スタートアップにIPO以外の資金調達の選択肢も--香港タイボーンキャピタルの持田氏に聞く - (page 2)

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2021年06月17日 09時00分
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国内で勝ち切るために「海外投資家に頼る」という選択肢を

——海外進出を急ぎすぎているというお話でしたが、タイボーンとしては日本のスタートアップはどうあるべきと考えていますか。

 まずは視座を高くもつことが大事だと思っています。Paidyの杉江さん(同社の代表取締役社長兼CEOである杉江陸氏)が、Paidyが日本でナンバーワンのBNPLサービスになるためには、人材も、投資家も、すべてにおいてグローバルスタンダードを集めなければいけない、ということをお話されていました。それだけ日本で成功するのは難しい、という意味も含んでいると思いますが、多種多様な人材や海外投資家を呼び入れているのは、日本で大きくなりたいと思っているスタートアップに向けてはいいメッセージではないかなと思います。

 採用する人材も投資家も、日本にこだわる必要はないはずなのに、日本のスタートアップの人たちは海外投資家に対して若干アレルギーがあるようにも見えます。しかし海外投資家、なかでもわれわれのようなところは日本にすごく注目しているわけで、海外投資家と対話してみる、というオプションがあることを頭の片隅に入れていただけるとありがたいですね。

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 また、資本政策は会社が大きくなるほど頭を悩ます問題です。スタートアップにおいて、プロダクトが最重要という点に関しては大賛成ですが、資本(株主)構成は後から簡単に変えることはできないですし、早くから海外投資家を含めた多種多様な投資家とコミュニケーションをとることは重要だと思います。

 常に5年、10年先の資本構成が自分たちにとってどうなっているのがベストなのか、逆算して考えることが大事ではないかと思います。VC(ベンチャーキャピタル)や未上場投資家といっても、それぞれに異なる役割があります。シード、アーリー、ミドル、レイターと同じ投資家という枠の中でも、企業に提供できる価値は大きく違います。IPOを目指すにしても、どういう役割の人にどれくらい入ってもらいたいのか、IPOの前まで常に考えて逆算的に資本構成を計画して形成していくべきだと思います。そうしないとIPO時の売出し規模、上場後のオーバーハング(持ち分の大きい出資者が、いずれ株式を売りに出すだろうという憶測から株価の上値が押さえられてしまう現象のこと)などになってしまいます。

——資金繰りに頭を悩ますことも少なくないスタートアップにとって、VCからの継続的な出資は渡りに船と考えてしまうのも仕方がない気がしますが、スタートアップの創業者はVCに対してどう振る舞っていくべきと考えますか。

 たとえば、3月に実施したPaidyのシリーズDラウンドでは、当初のタームよりもわれわれが不利になるような変更点がありました。われわれからしたら話が違うと思うところなんですが、ファウンダーでもある代表取締役会長のラッセル・カマー氏が、これが会社のためだと押し通したんです。

 私にとってむしろそれは経営者としてすごく立派な振る舞いだなと感じました。そんな風に会社のためにベストな選択を常にし続け、無理があってもそれを押し通すアグレッシブさをもつ日本企業のマネジメント層は、正直に言ってまだまだ少ないと思います。かつて苦しいときに出資してもらえたという恩があったとしても、それとは関係なく、その瞬間瞬間で会社にとってベストと思える選択肢をファウンダーは選び続けるべきだと思います。

 たとえば、最初に出資を受けた2年前当時は、この先5年はあなたの支援が必要だと思っていたけれど、いざ2年たってみたら、ここから先必要なものが変わってしまった、というのはざらにあります。

「上場」と「ファンド出資」のどちらを選ぶべき?

