AI教材「atama+」運営が51億円の大型調達--コロナ禍の需要増で生徒数が5倍に

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2021年07月21日 09時45分
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 AI教材「atama+」を手がけるatama plusは7月21日、シリーズBラウンドで約51億円の資金を調達したことを発表した。既存のDCMベンチャーズとジャフコのほか、新たにシンガポール政府系ファンドのテマセック・ホールディングス傘下Pavilion Capitalと、米運用会社大手T. Rowe Priceが引き受ける。同社の資金調達は3度目となり、創業4年での累計調達額は82億円に達した。

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atama plus代表取締役CEOの稲田大輔氏

atama+で「社会でいきる力を養う時間」を増やしたい

 atama+は、AIなどの技術を用いて、学習者に最適な学びの方法を提案するEdTechサービスだ。現在は小・中・高校の学習教科を対象に、児童・生徒1人1人の学習内容や進度などに応じて、次に学習すべき項目を提案するなどの最適化を可能にしている。

 また、塾講師ら教える側も、専用のアプリによって児童・生徒それぞれの学習状況をいつでも把握できる。これにより講師らは、各生徒が何をどう学んでいて、それに対してどう声がけするか、といったコーチングの部分に時間を割くことができ、的確なコミュニケーションを通じて学習の後方支援ができるようになる。

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AI教材「atama+」

 同社の代表取締役CEOである稲田大輔氏は、atama+のサービスを通じて「基礎学力の習得にかかる時間」を短縮するとともに、その分、日本の教育で不足しているとされる「社会でいきる力を養う時間」を増やすことを目指している。

どこの教室でも「びっくりするくらいの成果」

 2017年の当初、高校生向けの数学など一部の教科でスタートしたatama+は、2021年の今、高校の「数学・英語・物理・化学・生物」、中学校の「数学・英語・理科・社会」、さらに小学校の「算数」と、対応する教科・学年が大きく拡大している。

 導入先も急増している。全国規模の大手塾・予備校はもちろんのこと、各地域の学校の入試対策に強みをもつ地方の塾でも採用が進み、2021年6月現在、その数は全国2500以上の教室におよぶ。

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 稲田氏によると、「どこの教室でもびっくりするくらいの成果が上がっている」とのこと。たとえば駿台予備校でatama+を利用する新コース導入時に行った調査では、偏差値の伸び平均について、新コースの生徒が+5.54だったのに対し、そうでない従来コース生徒が+2.91に止まるなど、確実に高い効果があることが実証されている。

駿台予備校では、atama+利用者が非利用者より平均偏差値で2.6ポイントほど高いという結果が出た
駿台予備校では、atama+利用者が非利用者より平均偏差値で2.6ポイントほど高いという結果が出た

 愛知県を中心に展開する、中学受験者向けの野田塾に通う生徒においても、学校の定期テストでは、atama+利用者の方が成績アップの度合いが大きいという実績が得られ、こうした成果から塾・予備校に通う全生徒へ全面的に導入するといった動きも目立つようになったという。

野田塾においても、atama+利用者は学校の定期テストの得点の伸びが5~9点大きいことがわかった
野田塾においても、atama+利用者は学校の定期テストの得点の伸びが5~9点大きいことがわかった

 また、近年ではatama+のノウハウを元に、駿台予備校と共同で「オンライン模試」も開発。紙の試験用紙や答案を使った従来の方法と比べて、「いつでもどこでも受験可能で、終わった瞬間に点数がわかる。AIによる分析で自分の弱点も把握できる」という多くのメリットがあるとする。しかもatama+を採用している塾・予備校であれば、その模試の結果と連動して、弱点を克服しやすくするカリキュラムを提案することも可能になっている。

 さらに立命館大学とは「新しい入試を作る試み」もスタートさせている。当日の筆記試験で合否を決めるのではなく、それまでのatama+における受験者本人の学習に関わる履歴データを大学に提出することで、筆記試験を経ずに合否判定がもらえるというものだ。稲田氏は「テストのための勉強、ということになってしまわない」画期的なシステムになると胸を張る。

コロナ禍で危機も、自宅学習に対応して「生徒数5倍増」に

 稲田氏は、まだ同社が目指すところにはまだ達していないと話すが、「基礎学力の習得にかかる時間」を短縮し、「社会でいきる力を養う時間」を増やすという点においては、いくつかの成果も見えてきている。たとえば、生徒が先生に対して学んだ内容をプレゼンするような取り組みを行ったり、高校生が中学生に勉強を教えたりと、表現力を磨くような時間を設けている教室もあるという。

 しかしながら、この1年、何の障害もなく順調に事業を拡大してきたわけではない。2020年3月頃からは、新型コロナウイルスの蔓延によって全国の学校が休校になり、「そうなると塾も休まざるを得ないため、サービス提供ができなくなる」という危機に陥った。しかしながら、わずか1週間で自宅のPCやスマートフォンからatama+のサービスを利用できる仕組みを作り上げ、家庭内のオンライン学習を可能にした。

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 エンジニアの懸命な努力によって、サービス利用が減るどころか「生徒数が5倍に跳ね上がった」と明かす稲田氏。塾講師もアプリを通じて遠隔でコーチングできるようにし、必要な時は生徒に電話でサポートするような体制が取れるようになったという。

 「保護者にとっても、常に後ろから授業参観状態で見られるということで、安心感にもつながった」とし、同氏によれば、現在も多くの塾・予備校が「オンラインとオフラインのハイブリッドで運営する形になっている」とのこと。

 今回の調達で得られた資金は、大学を含むより多くの学年・教科に対応するためのサービス拡充、新規事業の創出のほか、そうした事業を発展的に拡大していくための人材採用などに活用していく計画だ。海外の投資会社からの調達ということもあり、海外の教育現場へのサービス提供を検討しつつ、「グローバル市場でのIPO」も視野に入れている。

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 「学習のあり方を徐々に変革できている実感はあるが、まだまだこれから。1年前の従業員数は90人で、現在は約160人。年度末には300人くらいにしたいが、いずれ500人でも足りなくなると思う」とし、昨今のトレンドとは反対に、人員拡大によるオフィス移転も近々予定している。子どもたちの「社会でいきる力を養う」というビジョンの達成に向けて、稲田氏のアクセルが緩む気配はない。

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