自動化の波は現代の戦場にも到来しつつあり、それに応じて軍は再編されつつある。英政府は向こう10年をかけて防衛を再編成する新計画を発表した。新技術に多額の投資をする一方で、兵員を削減する。
軍を情報技術とデジタル戦争の時代に適応させるため、英国防省は、2030年までの軍部の新ビジョンを打ち出した。このビジョンは、実際の戦場で起きている急速な変化への対応に焦点を絞っている。そうした変化には、サイバースペースを介したテロの拡大から人工知能(AI)採用の新たな戦力、ロシアと中国の軍の急速な刷新まで、新たな脅威が含まれる。
この発表は、英国政府が最近公表した国家戦略報告「Integrated Review(統合レビュー)」に裏打ちされたものだ。統合レビューは、冷戦後最大の安全保障および外交政策を刷新するための、より広範な10年間に関する戦略文書だ。この戦略文書の目標の多くは、英国軍の現代化で、政府は向こう4年間でさらに240億ポンド(約3兆5800億円)の予算を投じると表明した。
Ben Wallace国防大臣は、国防省が目標とする軍の再編成について説明し、兵士が装備する最新の兵器やツールにかなりの支出が費やされると述べた。
「防衛において、かつては戦闘で勝利をもたらしたが現在は時代遅れになった機能を守ろうと感傷的になりがちだが、脅威の変化に合わせ、われわれも変化しなければならない。何をなぜ引退させ、何で置き換えるかについて、明確に見極める必要がある」(Wallace氏)
この文書では、AIとAI対応の自律機能を現代化の取り組みに不可欠なものとしている。これらのシステムは、戦場での最も危険な任務を遂行させるために人間の兵士と置き換えることができ、この方法で軍の能力を拡大できる。
例えば、国防省はAI搭載車両によるコンボイ(兵站輸送車列)の可能性に関心を示している。また、人間の操縦担当者を安全に保ちながらドローンでカメラやセンサー、武器を厳しい環境に輸送することで、兵士の任務をどのように支援できるかを把握するための複数の研究プロジェクトも進行中だ。
新たな計画では、ドローン機能拡大のために数十億ポンドが軍に投入される見込みだ。その中には、有人、無人、ドローンスワームのような自律型の混合部隊を構築するための戦闘航空システムへの20億ポンド(約2990億円)が含まれる。
国防省はさらに、例えばAIで新ツールを開発するための新たな防衛センターを設立することにより、将来AI技術に「多額の投資」を行うと約束した。今後、防衛全体の取り組みを推進するためのAI戦略も公開されるとみられている。
ロンドン大学キングスカレッジの戦争学教授、Michael Clarke氏は米ZDNetに対し、「これまで人間の兵士が地上で遂行してきた任務の多くは、ロボットおよびロボット車両が行うようになる。ロボット車両は戦場で、人間が必要となるまで危険な場所に移動する。人間が必要となるのはかなり後になるだろう」と語った。
「ロボットの戦場への投入のメリットは、新しい形の戦争で少人数の部隊でも有効なことだ」(Clarke氏)
このアイデアは新しいものではない。英国軍の幹部は、ロボットシステムが軍事作戦でより重要な役割を果たすようになるという事実を隠そうとしなかった。例えば国防参謀長のNick Carter氏は最近、近い将来に軍の最大4分の1が人間から自律システムに置き換えられる可能性があると予測した。
こうした見解を反映し、英国防省は軍隊の規模を現在の7万6500人から2025年までに7万2500人に縮小すると決定した。この削減は、新計画の中で「よりスリムだがより高度なスキルと能力を有する」と説明されている軍隊へのシフトを示すものだ。
実際、新計画は自律システムに加えて、軍隊の即応性と効率を上げるためのツールの使用を拡大するための投資を含んでいる。Wallace氏は「これは、大量動員から、情報化時代のスピードと将来の脅威に立ち向かう即応性と適合性へのシフトを示す」と説明した。
例えば、最大15億ポンド(約2270億円)が軍の「デジタルバックボーン」構築に向けられる。これは、決定をより適切に通知するために膨大な量のデータを活用することが目的だ。国防情報局が中心となり、あらゆる種類のデータを供給する高度な監視プラットフォームのネットワークを構築し、高度なAI解析モデルを実行することを目的とした新しい計画が進んでいる。
サイバー機能は新たな注目を集めている。国防省は、ナショナルサイバーフォース(National Cyber Force:NCF)に資金を投じると強調した。NCFは、テロリストや敵対国、犯罪組織に的を絞ったオフェンシブなサイバーオペレーションを実行する任務を負う組織だ。
さらに66億ポンド(約9980億円)が新たな機器機能を構築する研究開発プロジェクトに投じられる。国防省は特に宇宙関連で、情報、監視、偵察(ISR)のための衛星コンステレーションの設置を約束した。
だが、一部の批評家は、洗練された技術の導入だけでは兵士の削減を補うのに十分ではないとみている。例えば、野党の政策立案機関「影の内閣」の国防大臣、John Healey議員は、政府による軍隊の規模縮小の動きを非難した。
Clarke教授が説明するように、新計画の反対者は、技術の進歩を支持して兵士の数を減らすことに関連するリスクの存在を強調しそうだ。「2020年までに軍がどのようになるかは全く分からない。これは大規模な変革だからだ。この計画は科学技術にかなり大きく賭けている」とClarke氏は述べた。
「だが、計画を実行しないリスクは実行するリスクよりも大きく、われわれには選択の余地がないという見方もある。90年代の古い兵器と技術で自国を脆弱にし、自ら失敗のお膳立てをすることになるリスクだ」(Clarke氏)
Clarke教授によると、デジタル時代に向けた軍の再編は2021年まで待つべきものではなく、過去10年間の優先事項であったはずという。技術力の高度化につれて新たな脅威が毎日のように出現している中、洗練された軍事的対応を形成することの重要性は高まるばかりだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス