イノベーションとは「つまらないことに異常に敏感なこと」--糸井重里氏インタビュー

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2021年07月01日 09時40分
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 アプリとして生まれ変わった「ほぼ日の學校」が6月28日に開校した。料理研究家や落語家、イラストレーターなど“一般的な学校の先生ではない人”が、先生として登場することが特徴だ。誰でもスマートフォンアプリから映像や音声で授業を視聴できるほか、索引になる字幕機能などを楽しめるサブクリプションサービス(月額680円・初月無料)となっている。

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ほぼ日 代表取締役社長の糸井重里氏

 CNET Japanでは、ほぼ日の學校をプロデュースする糸井重里氏に単独インタビューを実施。前編では、前身となる「ほぼ日の学校」を始めたきっかけや、そこから3年の時を経て再スタートする狙いなどを聞いた。今回の後編では、糸井氏が考えるイノベーションの定義や、テクノロジーのあり方、コロナ禍での変化について聞いた。

イノベーションは「つまらないことに敏感」なこと

——CNET Japanはテクノロジーでイノベーションを起こそうとしているスタートアップや大手企業を応援しているメディアなのですが、糸井さんにとっての「イノベーションの定義」とは何でしょうか。

 「つまらないっていうことに異常なほど敏感だ」ってことじゃないかな。それがイノベーションということだと思う。だいたいみんな、何かがうまくいかなくなったときに、それがつまらないことだったと気づかされるんです。

 うまくいかなくなって、そこでようやく「ずっと我慢してたな」とか、「とっくに駄目になってたんだな」って気づくんですよ。だから、そうなる前に「とんでもなく変わらないと生き延びることができないくらい、これはつまらないぞ」って思えるのがイノベーションだと思うんです。

 「面白い」を探すだけじゃ足りないですよ。スパイクを履いて斜面を登っていても、地面ごとずり下がってるからね。最近、社内では「小売業はとっくに終わってる」って話を盛んにするんです。割引きしたり、おまけをつけたり、生き延びる方法をさんざん考えて、小売業がまだあるかのように振る舞ってますよね。でも、本当の意味での小売業っていうものはもうない。あなたの代わりに私が問屋から仕入れてきました、というのが小売業ですよね。だとしたら、それだけで持ってるところは、もうどこにもないと思うんです。

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 Amazonで買えるのと同じものが、近くのよろずやでも買えるとは思わないもんね。コンビニも近くにあって便利だからみんな使ってると思うんだけど、それだけだと持たないから、どこにでもあるような本やグッズが並べられていたりするわけだし。小売り業単体として成立していない時代がもう何十年も続いてるわけだから、それは地滑りですよね……というようなことを、僕らは小売業のジャンルに入ってる会社として盛んに言ってます。

 ただ、「これはイノベーションじゃないなぁ」みたいなことばかり言っているのはダメですよね。僕が昔見た大好きな漫画があるんです。夏の夜に部屋に蚊がいて、うるさくてしょうがないから蚊を叩こうとするんだけど、逃げちゃう。そこで、そばにあった物差しで叩くと惜しいところまでいく。でも追っかけまくって叩いていると、物差しが割れて使い物にならなくなっちゃうのよ。「これは大変だ!」と思って文房具屋に物差しを買いに行くっていう。企業ってそういうことをしょっちゅうやってますよね。

「名前のある技術」に興味を持ってもしょうがない

——最近ではAIや自動運転、5Gなど、さまざまなテクノロジーが注目を集めていますが、糸井さんが興味を持っている技術はありますか。

 名前のついている技術に興味を持ってもしょうがないんですよ。それこそさっきの物差しの話になっちゃうから。じゃなくて、技術が救ってくれるものがもっとあるはずなんです。本当の技術の面と、技術というものが持っている思想を理解しているという、この両方を持っている人が日本にも育っていくといいですよね。(台湾のデジタル担当大臣である)オードリー・タンさんみたいな人ですよね。ああいう人はすぐに5Gがどうとか言わないよね。

 たとえば、ほぼ日の學校は、コンテンツや編成やサービスという部分では、ほぼ日の人たちがどんどん修行して良くなっている。「技術に関してはあいつがいる。あいつがいるとこんなことになるんだよね」っていう技術で、ほぼ日の學校が他から羨まれるようにしたいっていうのが、ちょっと前から僕が思ってることです。

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 技術は思想の一部なので、ほぼ日の學校にそれがあるっていうのは、僕らにとって「もっとできるじゃん」っていうこと。コンテンツをもっと耕せるんですよ。その上で、どういうものが欲しいかっていうのは僕の頭にはもう少しあります。アプリも求める形にできたし、ここまでは今の技術でできるんだなと思ったけれど、(コンテンツを)見るにしても撮るにしても、人間と対面している部分で技術が何に貢献できるかというところでは、まだまだやれることがありそうなんですよね。

——糸井さんはかなりの頻度でTwitterを更新している印象があるのですが、愛用するITサービスなどはありますか。

 Twitterはあれでも最近は頻度は落ちてるほうですよ。(ITサービスで)好きでやってるものはないですね。ただ、ユーザーとしてはサブスクのドラマも楽しんでますし、買い物もしてますし、SNSもTwitterがほとんどですけど、誰かが何か言ってるなぁと、空中の情報をなんとなく掴むために使います。でも、好きでっていう感じがないですね。そこはバレてるかもね、あいつは本当は好きじゃないんだよって(笑)。

——「ほぼ日刊イトイ新聞」の「今日のダーリン」(糸井重里氏が毎日書く「エッセイのようなもの」)でも先日、サブスクの動画見放題サービスのお話をされていましたね。

 全世界の人の庭に大図書館があるようなものでしょ。そんな世の中、なんか逆に押し出しちゃうものがあるんじゃないのって思っちゃいますけどね。どうせだったら焼き直しのSFみたいなドラマを見るより、ほぼ日の学校を見れば?って、ちょっと言ってみたいね。ここには人がいるから。加工してない人間がいるから。

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