国の「出向起業制度」を使ってNTT Comから新会社立ち上げ--スポーツ観戦の未来を創るSpoLive岩田氏 - (page 2)

ファンとチームの「距離を縮められる」手段を探りたい

——ここからはSpoLiveについて聞いていきます。まず、どのようなサービスなのか教えてください。

 ビジョンとしているのは、スポーツファンとアスリートやチームとの距離をデジタルの力で縮めるというものです。これまではファンの皆さんが現地に行って応援しないと、アスリートやチームに声援を届けられませんでした。それがどこにいても届けられるようにしたり、アスリートやチームの方からファンに向けて情報発信や収益化をしやすくしたりすることで、スポーツ業界をエンパワーしていきたいと考えています。

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バーチャル観戦プラットフォーム「SpoLive」

 最終的にはファンの方々に新しい価値を提供し、ファンの声援がアスリートにしっかり届いて、かつスポーツ産業として潤っていくようにしたい。そのためのプロダクトがSpoLiveです。私たちはこれを「バーチャル観戦プラットフォーム」と呼んでいます。ファンはアスリートやチームからの情報や試合の情報を効率的に受け取ることができ、アスリートやチームの応援もできる。そういったことをデータドリブンでやっていきます。

——岩田さんは以前からスポーツが好きだったのでしょうか。

 小学生のときがおそらく一番リアルのスポーツとの接点が深かったと思います。横浜出身ということもあってJリーグの横浜フリューゲルスがめちゃくちゃ好きで、1998年末にチームが消滅したときは本当にショックでした。野球は親の影響でオリックスと阪神が好きで自分でもプレーしていましたし、MLBは毎日欠かさず見ていて、シアトルマリナーズのイチロー選手の試合がいつも朝にやっているので、テレビ観戦するために学校を休んでいました。

 中学、高校のときはどちらかというとeスポーツでした。自分でサーバーを立てたり、ネットゲームにハマりすぎて、引きこもっていた時期もあります(笑)。さすがにヤバいと思って大学生になってからはいったんゲームをやめていたんですけど、最近また復活してきて、スマホゲームや家庭用ゲーム機で適度に遊んでいますね。

 それはともかく、地域の野球チームやサッカーチームの練習にも混ぜてもらって自分でプレーもしていたし、スタジアムで観戦することも好きだったんですけど、だんだんテレビ観戦が多くなっていきました。時々現地に行くと熱量の違いにハッとさせられたりして、そのときの経験を思い出して、「リモート観戦でも、もっと熱量高く楽しめるようなコンテンツって何だろう」と問いかけながらSpoLiveの開発を進めています。

——現在はどんな競技で活用されているでしょうか。

 今のところアプリでチェックできる競技は3種目、ラグビー、サッカー、テニスです。プラットフォームとして活用されているチームは現在数十ほどで、徐々に伸びています。最も利用が活発なのはラグビーで、2020年12月からはラグビートップリーグの練習試合が始まり、その中でチームの方がライブ配信を行ったり、数チームの代表者が集まって対談形式のコンテンツを流したり、といったこともやっています。2021年1月にはラグビートップリーグのリモート応援に関するパートナー契約を締結するなど、特にラグビーには力を入れていますね。

——アプリの機能として特徴的な部分はありますか。

 ファンの方が応援の気持ちを表現するための応援機能です。特に、「スーパー応援」というデジタル応援グッズを購入することでチームに応援メッセージを届けることができます。一方チームがコンテンツを販売できるようにもなっていて、それを購入することでアスリートやチームを支えることができるようになっています。

SpoLiveのアプリ画面
SpoLiveのアプリ画面

 他には、チームの業務効率化をするためのソフトウェアを開発しており、チームの方々が独自にライブ配信を行ったり、スタッツを連携・管理したりすることで、ファンの方々が試合の詳しい情報を見られるようにもなっています。機能面ではまだ検証段階でリリースしていないものも多いのですが、ファンの方々により楽しくお使いいただいて、チームの方々にとっても、情報発信の手間の削減につながる効率的で実用的なサービスにしていければと考えています。

