エイシスによる、その地でしか聞くことのできない魅力的な“音の風景”を全国へ発信する地域応援プロジェクト「EMOCAL」の一環として、日本一ソフトウェア(以下「日本一」)が7月に発売した、PS4/Nintendo Switch用アドベンチャーゲーム「風雨来記4」とコラボ。「【走行動画】御嶽パノラマライン疾走」と「【走行動画】秋神高原避暑ツーリング」の動画を公開した。岐阜の名所を、バイクでのツーリングしている映像をまとめたものとなっている。
エイシスは、ASMRをテーマとした動画サービス「ZOWA」を運営。EMOCALはZOWAのオリジナルレーベル「CatchyStuck」が手掛ける、音を活用した地域応援プロジェクトとして展開されているもの。「水鏡のような美しい海辺の景観に響く、寄せては引いていく波音」や「日本酒造りの過程で生まれる米を蒸す音」など各地の自然や文化に根付いた音の風景を用いたASMR動画を通じて、その地の魅力を全国に発信している。
「風雨来記4」は、旅をテーマとしたアドベンチャーゲーム「風雨来記」シリーズ4作目となる最新作。これまでの3作で北海道と沖縄を舞台として制作されており、本作では岐阜を舞台に、プレーヤーは中堅ルポライターとして県内をバイクで旅して巡る内容。およそ100箇所のスポットに探訪できるという。
また発売元である日本一は、「魔界戦記ディスガイア」シリーズなどを展開するゲームメーカー。1993年に創業(※当時はプリズム企画)して以降、現在でも岐阜に拠点を置いて事業を展開している。
今回、EMOCALのプロデューサーを務めるエイシスの住田陽一氏、日本一ソフトウェア代表取締役社長の新川宗平氏ならびに、「風雨来記4」のディレクターを務める椎名建矢氏に、それぞれの取り組みやコラボ企画、さらには地方創生に関することについて聞いた。
――まず住田さんに伺います。そもそもEMOCALはどのような経緯で立ち上げられたのでしょうか。
住田氏: ASMRのプラットフォームを展開していくなかで、さまざまな可能性があると感じていました。昨今“音”や“音声”に注目が集まっているなかで、新型コロナの影響により在宅での作業が増えたことも後押しして、耳が寂しいという声も聞かれるようになっています。
そのなかでラジオを聴く方も増えたという声も聞きますが、ラジオだとそちらに意識がいきやすく、耳が取られるという状態になりがちです。環境音であれば耳が取られないですし、動画サイトでも環境音をテーマとしたものをかなり見かけるので、環境音のコンテンツもいけるのではと思ったのが、そもそものきっかけです。一方で、単純に環境音を打ち出しても、差別化しにくいとも感じていました。
いろいろ考えていくなかで、私は大学時代に愛媛に在住していたので、地方の環境というものを感じていました。そして地方の課題として、新型コロナの影響で観光が厳しい状況にあるというのは知っていましたので、地域創生と環境音を組み合わせて、その地域でしか聴くことができない音でコンテンツを作って、地方創生に役立つことができればと。それがEMOCALになります。
実際、著名な仏閣など、目に見えて伝えやすい観光資源があるところはいいのですが、ないところはどうしても観光客が呼び込みにくいです。でもいい音、その場所にしかない音というのはあるはずで、有形な観光資源じゃなくても可能性があるのではと。その音に注目してコンテンツとして作りはじめたというのが始まりになります。
――EMOCALでは、マスコットキャラクターである魔法使いのチーコが、世界中の音を求めて、空飛ぶ魔法のボードで旅をするという設定になっています。
住田氏: コンテンツとして展開するのであれば、なんらかのキャラクターは必要であろうと。ただ、例えばその地域ごとに別々のキャラクターを作るとなると、工数やクオリティコントロールが難しくなります。ひとりであればやりやすくなりますし、全国各地を移動するにしても“魔法使いだから”で成立しますので、現代の世界にいる魔法使いの女の子という形になりました。
――すでにいくつかコンテンツを展開してますが、こうした取り組みに対して、先方の反応はどのようなものがあったでしょうか。
住田氏: 初期に展開しているところは、こういった新しい取り組みに乗り気な自治体なり、観光協会だったりするので、好意的に受け止めていただいています。新しいアプローチができているというところで、喜ばれていると受け止めています。
また、本来であれば現地での音の収録や写真撮影などに出向いていきたいところですが、新型コロナの影響もあって難しい状況もあります。なので、現段階で公開しているものはフルリモートで作ってます。先方の自治体や観光協会の方に音を録音していただいたり、写真などの素材を提供しいただいて作成していますので、その点でもご協力をいただいています。
そしてフルリモートで作成しても十分成立することがわかりましたし、コスト的にも双方にメリットがあると感じています。今ですと一定の質を保った音の録音、写真の撮影は、スマートフォンでも十分なレベルにありますし、先方側のハードルも低いです。もちろん今後は、写真のクオリティを上げるため地元のフォトグラファーなどと協力したり、現地収録なども考える必要はあると思います。
――反響や手ごたえみたいなものは感じていますか。