——中長期的な成長のためには上場(IPO)による資金調達を急がない方がいいというお話もありました。IPOではなく、ファンドから出資を受けた場合、企業の成長においてどういったメリットがあると考えますか。

 正直に言うと、どちらが正しいかという答えはないと思っています。たとえば、上場会社の株主にはいろいろな人がいます。1日のトレーディングで利益を出したい人もいれば、中長期で見て利益を出したい人もいる。決算を気にして売買する人も、長期保有の人もいて、そういうコンセンサスのなかで株価が決まっていく。違う興味関心を持った株主たちがたくさんいるので、そこに対する期待値のコントロールが難しく、結果的に株価が大きく動く要因になることがあります。

 もう1つ、上場投資家は未上場投資家と比較して、アンフォーギビングですよね。上場企業は市場の予想を毎クオーターごとに上回ることを基本的に求められています。業績予想を外すと投資家が株を手放して株価が下がる。会社が成長する上で、それらはいろいろな意味でノイズになってしまいます。

 一方で、プライベートで特定のファンドから出資を受ける場合は、多くても機関投資家が10社くらいです。極端な話、企業側が「こういう事業を絶対にやりたい」と言いつつ赤字を掘っても、その10社の同意を得られれば、そちらに投資できるわけです。事業を大きく成長させたいとき、成長させるべきときに、不特定多数の株主を気にせずに大胆に投資できるのは大きいですよね。

 もう1つ言うと、赤字上場って今でこそスタートアップでは当たり前のところもありますが、基本的にはフリーキャッシュフローを創出し、それを事業に再投資することで成長させていくことが上場会社のあるべき姿だと思います。しかし、新興市場がそれを曖昧にしてしまっている部分がある。上場するのであれば、そういう姿になる、あるいは12〜24カ月後に確実にそういう状態になると言えるまで待つのが本来あるべき姿かなと思います。

——VCではなくタイボーンのようなファンドから出資を受ける利点はどういうところにあるでしょうか。

 VCはスタートアップがIPOした後に株を買うことはまずありません。保有している株式をIPO後にすぐに売ってしまうようなこともないかもしれませんが、少なくとも新たに買うこともない。いわば上場後はセラーなんですよね。いずれ売られるとすれば、需給のバランスが崩れ、当然株価は下がってしまいます。VCは非常に長くお付き合いしてくれますが、IPOが近くなればなるほどそういった要素は薄くなっていくのではないかと考えます。

 対してわれわれのようなパブリックとプライベートの両方をやっているクロスオーバー投資家は、ずっとバイヤーでいられるという良さがあると思っています。つまり、未上場時から投資し、IPO時、また、上場後も追加投資ができます。社内ではIPOのことをシリーズIと呼び、他のプライベートラウンドと変わらずに買い増す機会だと捉えています。スタートアップの経営者は、事業を成長させるために適切なタイミングで株主のバランスを考えていくことが、今後はますます重要になってくると思います。

——最後に、タイボーンとして日本市場で成長を期待している分野はありますか。また、日本のスタートアップにメッセージをお願いします。

 期待している分野は、ソフトウェア、SaaS領域ですね。例で言うと、ラクス、freee、BASE、最近上場したSpiderPlusのような企業です。また、私どもの投資先である、Paidyを含めたFinTech領域も非常に面白いと思います。これらに分野に共通していることは、市場規模が大きく、他国と比較して、浸透率が低いという点です。

 とにかく、日本からもっと大きなスタートアップが出てきて欲しいですし、出てくるような環境を政府には整えてほしい。米国のシリコンバレーや中国の深圳のように、東京もその一角として、面白い人や大きい会社がどんどん出てくる場所だと認識されるマーケットになるといいですよね。そうすれば国としてももっともっと明るくなると思います。

 企業が発展途上で上場を目指すのは本当に大変ですし、IPOを急ぎすぎることが成長の芽を摘んでしまっているところもあるはずです。じっくりプロダクトを開発したいだけして、それから大きくしていきたいという考えをもつ経営陣のみなさんに、海外投資家からの出資というオプションもある、ということを提示できればと思います。視座を高くもったスタートアップ、デジタルやオンラインを通じて生産性を高め、よりよい社会にしたいと考えているスタートアップをサポートしていきたいですね。

 われわれ投資家ができることは限られています。ですが、お金のことだけではなく、海外やファンドがもっているナレッジの共有を通じて、他にはないユニークなアドバイスもできると思っています。香港の会社とはいえ、当然ながら私は日本語でやりとりできますし、海外投資家からの出資を検討したいときはぜひご連絡いただきたいです。

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Tybourne Capital Managementへの問い合わせ
Email: info.jp@tybournecapital.com
Twitter: @Masamochida

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