に移行。それに伴い、グループCEOに就任した楠見雄規氏が会見を行った。後編では、DXプロジェクト「PX」の内容や人材戦略、早期退職1000人超報道について紹介する。(前編はこちら)
一方、DXについては、「パナソニックグループが、卓越したオペレーション力を獲得する上で不可欠な取り組みであり、各事業会社のDXによる支援と、グループ全体のIT経営基盤の底上げに向けて、早急に変革を進める」とした。
同社では、DXプロジェクトの名称を、「パナソニックトランスフォーメーション(PX)」とし、ITの変革に留まらない重要な経営戦略として推進。「ITを徹底的に活用して経営のスピードを高めていく」と述べた。
PXのプロジェクトリーダーには、5月にパナソニック入りしたCIOの玉置肇氏が務める。同氏は、アクサ生命保険やファーストリテイリングで、DXを推進してきた経歴を持つ。
「パナソニックグループには、事業ごとの個別最適によって、過去に導入された多数のシステムがあり、結果としてそれぞれの事業において、ITが経営のスピードアップに貢献できていない。残念ながら、これが現実である。その現状を打破して、グループの成長に直結するようなITに変えていくために、ビジネスのやり方や社員の働き方を、ITを活用して変えていく。社外でITのプロとして実績を積んできた玉置CIOとともに、私自身もオーナーとして、その推進にしっかりとコミットする」と述べた。
PXでは、情報システムのクラウドへの移行を加速させるといったITの変革を進めるのと同時に、ITで仕事のプロセスを規定するという考え方から脱却し、社会や事業環境の変化に応じて、仕事のプロセスを進化させることを前提とするという。
「従来のITは、仕事のプロセスを規定することが目的であったが、迅速に変化する社会環境や事業環境にあわせて、プロセスを俊敏に絶え間なく、アジャイルに進化させていくことが必要である。そのためには、システム構築だけでなく、仕事をアジャイルな仕方に変革することが大切である。また、しっかりとデータに向き合い、経営に活用できるデータドリブン基盤の構築を進める。DXの推進を通じて、グループ全体で経営のスピードアップを果たし、業界のトップランナーとなることを目指す」と述べた。
IT投資については、ホールディングスが事業会社をサポートしつつ、ガバナンスをきかすべきところにはしっかりとグリップをしていくというのが基本姿勢だ。
パナソニックの社長が、ここまでIT戦略について深く触れたのは初めてのことだといっていい。
楠見グループCEOは、2年間という期限を設けて、その間は、すべての事業会社が競争力強化に注力することを示す一方で、コア事業や重点事業という捉え方はしない考えを示している。一部報道では、コア事業や重点事業を作らないことは、主要な事業に対する投資が削減されることや、競争力がつかなかった事業は、2年後には振るい落とされるのではないかといった見方も出ていた。
楠見グループCEOは、「持株会社であるパナソニック ホールディングスの立場では、重点事業やコア事業、再挑戦事業といった呼び方は設けない。だが、この点は、誤って伝わっているかもしれない」と前置きして次のように説明した。
「コア事業であるとか、重点事業という言い方は、アナリストへのわかりやすさを優先したものであった。だが、重点的な事業ではないと言われた事業部の社員のモチベーションが下がったり、お客様からも重点的な投資がされない部門と、取引をしていても大丈夫なのかと言われるようになった。これは、ラベル付けをした意図には反した結果である。新たな事業会社制では、事業会社それぞれが、どう成長するのかを考え、競争力を磨いていくことになる。もちろん、事業会社のなかでは、どれを重点的にやるとか、どれをやめるという話はあるだろうが、持株会社が、それを言う必要はない」とした。
さらに「これは悩みに悩んだ点である。どちらを優先するのかを考えた上での判断である。アナリストからはわかりにくいと言われるが、それは我慢しようということである。その代わりに、事業会社ごとの競争力強化の進捗を、しっかりと資本市場と対話することにしたい」と述べた。
さらに、「事業の状態が苦しい時期には、目の前に足切りラインとして、営業利益率5%を設定していた。だが、それだけでは、それぞれの事業部の目が、そこに行ってしまう。そこに目が行くと、今年度の利益率や3年後の利益率の話なり、打つべき手が打てないという状況が多々生まれた。この結果、成長に結びつかなかった部分もある。新たな事業会社制では、全社一律の営業利益目標は言わない。どういう目線で事業をやるかは、事業会社ごとに異なるものであり、その目線を、まずは10年後に置く。これまでのように。3年周期で計画をしていると、どうしても、いままでの延長線上で考えてしまう。テスラが10年後のいまを予想したようなことができない。10年後からバックキャストして、この3年間にやること、この1年にやることを決めていく」と語った。
また、楠見グループCEOは、「事業会社がなすべきことは、10年先を見据えて、社会へのお役立ちを果たすべく領域を定め、そこでの競争力を徹底的に強化することである。そのためには、戦略とオペレーション力を磨きあげるだけでは十分ではない。徹底した自主責任経営、衆知を集めるための風土改革など、経営基本方針に則ってやるべきことがたくさんある。こうしたことを事業会社に定着させるための期間として2年間を置いた。ここでいう競争力は、事業において、誰にも負けない立派な仕事をして、お客様にお選びいただける力そのものである。その力をたゆまず磨いて、お客様や社会にお役立ちをし続けることが事業の価値であり、それが事業の成長につながると確信している。そうした力がある限り、それは事業規模の大小によらず、パナソニックらしい事業であるといえる。今後、長期にわたって、事業が隆々と発展していけるように、その基礎をみんなでしっかり作っていけるようにしたい」と説明。
さらに、「2年間に一時的に利益をあげるための競争力強化ではない。事業会社はそれぞれが目指す社会へのお役立ちと、環境貢献を果たすために、自ら投資をしていかなくてはならない。一方で、業界全体が縮退したり、競合に対して、構造的な弱みがあり、その克服が困難であり、お客様へのお役立ちという点での競争力がなく、打ち勝っていけないという状況が見えれば、迅速に手を打っていく。その際にも、単に経済合理性だけで判断するのではなく、お客様へのご迷惑、従業員が不幸にならなないか、幸せにつながるのかということを優先して検討した上で、判断をしていく」と述べた。
事業会社に対する投資の考え方にも触れた。「事業全般において、事業会社の自主責任経営を徹底するが、事業会社ごとに、戦略成長テーマを定め、事業会社と一体となって、競争力強化に貢献していきたい。グループでスケールメリットがある共通テーマを抽出して、事業会社が投資を進めていく」としながら、「競争力を高めるための投資が、事業会社としての投資能力を超える場合には、ホールディングスが判断を行う。投資の基本的な考え方は、社会へのお役立ちをするために、競争力を高めるという狙いであり、すべての投資は、ESGを考えながら行っていく」と語った。
楠見グループCEOは、人財戦略についても触れた。「社会へのお役立ちを果たしていく上で、その根幹にあるのは人。社員一人ひとりである。そして、変革を進める主体も人である」とし、「グローバルで約24万人の多様な個性と能力を持つ社員がいる。一人ひとりの挑戦を、パナソニック ホールディングスとして積極的に支援していこうと考えている」と発言。社員の挑戦と活躍の機会を広げるために、事業会社化したあとも、事業を横断した人材交流を積極的に実施すること、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)を積極的に推進し、子育てをはじめとするライフイベント中の人事評価のあり方をはじめ、DEIの推進において、制度面や運用面で不十分なところを迅速に改善する姿勢を示した。
「個人の価値観が多様化する時代において、社員一人ひとりの挑戦のあり方は多様化し、不安や悩みもそれぞれに異なっている。それぞれのハードルを取り除いて、パナソニックで働くことに、喜びや誇りを感じてもらうために、社員の多様性を生かすための取り組みを加速する」と述べた。
また、事業会社ごとに求められる専門能力が異なることを捉えて、「専門能力が違うのにもかかわらず、いまの報酬体系ではそれに対応しきれていない。これも事業会社ごとに定めることができるようにしていく」とした。
松下電器産業時代には、日本で最初に週休2日制を打ち出すなど、人を生かす施策、制度において、先進的であったことを振り返りながら、「残念ながら、いまは先行する会社に学びを得ている。パナソニックグループが向き合う事業領域において、挑戦する社員一人ひとりが、個性と能力を発揮して、社会へのお役立ちを果たしていけるように、人を生かすという観点から、再び先進的な会社になることを目指す」と宣言した。
1000人以上の応募があったとされる特別キャリアデザインプログラムについても言及。「事業会社がそれぞれに専鋭化していく方針のなかで、仕事の内容や役割、ポジションを見直していくことになる。これは、全従業員がキャリアの再スタートを切らなくてはいけないことにもつながる。再スタートをパナソニック以外の環境で切りたいという人については、それに対応したプログラムを用意した。専鋭化は、会社の都合であり、それにそぐわない人にも、しっかりとスタートを切ってもらうというのが、このプログラムの趣旨だった」としながら、「パナソニックが大きく生まれ変わっていくということに対して、説明が不十分だったこともあり、活躍してもらおうと思っていた人が、社外での活躍の道を選ぶということもあった。パナソニックグループ全体や、新たな事業会社が目指す姿が、夢があるものであり、希望があるものだということを、社内外にしっかりと明確に発信していく必要があった。それがもう少し早くできていれば、誤解がなく、このプログラムを選ぶことがなかったとも思っている」とも述べた。
最後に楠見グループCEOは、「パナソニックグループが目指す、物と心が共に豊かな理想の社会の実現に向けて、やるべきことが多い。これからの2年間は、パナソニックの強さのよりどころである『あるべき経営の実践』の姿に立ち返り、競争力の強化に集中していく。同時に、人々の暮らしの改善、社会の発展、地球環境への貢献といった領域のなかから、それぞれの事業が、どういう姿に世の中を変えていくのかを描き切って、それに向けて、今後、隆々とした発展ができるように、その基礎を築いていきたいと考えている。信条に則って、全員が協力し、心を合わせて、毎日の仕事に誠実に取り組んでいく」と、グループCEOとしての抱負を述べた。
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