NFTというキーワードを目にする機会が急増している。
2021年に入り、Twitter創業者・ジャック・ドーシー氏やTesla創業者・イーロン・マスク氏がNFTをオークションにかけそれぞれ数億円単位の入札が行われたり、日本のVRアーティストせきぐちあいみさんの作品が1300万円の価格で落札されたりと、センセーショナルな話題が続いている。
こちらのNFTArt…なんと日本円で約1300万円で落札頂きました…!正直まだ実感が無いのですがとても嬉しく、驚いております…!
— せきぐちあいみ AimiSekiguchi (@sekiguchiaimi) March 24, 2021
VRアートの新たな可能性が始まる記念すべき日となりました…!!ありがとうございます!!!!!!#nftart #cryptoart #nft https://t.co/lhpUJO7zqS
その結果、年明け時点と比較したGoogleトレンドの検索人気度相対値は50倍にも達している。
しかし、話題になっていることは分かっても「たかだかTweet1つ、楽曲データ1曲に数億円もの価値がつくのはなぜか」を今ひとつ理解できていない方も多いことと思う。
この記事では、こうした疑問に応えるべく、そもそもNFTとは何なのか、注目を集める背景や、寄せられている期待、留意すべきポイントについてまとめていきたい。
NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)とは、いわば暗号資産(仮想通貨)の兄弟のような存在だ。両者はどちらもブロックチェーン上で発行・流通するデジタルデータの一種である。
一般的にデジタルデータはコピーや改ざんが容易なものだ。そのため海賊版や違法コピー作品が出回りやすく、現実の資産や販売物と比較して価値をもたせることが困難だった。
一方で、ブロックチェーン上のデジタルデータは参加者間の相互検証によってコピーや改ざんが困難であり、デジタル空間で価値のやり取りを可能にする。この特徴は一時600万円以上の価格となったビットコインなどの暗号資産の価値を支えている。
参考記事:ブロックチェーンとは?
NFTはこれを通貨ではなくコンテンツやデジタルアイテム全般に応用するものだ。
技術的な観点では、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)に対し、暗号資産はFT(Fungible-Token:代替性トークン)と分類されている。ここでいう代替/非代替とは何を意味するのだろうか?
もし自分の手元に「昭和64年発行、番号ゾロ目でエラー印刷の1万円札」があった場合を例に考えてみよう。
この紙幣をそのまま「昭和64年発行、番号ゾロ目でエラー印刷の1万円」とみなした場合は、その紙幣は唯一無二のコレクターズアイテムとして他の1万円札と代替することはできなくなる。
しかし、そうした識別情報を無視し「1万円分の価値を持った情報」とみなした場合、他の1万円札や1000円札10枚と交換しても問題は生じない。この状態を「代替性がある」という。
前者では発行枚数や記番号、紙幣の状態といったメタ情報を踏まえて1万円札を代替不可能な存在と考えているのに対し、後者ではそれらのメタ情報を無視して1万円札を代替不可能な存在と考えている。
このように、データに付随する発行数や作成年月日、識別番号などのメタ情報を改ざん困難なブロックチェーン上で明示し、他のデジタルデータと識別可能な唯一無二の存在として扱うのがNFTの基本的なアイデアだ。
別の見方をすれば、NFTとは「鑑定書と所有証明書に相当する情報が偽造を許さぬ状態で保管され、いつでも誰からでも参照できるデジタルデータ」とも言える。
ジャック・ドーシーのNFTに価格がつくのは「Twitterという世界的にプラットフォーム創業者が最初に行ったTweetに本人が鑑定書を付けた唯一無二のデジタルデータ」だからだ。「長嶋茂雄が最初に打ったホームランボール(サイン&鑑定書&宛名付き)」のようなものと考えれば、価格がつく理由も腑に落ちるだろう。
「偽造不可な鑑定書&所有証明書付きのデジタルデータ」であるNFTは以下の3つの特徴を有する。
大多数のNFTは発行された時点から、複数のウォレットやマーケットプレイス上で確認・利用することができるようになる。
これはNFTの仕様が共通規格(※イーサリアムブロックチェーンの場合はERC721が一般的)によって定められていることによる。例えるなら楽曲であれ、絵画であれ、鑑定書の書式が一定に定められているような状態である。
