——ここからは、縦型動画サービスであるsmash.について聞いていきます。ライブ配信サービスのSHOWROOMに加えて、smash.を手がけた理由や狙いを教えてください。
僕たちは「Short, but deep」と言っているのですが、映画館に行かなくても手元のスマホで短い映像を見て、すごく感動して人生が変わることがあり得ると思っていて、smash.でそういう体験を作りたいのです。(プロが作る縦型短尺動画サービスは)コストが想定以上にかかるので大変ですけど、誰かがやらないと市場は立ち上がらないので、僕がそこをやろうと思っています。
いま約8カ月運用してきて、ダウンロード数は120万を突破しました(7月8日現在)。ユーザー層は約80%が女性で、年代は10代〜20代、上の方でも30代がメインです。数値については想定をすごく超えたわけでも、下回ったわけでもなく、“絶対にこれくらいは当たり前にやらなきゃ”という感覚で、計画通りですね。
——smash.は没入感のあるスマホ動画サービスとして縦型のホラー作品(スマホラー)なども生み出していますが、今後はコンテンツをどのように進化させていくのでしょうか。
それはすごく大事なポイントで、2つの方向性があると考えています。1つは、社内でも僕は最近こればかり叫んでいるのですが、「ポケットの中にBTSのジミンがいる」じゃないですけど、ジミンにいつでも会えるみたいな寂しさの紛らわせ方があると思っています。
どういうことかというと、smash.ではPICK(ピック)機能を使えば、映像をアプリ上でつまむようにして、最大15秒までマイページに保存できます。たとえば、ジミンの映像でお気に入りのシーンだけを、バーチャルブロマイド的に収集することができるんです。PICKを通じて、自分の好きな人や応援している人と、いつでも本当に会えるような感覚になれる体験を作っていきたいと考えています。
——PICKはどれくらい使われているのでしょう。
PICKの使用回数は、7月8日時点で626万回なので、すごい勢いですね。事業計画で描いた数値の10倍です。なぜ、こんなに使われたのかを考えたのですが、コレクションしたい気持ちと、(映像内の)「ここがいいんだよ」って誰かに伝えたい欲求があるのかなと。この2つのインサイトをもう少し深く考えて、今後も機能追加していく予定です。
——ユーザー同士でお気に入りのシーンを見せあったりできるようになると。
いまはPICKした最大15秒の映像のURLを、LINEやTwitterでシェアできますが、実は9月ごろに一歩踏み込んだ機能をリリースする予定です。少しだけお伝えすると、自分や他のユーザーがPICKした動画に対し、smash.のアプリ上で、互いにいいねをしたり、コメントをしたりできるようにする予定です。
——新機能の「シアターポッド」でも、ユーザーが集まって一緒にコンテンツを見られるようになるんですね。
はい。シアターポッドはユーザーが誰かと一緒に見たいなと思うsmash.コンテンツを選択して招待リンクを発行し、SNSなどに投稿することで、みんなで一緒に視聴体験ができる機能です。
これまでは、運営サイドから同時視聴できる場を提供する形でのグループビューイング機能を実装していましたが、シアターポッドはユーザー起点で同時視聴できるようになったことが大きなポイントで、視聴しながらコメントを送り合うこともできます。
——今後、PICKした映像を同時視聴できるようになると、またさらに盛り上がりそうですね。
そうですね。たとえば、あるアーティストの横顔だけをPICKしている人がいたら、「横顔鑑賞会」みたいなイベントを開いて、ファン同士が集まって盛り上がるようになります。次の段階ではそこまで持っていくべく準備を進めています。
僕らは“マイクロインタレスト”と呼んでいるのですが、「横顔好き」のように好きなものが狭く共通している人たちの集まりって、すごく平和な空気が流れるんですよね。シアターポッドは、コロナ禍で人との接触が少なくなって、より血の通ったつながりを求めるなかで、寂しさが増しているところを埋めにいきたいと思って提供した機能なので、これが話すきっかけになって、コミュニティが広がっていったらいいなと思っています。
——では、今後のコンテンツの進化について、2つ目も教えていただけますか。
いまお話したような“デジタルブロマイド戦略”と、もう1つは縦型作品のさらなる独占配信です。縦型ならではの、目の前にいるような感覚、あたかも自分がそこに居合わせているような感覚を、うまくフックに使うと面白い作品が作れるというノウハウが溜まってきたので、ここを強化していきたいです。
「主観」や「没入感」をキーワードに、16:9の横型映像には馴染まないようなコンテンツを作って提供する、そういうものがたくさん集まる場所にしていくという方向性を考えています。
まだ世界的にも、スマホに特化したプロクリエイターの縦型動画作品のプラットフォームとして成功しているサービスは存在しておらず、TikTokやYouTubeもUGC(User Generated Content)と呼ばれる一般クリエイターの作品がメインになっています。
実家のお父さんお母さんに電話して「YouTubeアカウント開いたよ」って伝えても、「あら、そう」「(広まるように)ここからがんばれ」みたいな反応になるかもしれません。そこをsmash.は、電話で報告したときにお母さんが嬉し泣きするくらいの場所にしたいと思っています。
——プロが作ったハイクオリティな縦型動画作品が集まる場を作るということですね。
そうですね。ただ、プロが作ったPGC(Professional Generated Content)のなかに、一般のハイレベルなクリエイターが作った、CGC(Creator Generated Content)作品があってもいいと思います。
そこには、smash.のユーザーをクリエイターと定義して、シアターポッドがCGC になるという世界もあり得るかもしれないので。UGCがどこかで入ってくる可能性もあるとは思いますが、それはひとつのコーナーであって、あくまでメインはPGCを作ることです。
俳優の別所哲也さんが代表をつとめる国際的な短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル」は全世界から縦型作品が集まってきますが、smash.はこれにかなり近いというか、CGCがPGCを凌駕していくような構造を作りたいと考えています。
——smash.では、海外展開も加速していくのでしょうか。
そうですね。いままさに、韓国と米国からのユーザーが増えてきていますが、今後の海外展開は3段階で考えています。
第1段階としては、BTSをはじめ海外でファンが待ってくれているコンテンツを言語対応して、そのまま海外ユーザー向けに届けていきます。第2段階では、僕らが作るオリジナル作品を言語対応していきます。第3段階では、その土地ごとの人が好みそうな縦型映像を作り、市場の可能性が見えてきたら、現地にブランチを立てて制作チームを置き、現地向けコンテンツを作っていく。そんな段階を踏んで進めていきたいと考えています。
BTSのようなアーティストと組めていることは、現段階では本当に僕らの強みで、米国ではバイラルでsmash.が広まっているんです。そして実は、韓国以上に米国が伸びています。
さらに今度は、米国でもめちゃくちゃ人気があるTOMORROW X TOGETHERのオリジナルコンテンツもsmash.だけで見られるようになります。「海外ユーザーが一定数加入したから、そこに刺さりそうなコンテンツを作ってみよう」ということを、早くやり始めたいと思っています。
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