視覚効果アーティストのChris Ume氏は、俳優で物まね芸人のMiles Fisher氏と組んでTikTokで公開した俳優Tom Cruise氏のディープフェイク動画を作った時、ちょっと楽しもうとしただけだった。この1週間に起きたように、この動画がソーシャルメディアでバズったり、あちこちで話題にされたりするとは思っていなかった。
Ume氏はインタビューで、「人々を騙そうとしていたわけではない。みんなの想像力を刺激しようとしていた」と語った。
「@deeptomcruise」というTikTokアカウントで投稿された3本の動画では、Cruise氏のように見える人物が、ゴルフをしたり、手品をしたり、ぎこちなく裏話を語ったりしている。笑いや仕草、顔の表情など、すべてが本人そっくりだ。だが、現実には、カメラの前にいるのはFisher氏で、同氏の画像がディープフェイク技術で加工されている。
ディープフェイクとは、人が実際にはしていない行為や話をしているように見せかける動画のことだ。Ume氏のプロジェクトの目的は楽しむことだったが、一部の人々は、この技術がいかに人々をだましたり煽動したりすることに使われるかという、ディープフェイク技術の負の側面についてSNS上で議論していた。あるTwitterユーザーが想定したケースは、指導的立場にある人を撮影した動画が改変され、言ってもいないことを言ったように見せかける内容になったり、暴動を煽るために誤った情報が使われたりするというもの。ディープフェイクの技術によって選挙の妨害やプライバシーの侵害が起きかねないというのは大いに懸念されていることだ。
Ume氏は、純粋に創造が目的で、自分が制作したものほどうまくできた動画は、(少なくとも現行のディープフェイク技術では)それほど簡単に作れるものではないことをはっきりさせたいと考えている。同氏は、人工知能(AI)モデルのトレーニングに2カ月、動画の撮影に数日、撮影後の編集には、それぞれの動画について約24時間を費やした。
「これらの動画の制作には多くの作業がともなった」「このプロジェクトのためには、プロの俳優を用意しなければならない。Fisher氏は、Tom Cruise氏の物まねをさせたら右に出る者がいない。一方、私はディープフェイクの専門家で、視覚効果アーティストだ。作業に使えるプロ仕様のハードウェアもある。Fisher氏と私の2人は、いわばプロフェッショナルのチームだ。家で座ってボタンをクリックするだけで、私たちが制作したのと同じものを作れるわけではない」(Ume氏)
だからと言って、今後数年で技術が進歩しないと言っているわけではない、とUme氏は述べた。
人気を博したにもかかわらず、(あるいは人気が出たせいかもしれないが)Ume氏とFisher氏はTikTok上の@deeptomcruiseアカウントから動画を一旦削除した。Ume氏は動画について目的は果たしたと感じているとした上で、Cruise氏に不快な思いをさせたくはないと語った(TikTokやCruise氏から削除の要請があったわけではなく、動画の公開を停止するべきだと感じただけだという。米CNETはこの件についてTikTokとCruise氏にコメントを求めたが、回答は得られなかった)。しかし5日、Ume氏とFisher氏は再びTikTokで動画を公開した。現在は、各SNS上の転載動画ではなく、オリジナルのフォーマットで動画を視聴することができる。
Ume氏はこの動画の概要を自身のYouTubeチャンネルで公開している。現在、次のプロジェクトを準備中だという。それがどのようなものになるかは不明だ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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