この規格に則って発行されているかぎり、どのサービス上のNFTであれ原理的には他サービス内で取り扱うことが可能となる。
例えばの話ではあるが、実装によってはドラクエの世界で手に入れた武器をFFの世界のキャラクターに装備させる、育てたポケモンをマイクラの世界で放し飼いにするといったゲーム体験を提供することも可能になる。
従来、デジタルデータのほとんどは発行した企業のサーバー内で所有権(オーナーシップ)が管理されており、「自分がデータの所有者であること」の裏付けをサービス提供側に依存していた。
これに対し、NFTはオーナーシップが特定のサービスベンダーではなくブロックチェーン上に明記されていることから、所有者はビットコインのような暗号資産と同様に、自身のNFTを自由に移転することが可能となる。
加えて、NFTのオーナーシップは一意の所有者に紐づき偽造も複製もできないために、現実の美術品やコレクターズアイテムなどと同様、資産価値を有する存在として取引市場が成立する。
NFTには様々な付加機能をそのデータ自体に持たせることができる。
付加機能の好例となるのが転々流通時の手数料だ。
例えば、画家が自身の絵画を画廊に販売し、画廊がその絵画を競売にかけた場合、競売によって画廊が得た利益は画家には入ってこない。さらに、最初の購入者が転売を行った場合も画家に利益はない。
他方、NFTの場合は、こうした転々流通の際に画家に購入代金の一部が支払われるようなプログラムを絵画そのものに付与することができる。
このように、従来とは異なるインセンティブやお金の流れをあらかじめ資産そのものに組み込むことができる点に新規性がある。
なお、これらの特徴を備えるため、現在ほとんどのNFTはイーサリアムブロックチェーン上で発行されている。その理由はイーサリアムの機能的な性質がNFTに適していることと、利用者が多くネットワーク効果が得られやすいことにある。
NFTが期待を集めているのは、主に「ゲーム」「コンテンツ・IP活用」「資産の追跡&真贋証明」の3つの分野だ。
まず、ゲーム分野だが、ここでは「ゲーム内で発行したアイテムが外部とインタラクションを起こすこと」「ゲーム内での活動や入手したアイテムがそのまま取引や経済活動に利用できること」に期待が集まっている。
ビジネスとしての側面から見れば、AppleやGoogleなどプラットフォーマーに決済手数料を支払うことなくデジタルアイテムを販売できる点や、先発タイトルで獲得したファンを後発タイトルへ促し自社タイトル全体でのLTVを高められる点が魅力となろう。
つぎに、コンテンツ・IP活用の分野だが、ここではクリエイターを中心とする経済圏づくりが謳われている。
例えるなら「同人誌即売会の代わりにネット上で数量限定作品を直接販売できる」「フリーマーケットに自主制作CDを持ち込んだら、それ以降の売買を自動で管理し、収益を振り込んでくれる」といった状態を作ることができるというものだ。
ビジネス的には、CDや出版物のようなアナログ物品の生産コストをかけることなく商品販売型のビジネスを実現できること、商品としての付加価値をつけやすいコレクターズアイテムをデジタル空間でグローバル展開できることが魅力となる。
最後に資産の追跡&真贋証明だが、これはむしろ鑑定書そのものの電子化に近いアプローチだ。
ブランド品や土地の所有権に相当するNFTをデジタル空間上で発行することにより、当該資産の流動性を高めたり、サプライチェーンを透明化することが可能になる。
ブロックチェーン上のデータと現実世界の物品を連動させることには課題が残るため、現在はデジタル空間で制作されたアート作品などが、NFTという形式で鑑定書を付与され競売等にかけられている。
NFTが世を賑わせはじめたのは2021年の2月のことだが、背景には2020年10月から続く暗号資産の高騰がある。
10月22日に決済大手のPayPalが暗号資産業界への参入を発表して以降、ビットコインをはじめとする暗号資産市況は急激な盛り上がりを見せ、時価総額は5倍近い160兆円に達した。
NFT自体はブロックチェーン上のデジタルデータに資産価値をもたせる手法として、後述する様々なユースケースが模索されてきていたが、それはあくまでブロックチェーン業界内での注目に留まっていた。
ところが、暗号資産の高騰を受けて米国シリコンバレーのアントレプレナーであるジャック・ドーシー氏やイーロン・マスク氏らがあらためてその可能性を掘り下げ、実際に自身が利用してみたことにより、急激に注目を集めることとなった。その結果、代表的なマーケットプレイスである「OpenSea」の月次取引高は2021年1月に約8億円だったものが、2月には約100億円となり、3月には約120億円に達した。
実際にNFTを扱う事業者やアーティストたちは「デジタル空間に新たな資産的価値とその売買市場を生み出す技術」と称揚しており、今後の展望として、VRやARといったテクノロジーと組合わさり、デジタル空間により確かな「手触り」を与えていくというストーリーを語っている。
遡るとNFTの歴史は、2017年にイーサリアムブロックチェーン上で誕生した「CryptoKitties」というゲームに端を発する。これは「猫」を模したNFTを収集・売買・配合などが可能なゲームだった。ローンチ当初が仮想通貨バブルの最中ということもあり、ピーク時には約1900万円の値をつけるほどのブームとなっていた。
NFTの存在がブロックチェーン業界で知れ渡って以降、Cryptokitties同様の収集型ゲームが次々に登場した。そこにリッチなゲーム体験とNFTを掛け合わせたのが日本発の「My Crypto Heroes」だ。また、アイテム収集と相性のよいTCG型のNFTゲームも多数登場している。
この時点でNFTを特異な存在たらしめていたのは、特定のサービス外に持ち出してトレーディングに利用できる点にあった。「OpenSea」といったNFT専用のマーケットプレイスが黎明期に誕生している。
TCG型のNFTゲームが裾野を広げたのが、「F1 Delta」や「MLB Crypto Baseball」「NBA Topshot」といったスポーツ分野との連携である。プロ野球カードのように選手やチームをテーマにしたNFTを用いて対戦などを行うゲームが登場し、ブロックチェーン業界外の人々へ徐々に受け入れられていった。
また、スポーツ系NFTの流れは新型コロナウイルスの感染拡大にも後押しされている。かねてより諸外国では「ファンタジースポーツ」と呼ばれるシミュレーション型スポーツゲームの分野があり、そこにベッティングを組み合わせたファンカルチャーが存在していた。コロナのために興行に打撃を受けたスポーツチームがファンとのエンゲージメント向上やファンタジースポーツの活性化などを目的としてNFTに活路を見出したことで、サッカー、バスケ、アメフトなど様々な分野のNFTが検討されている。日本においてもJリーグ・湘南ベルマーレが選手のファントークンが「FiNANCiE」というサービス上で発行されている。
さらに、コンテンツ・IP活用や、真贋証明&追跡の分野でNFTを用いる動きが2019年頃から徐々に活発化していった。日本では「シュタインズゲート」や「進撃の巨人」といったIPがNFT分野で活用されている。
この頃にはNFTの発行と流通のプラットフォームが整備されており、デジタルに作成したイラストや絵画を気軽にNFT化し、販売することが可能な環境となっていた。
最近では、CAPCOMが「ストリートファイター」のIPを利用したNFTアイテムを販売、集英社が「ONE PIECE」等のIPを利用した「MANGA ART HERITAGE」を立ち上げ、スクエア・エニックスがNFTゲーム企業との連携を発表と、国内大手IPが続々と参入を発表している。
さらに、大多数のNFTが発行されているイーサリアムブロックチェーン自体も、消費電力や処理性能の問題を解決するために大規模なアップデートを進行中であり、今後は更にNFTの利用が活発化するとも見込まれている。
このように期待と注目を集めるNFTの分野ではあるが、その普及や発展に向けての課題や留意しておくべき点も多い。
特に昨今の盛り上がりは、2017年の仮想通貨バブルの象徴ともなったICO詐欺や、多くの著名人が自身のトークンを発行してファンから資金を集めた後、程なくして放置状態となったVALU騒動を彷彿とさせるものがある。
第一に、NFTについて十分に理解しておかなくてはならないのは、「鑑定書が偽造できなくともデータ部分はコピー可能」という点にある。
例えば、とある楽曲をNFT化して10名限定で販売したとしよう。このとき、NFTを購入した10人は確かに正当なオーナーシップを得ることができる。第三者に対してその権利を主張することも可能だ。
しかし、その楽曲の音源部分だけを、自分以外の9人がコピーし他人へ視聴させたり、データを渡したりすることを直接防ぐことはできない。
鑑定書付き限定販売レコードを持っていたとしても、その再生音源が誰かに録音されてネットに流出することは防げないのと同様である。
コピー不可というのは、あくまで正式なオーナーシップが所有者だけに紐づくというものであり、利用価値ではなく収集価値、コレクション性を守るという性質が強い。
第二に、「鑑定書だけが残っていても、データが使い物にならなくなる」という可能性がある点だ。
