地域応援はその地を知ってもらうのが大事--ASMR「EMOCAL」とゲーム「風雨来記4」の取り組みを聞く - (page 2)

創業から岐阜に拠点を置き続けるメリットと地域応援の狙い

日本一ソフトウェア代表取締役社長の新川宗平氏
日本一ソフトウェア代表取締役社長の新川宗平氏

――新川さんに伺います。日本一は創業以来岐阜を拠点に事業を展開しています。ゲーム開発、そしてパブリッシングも行うメーカーとしては珍しいように感じます。

新川氏: もともと創業メンバーは愛知県にあるゲームメーカーに在籍していて、そこから独立して日本一ソフトウェアは設立されました。拠点を構えるにあたり、オフィスの家賃が安く通勤しやすいところを探して、それで愛知県から木曽川を挟んで隣にある岐阜県各務原市になったと聞いています。そこから何度か市内で引っ越ししていますが、一貫して30年近く各務原市に拠点を置いています。

 途中で東京に行こうかという話しも何度か出たことはあります。特に営業スタッフは、東京に拠点があったほうが活動しやすいというのもありましたので。ただ創業時の頃からインターネット技術は発達目覚ましかったですし、また開発が中心の会社でもあるので、わざわざ東京に出て通勤ラッシュにもまれて働くよりも、落ち着いた環境で腰を据えて開発しようと。そして岐阜から出ないまま10年、20年と経過し、今ではもう、日本一は岐阜の会社であり続けるべきという考えになってます。

 実際、社員の半数程度は徒歩や自転車で出社するぐらいですし、電車にしても名古屋方面とは逆方向で、座れるぐらい空いている電車に乗れます。余計なストレスを抱えずに出社できて、気持ちよく仕事に入れますし、窓の外に目をやれば山が見えるような自然豊かな場所ですので、ゲーム開発に集中できる環境があると思います。

 私自身、営業や広報で入社したこともあり、東京出張が面倒だったので東京の拠点を作ってほしいと主張したこともありました。ただ、岐阜から東京のメディアやゲームプラットフォームの会社に行くと「わざわざ岐阜から来てくださって……」と、すごく歓迎されるんですね。おそらく東京の会社ではそういう反応はないですし、それで覚えてもらえるのはメリットだと感じて。また、取引先の方々が弊社へお越しいただく際には、岐阜を訪れることも楽しみのひとつになっているようなので、岐阜のままでいいと思ってます。

日本一ソフトウェアの社屋
日本一ソフトウェアの社屋

――新川さんからみた、岐阜の魅力はなんでしょうか。

新川氏:仕事面でのメリットはお話しましたので、それ以外のことですと、岐阜は海こそないですが、山と川の自然が豊かな場所ですし、食べ物も山と川の幸に恵まれてます。特に飛騨牛と長良川の鮎ですね……。この時期は、鮎の塩焼きにビールは抜群に美味しいです(笑)。仕事するにも観光するにもいい場所になっているのが魅力です。

――以前、各務原市におけるふるさと納税の返礼品として、日本一のゲームソフトだけではなく、新作タイトルのスタッフロールに名前が掲載される権利や、デザイナーにミニキャラを描いてもらえる権利などといったユニークなものが用意されました。また、岐阜市でゲームを中心としたエンターテインメントイベント「全国エンタメまつり」を開催するなど、地域応援にも積極的に取り組んでいる印象があります。

新川氏: 地域に関わる大きな取り組みとして初めて行ったのは、プリニー(※「魔界戦記ディスガイア」で初登場したキャラクター。以降、日本一のマスコットキャラクターとして同社のゲームや関連商品に活用されている)を模した防犯ブザーを制作し、市内の小学1年生に配布したことです。かれこれ11年ぐらい実施していますね。地域の子どもが安全に過ごしてほしいという気持ちと、マスコットキャラクターを覚えてもらうメリットも考えてのことです。

 ほかにも昨今の自治体との取り組みでは、総合体育館や市民野球場、文化会館のネーミングライツも行っています(※それぞれ「プリニーの総合体育館」「プリニーの野球場」「プリニーの文化会館」の名称となっている)。また、岐阜をホームフィールドとするプロサッカーチーム「FC岐阜」のスポンサーもしています。

