年間約5000棟の分譲住宅を供給するケイアイスター不動産が、不動産テックへの取り組みを加速している。2020年には、非接触型営業やVR内覧などを実践するグループ会社「Casa robotics(カーザロボティクス)」を設立。業界に先駆け無人内覧を実践するなど、対面、電話などリアルなやり取りが主流だった不動産営業に新たな仕組みを取り入れた。4月には、平屋の提案から、VRでの内覧や採寸、チャットでの相談、引き渡しまでをサポートするアプリ「ヒラヤー」をリリース。大手不動産会社として、業績を伸ばすケイアイスター不動産が、不動産テックに注力する理由について、また、目標に対し190%の受注を達成したという規格型平屋注文住宅「IKI」について、Casa robotics 代表取締役の細谷竜一氏とケイアイスター不動産 デジタルサービス企画部部長の松山一則氏に話を聞いた。
――まず、コロナ禍における住宅販売の状況について教えて下さい。
細谷氏 戸建て事業については、大変好調に推移しています。これはケイアイスター不動産に限らず、業界全体に言えることなのですが、在宅勤務も増え、外出もしづらい中で、住宅の環境を見直そうという動きが高まり、戸建て住宅を購入したいという方が増えています。
ただ、以前のように大きくて立派な家を建てるというよりも、コスパ重視の時代になってきているように感じます。都内の新築マンションの価格が高騰している今、戸建てのコストパフォーマンスは上がってきていますし、庭付き戸建ての良さは見直されていると思います。
この背景には、価格を抑えて高品質の住宅を提供するため、営業力、商品力で住宅市場を伸ばしてきたという不動産会社の努力もあったと思います。ただ、今までの営業は電話をしたり、直接お会いすることがメインで、それがコロナ禍においてやりづらい状況になってしまった。一方で、お客様にも時間に縛られず、もう少しスマートに家さがしをしたいというニーズが高まっており、そこにコロナ禍がトリガーとなって、家探しの形は変わってきているんですね。
通常、お客様は家探しの前段階として、ネットを使って情報収集をしています。今までその工程は、不動産会社にあまり見えていない部分でしたが、その部分こそ重要です。住宅情報サイトに訪れる方も多いと思いますが、それでは物件が多すぎる。ということであれば、高品質でお買い得な不動産物件を取りそろえている私たちがお客様に直接マーケティングしていく時代になると考えています。今、取り組んでいるのは、スマートフォン中心の住宅選びで、アプリの開発も手掛けています。
――住宅の買い方が変わってきているタイミングということでしょうか。
細谷氏 買い方改革ということもありますし、スマートフォンの登場によって現場の管理のあり方も変化してきています。現場の効率化も追求していくべきですし、DXに取り組んでいかないと今後の競争には勝てません。そう考えて、ケイアイスター不動産ではAI、IoTといった先行投資を続けてきました。
――Casa roboticsという別会社を設立されたのもそういう経緯からですか。
細谷氏 こうした経緯を踏まえて2つの理由から別会社として設立しました。1つは市場構造の変化です。戸建ては、ご夫婦とお子さんなどファミリー世帯をターゲットにして作られています。ただ少子高齢化が進み、人口が減っていく中で、ファミリー層はいままでのように増えていかない。しかし、お一人様世帯やご夫婦2人、ひとり親世帯など、世帯総数は増えているんですね。こうした「小さな世帯」の人たちは、「まさか持ち家なんて」と考えていらっしゃる方が多いのです。
ケイアイスター不動産では、コスパのよい戸建てを追求してきましたので、家賃と同程度のローンで戸建てが建てられます。それも標準的なファミリー世帯ではなく、小さな世帯にちょうどいい家が建てられる。新しい持ち家のマーケットが生まれると捉え、専用住宅として開発したのが規格型平屋注文住宅のIKIです。
ただ新しい住宅のマーケットですから、潜在的なニーズを捉えなければなりません。そのためにはマーケティングをしっかりとする必要があります。これが2つ目の理由です。ケイアイスター不動産のメインは、2階建てのファミリータイプの戸建てですから、平屋に特化してやるとなると別会社にしたほうが良いだろうと。これらの理由から立ち上げたのがCasa roboticsです。
Casa roboticsでは、無人内覧システムとチャットボット商談といったテクノロジーを前面に押し出しながらデジタルマーケティングで潜在層にリーチする仕掛けを作っています。これをケイアイスター不動産のメイン市場でやると年間5000棟以上という大きな単位になってしまうので、そこをいきなり切り替えることはできない。子会社として平屋という市場に特化して取り組み、その成果をメインの市場に戻す。DXの尖った部分を私たちで取り組むという役割を担っています。