先程の例えに倣うと、鑑定書付きのレコードを持っていても再生機器がなくなる可能性や、レコード自体がなくなり鑑定書だけが残る状況が発生しうる。
具体的には、あるゲーム内のアイテムがNFT化され販売されたとき、ブロックチェーン上にあるのはそのアイテムのアドレスやメタデータのみで、アイテムのイラストやゲームのシステム環境はなどゲーム会社のサーバー内にあり、サービス停止とともにアイテムが利用できなくなる可能性がある。
このとき、確かにブロックチェーン上にはNFTが存在し、そのオーナーシップは明確に所有者に帰属しているのだが、そのNFTに期待されていた利用価値は一切なくなり、売買価格も大きく損なわれてしまう。
比較されやすいTCGでは運営が倒産してもカードさえあればルールを知る誰かと遊ぶことができるが、NFTゲームなどの場合はそうもいかない。
仮に今の投機熱が収まった後、中長期的に価値を保つことのできるNFTかどうかは考慮すべきであろう。
第三に、事業者の遵守すべき法規制が曖昧で未整備な現状にも注意が必要だ。
前提としてNFTは資金決済法上の暗号資産には該当しないものと解釈されており、NFT事業者は金融規制の監督外と位置づけられている。
しかしながら、資産としての特徴を有する以上、通常のゲームビジネスやコンテンツビジネスに比べて消費者トラブルを生じやすい傾向にあるのは確かだろう。
例えば、換金性を有するゲーム内アイテムを排出する有償ガチャは賭博に該当する可能性が高い。また、保有者が発行体の事業収益を配当として得られる場合などは金商法上の電子記録移転権利として扱われる可能性が生じる。さらに、NFTの配布時には景表法上の規制対象となる可能性を考慮する必要がある。
加えて、NFTの売買や移転を介して暗号資産のやり取りの匿名性を高めたり、資金移動や弁済を目的にNFTが用いられたりする場合には、マネーロンダリングを防止する国際金融規制の対象となる可能性もある。
このように、明確なコンプライアンス基準が十分に整備されているとは言い難い現状にあり、「ゲーム事業である」「コンテンツ事業である」という認識のもとでこれらの基準が踏み越えられてしまう可能性に十分注意しなくてはならない。
最後に、ユーザーに多くの責任を委ねるUXの特異性に注意すべきだろう。
ユーザーは暗号資産取引所で暗号資産(仮想通貨)を購入し、その暗号資産を自身のウォレットへ移転したうえで、マーケットプレイスへ暗号資産を支払い、入手したNFTもウォレット上で保管しなくてはならない。この際には、アドレスや秘密鍵といった暗号資産やブロックチェーンに関連する知識を要求されることもある。
加えて、NFTサービスはネイティブアプリではなく、Web上で提供される傾向にあり、この際にフィッシングサイトや偽サイトへ陥る恐れもある。
このように、閉鎖的な事業者の管理環境下で利用する一般的なサービスとは異なり、自身の責任のもと複数のサービスを横断的に利用することがNFTを利用したサービス体験であり、その結果ユーザーが負うリスクが高まりやすいのだ。
NFTはデジタルデータに付随するメタ情報を、改ざん困難なブロックチェーン上に記録することで、デジタルデータに資産性を付与する鑑定書を発行するようなアイデアだ。
これにより、複数サービス間での横断的なデータ活用、デジタルデータのトレーディング市場の創出、より機能的なデジタルデータの設計が可能となる。
この特徴を活かし、現在は「ゲーム」「コンテンツ・IP」「資産の追跡&真贋証明」といったユースケースが模索されている。
これらのユースケースにおいて、NFTはデジタル空間に従来以上の「確からしさ」「手触り」を与えるテクノロジーであると考えられている。
他方、誤解を生みやすい技術であり、利用価値以外の部分で市場価格が釣り上がる点、事業者のコンプライアンスの問題、ユーザーの負う責任が相対的に大きい点などから、十分な理解のもとで利用する必要があることに留意が必要だ。
イーサリアム創始者のVitalik Buterin氏も「すでに裕福な著名人がさらにお金を稼ぐために使うのではなく、より社会的価値の高い方向性に期待する」として、バブル的な傾向に警鐘を鳴らし、収益を社会貢献活動と紐付けた「赤い羽根」的なユースケースを示唆している。
しかしながら、こうした懸念を踏まえても、NFTがコンテンツやゲーム、アートなど様々な業界において、新たなビジネスモデルの選択肢となるテクノロジーであることは確かではなかろうか。
今後もNFTを取り巻く動向に注視が必要だろう。
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