 こうした施策は、もちろん企業として知名度向上やイメージアップを狙っているのは否定しません。そもそも岐阜の方々にゲームメーカーというのは、ピンとこない存在だと思います。一昔前は残業も多く、深夜まで建物の明かりが付いていて、人の出入りもある状態でした。大都市圏では珍しくない光景でも、岐阜のような場所では奇異の目で見られていた側面もありました。そんなピンとこない存在を身近な存在と感じていただきたいというのもありますし、何より、長年各務原市、そして岐阜に拠点を置いて会社を続けさせてもらえていることの感謝と恩返しの気持ちも入ってます。

 自治体や地域の皆さんは面白がってくれていると思います。特にふるさと納税の取り組みは、当時珍しいこともあってテレビなどのメディアにも取り上げられて、自治体のほうでも喜ばれたと伺っています。

EMOCALと風雨来記4とのコラボは、ゲームからの派生コンテンツとなるものに

――EMOCALと風雨来記4とのコラボについて、経緯を教えてください。

住田氏: もともと昔から新川さんとは知り合いでして、新川さんからEMOCALのことを知ってご連絡をいただいたのがきっかけです。音のコンテンツを作るうえで、ゲームは近いようで遠い存在なので、ゆくゆくはアプローチをしていきたいとは考えてました。お話のなかで風雨来記4が開発されていることを知り、岐阜が舞台になっていることや、バイクの走行音なども含めて、環境音のひとつとして成立すると思えたので、テストケースになればと思いました。

新川氏: 我々のコンテンツを広めていくアプローチのひとつとして、住田さんの取り組みとうまく連携できたらと思ったのです。風雨来記4が発売されるということもあり、EMOCALとの考え方ともマッチするのではと。バイクの走行音が主体にはなりますけど、まずはやってみてどういう反響があるのかを探り、今後の展開に繋げていきたいというのがあります。

椎名氏: お話をいただいたのは、撮影や録音を終了したあとのことだったため、使えそうなものを選んで素材をお渡ししました。一個人としては音楽畑の人間でもあるので、もう少し早くお話があったら、専用のものを収録したかった本音もあります。それでも、相当量の素材を提供いたしました。

住田氏: いちゲームユーザーとして、風雨来記シリーズの名前は知っていてもプレイしたことがなかったのです。それで風雨来記4をプレイしたのですけど、映像がずっと流れるゲームというのに衝撃を受けたところはあります。特にバイクで山道を駆け抜ける、そのスピード感を映像として味わえるのは、なかなか面白いですし、岐阜の山道をバイクで走る臨場感がすごく伝わるものだと感じています。映像的な技術が発達して実現したとのことですけど、ゲームからの派生コンテンツとして成立するものだと思いますし、ゲームも手に取っていただけるようになるとありがたいと感じています。

コンテンツやゲームなどで、その地を“知ってもらう”きっかけに

――もともと地方だとさまざまな課題を抱えていて、さらに新型コロナの影響で、観光を中心に厳しい状況があると思います。取り組みのなかで感じることはありますか。

住田氏: まず、地方自治体が感じている課題は場所によって異なるというのがあります。さらに市と町といった、地域の人数規模や発展度合によっても抱えている課題も違うというのが前提としてあります。

 こと観光に関しては、例えば地域によっては観光客自体は来ても、素通りされてしまう場所があります。EMOCALの第2弾で石川県能登町をテーマにしましたけど、能登町は空港(※のと里山空港)から少し離れたところにあって、観光される方はみなさん能登半島の端っこまで行ってしまって、能登町には立ち寄らないという課題があるんです。あと地域の四季をどう表現するか。例えば夏にいいものがあったときに、夏が過ぎた後の秋や冬につなげながらどう上手く表現して打ち出していくかが、自治体としてもわからないことが多いです。そういった季節感のアピールや、それを継続していくことも課題かなと。

 また、地域で持っている産業をどうやって説明するか、それを知ってもらうかというのも難しい。岐阜だと、長良川で行われる鵜飼は有名だと思いますけど、これが皇室御用の鵜飼となっていることとか、鵜匠(※長良川鵜飼を行う人)は、宮内庁式部職として国家公務員の身分であること、世襲制であることなどなど……。こういったことまで広く知られているかと言われたら、そうではないかと。なので、地域が抱える課題だったり、アピール方法の改善に少しでもアイデアが出せればとは感じます。