ASMRは昨今人気を集めてますが、そこから入ってきた人たちがイメージするASMRに比べると、環境音は異質に思われているところがあります。それもあって、まだまだこれからの段階にあるというのが正直なところです。地方の方からするとメディアに取り上げられる題材が増えたという意味での、toB向けとしての価値は見いだせています。ユーザーに向けたtoCは、今後どう広めていくかの課題はあると感じています。
――椎名さんに伺います。風雨来記シリーズは“旅をしたくなる”というキャッチが付くようなゲームとなってますが、どういったところが旅をしたくなる要素となるのでしょうか。
椎名氏: たとえば旅番組などで自分の知らない景色を見たとき、その場所に行ってみたいと感じる好奇心は、おそらく全人類に共通する感情だと思います。そしてその景色を自分の目で見たいというのをさらに後押しするのが、バッググラウンドの知識だと思います。
パッ見ただけでも綺麗な景色というのは、それ自体にパワーを持つものではありますが、たとえば雰囲気のある神社に来たとして、どういった背景やルーツがあるのか、それを知ったうえで訪れると違った視点を持って見ることができますし、その景色がより印象深く感じられて、人間の知的好奇心をゆさぶります。
つまり風雨来記は、画面から見える景色だけでなく、テキストで表示されるバックグランドの説明の組み合わせによって、その地の魅力を足し算ではなく掛け算にしていく。それが旅に出たくなる重要なファクターになっていると、私は思います。
私自身、北海道をテーマにした初代作の「風雨来記」をプレイしたとき、実際にこの場所を訪れたいと思い、そのためにバイクの免許をとって北海道にも足しげく通うようになりました。その後、当時フォグの宗清社長(※風雨来記の3作目までを制作、発売したフォグの創業者で、代表取締役社長を務めた故・宗清紀之氏。日本一は、2016年7月にフォグの全株式を取得し子会社化。FOGブランドの事業を継承している)とご縁があって、一緒に仕事をするようになったのですが、何の前触れもなく突然「(風雨来記の)3を作って」と言われたんです。
まさか自ら手掛けることになるとは思ってなかったので相当驚きました。ただ初代作に影響されて北海道にも行くようになった経緯も含めて、白羽の矢がたったのかなと。それで「風雨来記3」のディレクターを担当して、制作に携わるようになりました。
――ゲームのように能動的なアクションや、なんらかの反応があると、よりその世界に入っていけるというのも、旅をしたくなることの後押しになるように思います。
椎名氏: 旅番組などの映像では、やはり受け取るだけの一方通行なんです。ゲームですと、ユーザーの意志をゲームの進行に介在させることができますし、インタラクションがあるのは大きな強みです。旅番組ももちろん魅力あるものですが、ゲームはユーザーがより好奇心を満たせるもの、喚起させるものになれると思います。
――これまでのシリーズは北海道や沖縄が舞台でしたけど、新作では岐阜が舞台となっています。
椎名氏: それは弊社が岐阜にあるからという、ストレートな理由です(笑)。さかのぼってお話すると、私は仕事の関係で日本一に入社することとなり、それにあわせて岐阜に来ました。ただ東京出身の人間にとって、岐阜というのはイメージがなかなか湧かない場所でした。
実際に岐阜の地に来てみると、面白いところがたくさんあります。それが全く知られてないのはもったいないと感じていました。風雨来記の新作制作が少しずつ話題として出てきたなかで、新川から「(新作の舞台は)岐阜だよね」という話もあったのですけど、それがなくても、岐阜にするのは自然な流れでした。
――「風雨来記4」の特徴はなんでしょうか。
椎名氏: これまでのシリーズのよさを踏襲しつつ、移動するときのバイクでのツーリングシーンを映像にしたことが一番の変化です。これまでは写真を徐々に拡大していくことで疑似的に演出していまして、前作でも一部には動画を取り入れていましたが、本作では全編において導入しました。
もうひとつは、ほぼすべてのシーンを全天球でぐるりと見ることができるようになった点です。自分が旅をするのと、画面を見て旅をした気分になることの一番の差は、好きな方向を見られるかどうかにあります。実際に旅したときの味わいは、まわりの景色や雰囲気を肌で感じられることです。今回、ゲーム画面越しでもユーザーが見たい方向を見られる……つまり「そのスポットがどんな場所でどんな環境にあるのか」を味わえるようになったことで、実際の旅の味わいに近づけられたことが大きいです。
また、地元メディアである岐阜新聞社に協力いただき、ディーブな情報も教えていただきました。移り住んでからいろいろ出かけてましたけども、知らない場所が多くて。教えていただいた場所を取材で訪れてみたら、コアなところばかりで面白かったです。土地柄、山や川が多くはなりますが、それ以外にも戦国時代には歴史の中心だったという点も岐阜の特徴です。織田信長が稲葉山城(※後の岐阜城)を攻略したことや、関ヶ原の戦いもそうですね。古い歴史をゲームの中で触れることは、これまでのシリーズにはなかったことです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス