【事業開発の達人たち】労働市場の社会課題をサステナブルな形で解決したい--Compass代表・大津愛氏【後編】

永井公成(フィラメント)2021年06月22日 09時00分
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 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発やリモートワークに通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。今回はチャットボットでキャリアカウンセリングサービスを提供しているCompassの大津愛さんにお話をうかがいました。前編に続く後編では、事業開発のきっかけやこれまでに苦労した点、事業開発に携わる人へのアドバイスをお送りします。

 
 

NPOや大手も踏み込めない課題をサステナブルな形で解決する

角氏:大津さんがCompassで提供している、年収500万円以下の層をターゲットとした人材マッチングサービス「CHOICE+転職エージェント」について、この事業に着目されたきっかけはどんなことだったのでしょうか?

大津氏:起業する前にNPOで引きこもりやニート、低所得の方々を対象に、相談に乗ったり職業紹介をしたりしていて、その経験が一番大きかったです。でも、そうした活動は国策としてやっているのにもかかわらず、みんなほとんど知らないんですよね。そこでマーケティングとITが大事だなと気づきました。

 また、NPOによる活動とは違った、ビジネスによるサステナブルな仕組みを作らないと、労働市場における課題を解決できないという危機感を持ったことが一番のきっかけです。もちろんNPOの現場のみなさんの働きは素晴らしいのですが、その動きにもかかわらず状況が変わらないことに疑問を持ちましたし、苛立ち、憤ったんです。

「CHOICE+転職エージェント」
「CHOICE+転職エージェント」

角氏:ビジネスとしてちゃんと成立することを考えた時に、ITをうまく使って、人が動く部分を省力化することでビジネスとして回るようにしていくことを意識されたんですよね。

大津氏:そうです。今の大手さんは違うことで儲かっているので、これが必要だと思っていてもなかなか投資にまで踏み切れないんですよね。ずっと、なぜこの事業を大手がやらないのかと思っていたんですが、そういう意味でそれができない構造になってしまっているからだということに気づきました。だったら何もない人がやらないといけないなと思ったんです。

投資家はすでにあるビジネスを想像してしまいがち

角氏:なるほど。だんだんと規模を大きくされていってますが、これまでで何か苦労されたことはありますか?

大津氏:今はもう順調なんですが、最初どこまでITやテクノロジーをこのサービスに入れられるかが見えない頃は、資金調達にすごく苦労しました。スタートアップに投資する人は、この事業のターゲットとなっている人たちのことをほとんど知らないんです。こういう事業は企業ではなくNPOが行っていることも多いじゃないですか。

角氏:たしかに。それって事業として成立しないんじゃないの?みたいなことですよね。

大津氏:そうです。スケールするの?みたいなところですよね。「スケールさせないと日本が沈没します」という話をするんですけど、そもそも投資家の方々はこれまでの人生でこの事業のターゲットとなる人と接する機会が少ないこともあり、イメージがわきにくいんです。「社会課題=NPO、NGO」になっている日本の問題のところをまず壊していく作業をせずに、いきなり説明しにいったので、それはすごく失敗でしたね。

角氏:どうやって分かってもらったんですか?

大津氏:スタートアップは今までに存在しないものを作ります。でも、投資家は「ないものを作っているところに投資する」と言いつつも、既存のビジネスをイメージするんです。まずはそこに立ち返っていただきます。

 あとは、SDGsやソーシャルインパクトなどの文脈で、本当に世の中の役に立つことをやらないといけないということが、大きくなったスタートアップの方々やイグジットした方々、IPOをした経営者の方々から発信されるようになってきたことです。それがすごく大きいと思いますね。

角氏:たしかに、SDGsの話は最近特に目立つようになってきた気がします。投資でもESG投資とか、ウェルビーイングという言葉もよく聞くようになってきました。そういう意味では社会をより良くしようとしている人たちが、NPOなどではなくてビジネスとして取り組む環境も整いつつある感じですね。

大津氏:そうですね。スタートアップ都市が出てくるなど、スタートアップに対しての認知度も上がっていると感じます。自治体のDXの文脈でも、今までだったら「10年以上自治体から委託事業をしているところで、こういう経験がある企業様」というような指定があったのに、「スタートアップでもいい」「むしろスタートアップがいい」と言われるようになりました。いろいろな追い風が吹いて少しずつ理解していただけるようになってきたと感じています。