 最初に椎名さんが、旅に出たくなることについて、バッググラウンドの知識が後押しするということをお話してましたが、知らないことを伝えていくためのコンテンツが足りていないと思いますし、それはもしかしたら、僕らのコンテンツの作り方でご協力できるところはあるかな、という手ごたえは感じてます。

 少し前に岐阜にも実際に行ってみたこともあるのですけど、岐阜城を見たときにものすごく高い山になっていて、あれをどうやって攻略するんだろうと。写真だと岐阜城の距離感や高さは伝わらないと思って。こういうことも、さまざまなアプローチで伝えられたらと思うところもあります。

――お話を聞いていると、距離感や高さなど空間を伝えるのに、VRなどの最新技術とも相性がいいように思います。

椎名氏: 風雨来記シリーズに限って言えば、VRはとても相性がいいですね。「旅を疑似体験する」というテーマの本作は、まさに仮想現実を体現したものでもありますし。実際に“VR風雨来記”なるものが実現可能かどうかは別にしても、構想や技術に対するスタンスとしては、まさにうってつけだと考えています。

――最後に、それぞれ今後の取り組みや考えていることなどがあればお話しください。

新川氏: 地域応援の取り組みは、たまたまそうなった部分もありますけど、シンプルに岐阜が面白くて魅力あるところだからです。これまでも自社ゲームのなかではたびたび岐阜をイメージさせるものも登場していますが、これからも岐阜のゲームメーカーとして“岐阜推し”を続けていきたいですね。

椎名氏: 「風雨来記4」に収録されているスポットの一部は、新型コロナの影響で閉鎖されていて、現時点では行けない場所もあります。いずれ状況が落ちついたあとで、再び来ていただく呼び水としての役目は果たせそうな気がします。

新川氏: 旅をしにくいご時世ですし、ゲームソフトで旅行気分を味わえるなら安価ですので。自粛されている方も多いと思いますけど、ゲームを楽しんでいただきつつ、収束したときには岐阜に遊びに来て楽しんでいただけるという、そんな流れができたなら嬉しいですね。

住田氏: ちなみに、もし風雨来記で次の新作を作るとしたら、どこを舞台にするんですか。

椎名氏: 新川は「日本全国やれば」と言ってましたね。

新川氏: 今回の岐阜が、割と好評だったと認識しているので。これを機にいろんな地域を網羅して、最終的には47都道府県全部できたらいいなと。

椎名氏: 1年に1作のペースでも、網羅する前に私はこの世にいないかもしれませんけど(笑)。

新川氏: 都道府県でなくても、四国遍路の旅とか九州丸ごととか……いろいろやりようがあるような気がします。また、風雨来記シリーズに興味を持った自治体のほうからアプローチをいただけると、ありがたいところはあります。

住田氏: ゲームと音声コンテンツとジャンルは違えど、地域応援の取り組みは、やれることがまだまだあると思ってます。行ったらわかるものというのが、日本にはたくさんあります。その最初のきっかけとして、僕らのコンテンツとゲームなどで知ってもらえる取り組みができればと。

 有形文化は写真や映像で伝えられるところもありますが、無形文化と呼ばれる文化資産をどのように音で表現するかは、次のステップとして考えていきたいです。資産がないことをマイナスにとらえず、新しいアプローチによって市場が開拓できる可能性もまだまだあるような気がしているので。

 今は大変な状況がありますけど、この先アフターコロナとなる未来では、これまでの自粛の反動からくる観光への大きな揺り戻しが予想できます。それをただ単に待つだけではなく、観光需要の回復を見据えて、今の段階からでもデジタル活用による地域の魅力の発信も大事かと思っています。観光庁や能登町の方も交えたセミナーも実施するのですけど(※8月10日に「コロナ禍で発見する新しいデジタル観光の魅力」と題した、オンラインでのセミナーを実施予定)、今後もいろんな地域の方々とお話をしながら、地域活性に向けた取り組みができたらと思います。

(C)EISYS / ZOWA / CatchyStuck / EMOCAL Project
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