角氏:そのpopInがBaidu Japanと経営統合するまでは何年かかったのでしょうか。
程氏:7年かかりました。途中、ビジネスモデルが3回ほど方向転換しました。いくつか試した中でブログパーツをつくったら、某ウェブニュースから「サイトの検索に困っているので、popInで検索が便利になるサービスを作れませんか」と連絡がきました。約1カ月ほどでデモをつくり、お見せすると大満足いただいたことがBtoBのサービスの始まりです。それから同じサービスを通信社に提供し、同じブログパーツを使ってくださいました。通信社の応援を受け全加盟社の会議へご招待いただきプレゼンをしました。
その際に、作ったデモをお見せしたところ、多くの地方新聞社がpopInの検索システムの導入をしてくださいました。サイトの検索のビジネスモデルは、「検索は無料で提供し、Yahoo!とGoogleの検索広告をいれる」というものです。いろいろな方からのご支援があったおかげで、最初のtoBモデルができ、初の売上となったのが第一歩です。
いろいろなメディアの方に「何か悩みはありますか」とヒアリングもしたところ、「関連記事を手動でつけているので大変。一度設置すると更新できないので、どんどん古いままになっている」と5社ほどから同じ悩みを聞き、ここにチャンスがあるのではないかと思いました。検索エンジンがサイトのデータを全て持っているため、過去記事などの全データの中から類似テキストを判別して関連記事サービスを作ることができます。それがもう1つの新サービス、ASPモデルです。某海外ウェブメディアにも当時ご使用いただいておりました。
角氏:海外ウェブメディアも使っていたんだ。
程氏:多くの新聞社に使っていただいていました。一気に事業の基盤ができ、黒字化したのが2011年です。一方で、黒字化してからも、実はしばらく悩んでいました。事業に問題はないのですが、急成長できない。ASPモデルなので急成長が難しく、どうしようかといろいろ迷いながら、いくつかサービスを試していたところ、2013年の年末にネイティブ広告(※)というものが日本にやってくるということで、すぐに、popInでもネイティブ広告のシステムを作ってみました。2014年の2月にリリースし、おそらく国内で一番最初にネイティブ広告に乗り出したのではないかなと思っています。
そこからは、popInの毎月売上が倍増して急成長すると同時に、Baidu Japanともう1社から買収交渉が来ました。Baidu Japanにジョインすることを決め、その結果、海外展開、BaiduのAI技術開発、特許をBaiduでも利用できるよう提供する、この3つを実現しました。
※ネイティブ広告とは「デザイン、内容、フォーマットが、媒体社が編集する記事・コンテンツの形式や提供するサービスの機能と同様でそれらと一体化しており、ユーザーの情報利用体験を妨げない広告」を指す。(JIAA ネイティブアド研究会の定義による)
角氏:ちょっとすごすぎるんじゃないかという感じですね。最初に起業した時も、顧客目線を徹底しているんだろうなと思いました。メディアの方々にヒアリングをされて、その時に「5社ぐらい同じ悩みがある、じゃあそれ作ろう」と思える勘の鋭さというか、やっぱりすごいですね。
程氏:当時は起業したてなので、ビジネスセンスなどは全くないですが、考える時間はたっぷりありました。また、自分の手で作れるので、作ってみて失敗してを繰り返しています。もしかすると、他の方からは、今popInが非常にうまくいっているように見えるかもしれませんが、実はその3〜5倍ぐらいの失敗を重ねています。機能やシステム、サービスなどを、どんどん作っては捨てる、作っては捨てるという試行錯誤を繰り返し、ベンチャーらしく走ってきた結果が現在です。
角氏:たとえば作ったけれどあまり売れないとか、うまくいかないみたいなことがあるじゃないですか。その時って、心がつらいとか折れそうになるとか、そういうことはなかったですか。
程氏:折れることは今でもあります。挫折には慣れていますが、何度も何度も挫折すると分かったことが1つあります。それは「手を動かせばすべて解決する」ということです。手を動かせば新しい道がひらくということが、体験を通して分かってきて、とにかく困ったら手を動かす。とにかく作る。そうすれば、次の新しい景色が見えてきます。今まで脳の刺激されていない部分が刺激されるようになって、作れば作るほどどんどん刺激される範囲が広くなるので、これはとても重要だと思いました。
角氏:とにかく作る。
程氏:そうです。やはりスティーブ・ジョブズ氏も言っているように「Connecting the dots」というのは、まさにそれかなと思っています。
角氏:何かあったら、何か困ったらとりあえず手を動かすべきというのはいろいろな人に言いたいんですけど、手を動かすことで、自分で作って過程において学びや気づきがあるんですか。
程氏:それしかないと思います。やっぱり挫折というのは、鬱病になる要因でもあるのか、ひとつの思考回路になってしまうことがあります。実は僕自身2013年に鬱病になりかけた経験があります。実際の年間売上は数千万円ほどあり、安定しており利益率もかなり高い中で社員は3人のみでした。
角氏:すごいですよ。儲かっているじゃないですか。
程氏:はい。事業としてとても好調でした。それでも鬱病になりかけていました。
角氏:どうして?
程氏:未来が見えないからです。「このままでいいのだろうか。5〜6年やっているのに、これ以上の可能性はないのか」とすごく焦っていました。僕はECが好きだったので、ECで何ができないかなと思っていました。その時パッとひらめいたのが、ページを検索して何も見つからなかった際に表示される「ページが見つかりません」というエラー。ECの場合、このエラーに着目したらEC向けの新しいサービスを作れるのでないかと思ったその日に、鬱状態が消えました。
角氏:やることを発見した!みたいな感じになったんですね。
程氏:はい。一瞬で消えて不思議でした。本当に魔法のような感じです。思いついた翌日、すごく元気になり「やろう!」と心が奮い立ちました。あの1カ月間は、悩みに悩んで、本当に眠れなかったです。おそらく鬱だと思います。本当にすごい経験をしたと思っています。すぐ手を動かすことを習慣にすることで、よくない状態が解消される。そうしたら必ず道がひらくと思いました。
角氏:行動が道をひらくんだということですね。
程氏:僕のこれまでの経験上、唯一の方法でした。
角氏:いやすごいな。素晴らしいですね。もうかなりの大きな学びがありました。僕のライフワークは「行動の起点を作る」というのがテーマなんです。僕は昔、公務員になって20年仕事していたんですけど、そこからあるきっかけがあって自分の行動を変えて、その結果起業に至っているんですけど、そこからのほうがやっぱり人生がすごく楽しいんですよね。
どんどん自分で思いついたことを行動して、実現に向けて歩んでいく。そのプロセス自体が楽しいし、迷いがなくなるんですよ。とにかく行動するということは「迷いから離れる」ということでもあると思うんですよね。そうやって動けるような人をどうやって増やしていけるかということをうちの会社でやっているので、今、程さんがおっしゃっていた挫折の経験とそこからの大きな学びのきっかけが「手を動かすしかない」という、その一言に表れているのかなと思いました。
【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】
角 勝
株式会社フィラメント代表取締役CEO。
関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。
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