自治体の支援施策は「良いことしかなかった」

角氏:なるほど。所在されている神戸市は特にスタートアップの支援施策が充実していると思うのですが、そういった行政の施策で「あってよかった」というものはありますか。

大津氏:神戸で起業して良かったと思うことはすごくあります。一番良かったと思うのは、アクセラレーションがすごく豊富だったことです。神戸の「KOBE Global Startup Gateway」と「500 KOBE ACCELERATOR」に参加しています。後者はシリコンバレーのメンターがたくさん来る合宿があり、それらに参加したのは大きかったです。東京に行かないと会えない投資家に会えたり、普段は得られない情報がたくさんもらえました。あれだけお金を使ってくれるところはほかにないんじゃないかと思うぐらいです。

引用元:http://kobe.globalstartupgw.com
引用元:http://kobe.globalstartupgw.com

 神戸市に限らず兵庫県も、コワーキングスペースを非常に安く使えたり、採用のイベントも開いてくれたりするなどの支援があり、全力で応援してくれていると感じます。

 大阪や京都のサポートも厚く、本来であればコンサルの人がお金をとるようなことを無料でどんどんやってくれます。角さんのように大手とつないでいただけたりとか。みんながスタートアップのことを当たり前に分かっていて、経営者に対してもすごいフラットで、応援してくれるんですね。環境が整っていてダントツに安心感があります。いいことしかなかったです。

角氏:なるほどね。大津さんのビジネスモデル自体も、東京だと見過ごされがちだと思うんです。たとえば、もっと年収が高い人をマッチングしたほうがすぐに儲けにつながるので、そこにいきがちなところを、逆に年収の低い層に着目されたところです。地方ならではの着眼点だったのかなと思うんですけど、いかがでしょうか?

大津氏:おっしゃる通りです。自治体の課題なので、地方から解決していくのが競合も少ないと思い、最初から地方から進めるという戦略でした。

相談データを活用して精度を向上させたい

角氏:今後の展望についてもお話ししていただけますか。

大津氏:現在は、キャリアカウンセリングのプラットフォームがだんだんとマーケットフィットしてきて、利用者は1万人弱くらいになりました。また、企業さんからいいポジションを公開していただけるような、もうひとつ別のプラットフォームを作りました。企業さんがそこで求人をすることによって、社会課題に対して協力的だというところを認知できるというもので、企業さんと地方で一体になりながら採用を進めていくという話が進んでいます。

 その次のフェーズですが、相談に来られるユーザーさんはどうして悩んでいて、どういうところに入社するとうまくいくのかという相談データを持っていて、私たちはこれにすごくこだわっています。相談するたびにどういうものを提供するとその人たちがいいキャリアチェンジ、マインドチェンジできるのかというデータが蓄積されていきます。

 これを何万件という規模で貯めていき、アレンジして運用します。たとえば、家を借りるとか、学校に子どもたちを行かせる、とかですね。みなさんのマインドチェンジだったりキャリアチェンジに使ったデータをアレンジして、またさらに運用することで負の連鎖をたち切っていくことを目指しています。

角氏:地方に着目するということですと、たとえば神戸の会社だったら神戸の人たちにアピールしていく感じになっていくと思うんですけど、それが全国で、たとえば仙台とか、線ではなく“面”として取りにいかれる。それに加えて、マッチングの精度をあげるために、これまで蓄積されているデータもうまく活用しようとされているという認識であっています?

 
 

大津氏:そうですね。地域を全国に広げていきながら、悩んだ人がどうすれば成功するのかというデータが貯まってきているので、それを生かしていこうとしています。

角氏:なるほど、分かりました。

社会の課題を見て事業開発をしてほしい

角氏:最後に、大津さんから新規事業を作っていこうとされている方に、アドバイスをいただけますか。

大津氏:私も作っている人なので偉そうなことは言えませんが、社会の課題を見てほしいです。新規事業開発って、すごいつらいじゃないですか。だから「これを私がやらないと誰がやるんだろう?」「これはやらないと未来の子どもたちが困るよね」ということに気づいて情熱を持つことが重要だと思うんですね。

 それをサステナブルにやる仕組みをすごく知恵を出し合って作ってほしいし、私たちもやっていきたいと思っています。一発で終わるんじゃなくて、それが続いていくような仕組みになるところが、未来をワクワクさせます。これが、生きていく上ですごく必要不可欠なんじゃないかと思っています。

角氏:なるほど、素晴らしいですね。よくわかりました。ありがとうございました。

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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