――別会社にすることで、先行的にテクノロジーに特化した取り組みができるということですね。
細谷氏 子会社化することで動きが早く、新しい仕掛けもアイデアから3カ月程度でしあげられるなど、スピード感が売りですね。無人内覧や今回のアプリであるヒラヤーも、企画から投入まで3カ月で実現しています。もう一つのメリットとして棟数がメインの市場ほど多くないので、オール国産の木材を使うなど、脱炭素に向けた取り組みにも振り切っています。
ロボット接客など新たな取り組みも、IKIで展開できればいいというスモールスタートではじめ、その後広げるという二段構えにすることで、重たい調整部分をなくし、軽い部分から着手できる点も子会社化したメリットだと感じています。
――IKIの販売も大変好調だと伺いました。
細谷氏 かなり反響をいただいており、2020年8月の販売開始から2021年3月末まで、当初想定していた目標値に対し、190%の受注を達成しました。私たちがターゲットとしていた小さな世帯の方に多く興味を持っていただき、中でもシニア世帯の建て替え需要として注目していただきました。持ち家を初めて買われる若い一次取得者も含めた各セグメントから手応えを得ることができ、やはり「安くていいものは売れる」なと。
――ファミリー世帯向けの物件に比べて特徴はありますか。
細谷氏 お客様の意思決定が早いですね。契約までの打ち合わせ回数が2回程度と、通常の住宅販売では見られないスピード感があります。IKIは17坪タイプで税込599万円〜とほかにはない価格帯ですから、ほかと比較することなく、決めていただけるお客様も多いです。モデルハウスにいらっしゃる前に、ウェブサイトを見て価格帯、外観、間取りをほぼ決めていて、直接訪れるのは最後の確認という感じです。
コストパフォーマンスを意識していますが、内装や木材は、ケイアイスター不動産が一括で仕入れた建材を使うことで品質はもちろん、デザイン性にも優れていますし、シンプルで暮らしやすく、美しい仕上げになっています。モデルハウスも実際に建てるIKIと同一仕様で、本物のイメージをその場でつかんでいただくことができます。
――アプリのヒラヤーをリリースすることで、お客様の体験はどう変わりますか。
松山氏 ヒラヤーはお客様にあった平屋の提案から、VRでの内覧や採寸、チャットでのご相談、お引き渡しまでをサポートするアプリです。すでに提供している無人内覧に加え、アプリを導入することで、外出が難しいご高齢の方や、多忙で展示場に足を運べない方でもより手軽に簡単に平屋を体験していただくことが可能になりました。
住まわれるご家族の人数や、すでに土地をお持ちかどうかなど、いくつかの質問に答えていただくことで、お客様に合った平屋のご提案ができる流れになっています。この質問を作るにあたり、お客様にインタビューをさせていただいたのですが、平屋のイメージは、東京近郊では高く、北関東周辺では安いことがわかりました。
このほか、アプリ内でモデルハウスを見学できる360°ビューやVRでの内覧、入居までに必要な「やることリスト」を確認できる「マイページ機能」を持っています。加えて、チャットでの相談にも対応しますので、お客様からのご質問にリアルタイムでお返事できるようになっています。
アプリ内からは、モデルハウスまでの行き方や来場予約などもできますので、アプリからリアルへの流れも意識しています。今後は、土地を持っていないお客様向けに、土地の情報をお届けするなどできるようにしていきたいと思っています。
ゆくゆくは、無人展示場とアプリを使うことで、家に住みたくなる体験と、住むまでのプロセスを一気通貫で提供していく世界をつくりたいと考えています。
細谷氏 注文住宅の購入は何をどういう順番で進めていったらいいのかわかりませんよね。どうすれば自分にあった住宅設計ができるのか、そういうところをアシストしていければと思っています。また住宅プランができたあとは、どういうプロセスがあるのかをアプリ内で示すことで、住宅を買う不安を減らしていきたい。アプリであれば、モデルハウスをそのまま3Dモデルとして保存できますので、モデルハウスに来る前も行ったあとも継続的にほしいなという気持ちも保っていただけるかなと。リアルのモデルハウスでは、帰ったあとにイメージだけが残る形で、家を買う行動に結びつかないこともあるのですが、アプリで手のひらに理想の家を持ち帰ることで、温度感を高く保てると思っています。
松山氏 自宅の購入は、ものすごく負荷の高い意思決定が必要ですよね。そのため、お客様にはすごくストレスがかかってとてもつかれてしまう。でも家を買うというのは、本来夢のある楽しい行為です。少しでもその体験を楽しみながらやっていただきたい。そのサポートにヒラヤーがなればうれしいですね。
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