 また、あまり表には出していませんが、ルールや実況などのテキスト関連でAIによる自然言語処理を行っていました。さまざまな仮説検証の最中ですので、今後は本当に必要な部分のみを残していくことになる予定です。

——ファンの方はSpoLiveをどのように利用されていますか。

 今は試合情報の発信が中心ですが、最近は映像配信するチームも増えていますので、試合をはじめとした映像コンテンツを見るための1つの手段としてもご利用いただいています。また、相手チームのファンと応援数で競ったり、コメントをしたりと、ファン同士でのコミュニケーションも生まれています。チームや選手の方々がチャットに現れて、チームとファンのコミュニケーションを促すようなところでも一役買っているのではないでしょうか。SNSには試合に関わらずさまざまな情報が溢れていますが、SpoLiveには熱量が高く一体感のある場が生まれています。

——今はファンやチームに浸透させていくフェーズだとは思いますが、ビジネスモデルやマネタイズはどのように考えていますか。

 まだ仮説検証中ではありますが、チームの方々がしっかりコンテンツを発信できるようにして、そのコンテンツで収益化していただくことが大事だと考えています。それとあわせて、チームからの情報発信がさらに効率的になる機能も開発中ですので、いずれはチームの方々にも有償でサービス提供することも検討しています。

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新型コロナ(COVID-19)以前は競技場での価値検証を行っていた
練習場でのデータ取得検証
練習場でのデータ取得検証

——将来的にSpoLiveやスポーツの楽しみ方をこう進化させたいというビジョンはありますか。

 会社のビジョンとしては、やはりファンとアスリート・チームとの距離を縮めていくことです。オンラインでもより臨場感や一体感を味わえるようにしていく必要がある一方で、オフラインでの観戦や接触機会が無くなるわけではありませんので、トータルとしてより楽しめる環境づくりに携われればと考えています。

 それにはスポーツ業界におけるさまざまな負を解消していく必要があると考えています。その意味では、今はスマートフォンアプリやウェブサービスとして提供していますが、デバイスの種類や提供形態は関係ないと考えています。また、現在参入する計画はまだありませんが、必然的にeスポーツとスポーツの境界線はなくなっていくようにも感じていて、今はコントローラーでプレーしているeスポーツが、身体運動をともなう形で画面に反映されるとしたら、それは本当のスポーツになると思うんですよね。

 じゃあ、それを観戦する人たちはどんな場所で応援をするのか、どういう応援の形が一番適切なのか。そのときの時代背景や普及している技術をじっくり考えながら、ファンとチーム・アスリートとの距離を縮められるベストな手段を用意しなければいけないなと考えています。

——話題が変わりますが、岩田さんの活動の原動力、モチベーションはどこにあるのでしょう。

 先ほども言ったように、大学院までは新しい発見をしたくて宇宙や素粒子の研究をしていました。しかし、人類がその研究成果を生かすことができるのは相当先の話です。宇宙が何次元だとか言われても一般の人はきっとピンとこないだろうし、それを何に生かせるのって思いますよね。そういう基礎研究はもちろん重要なんですが、自分が生きてるうちに社会に貢献したいと感じて就職しました。その反動なのか、「社会に出るからには新しい価値を作りたい」という思いがずっとありました。

 あとは、元々の「知りたい」という好奇心の強さかなと。人間の歴史なんて宇宙レベルのスケールで見れば全然浅いわけで、人間ができることなんてすごく小さいと思うんですよね。そんな中でも「自然や世界を知りたい」という欲求が小さい頃からあって、本気で研究者を目指していたほどです。いまはそれが社会や人間に向いている。それらが今のモチベーションの根本にあるのだと思います。

CIC Tokyoにて(Photo by CIC Tokyo)
CIC Tokyoにて(Photo by CIC Tokyo)

——最後に大企業で起業するイントレプレナーに必要なことは何だと考えますか。

 まず、自分がやりたいことをやれるような環境にしていくためのロジックを、しっかり論理的に説明できること。そして、それをなるべく情熱的に、かつしつこく訴え続けること。ロジックとしつこさ、この2つはすごく大事だなと思っています。

——ありがとうございました。それでは、岩田さんが尊敬する他社のイントレプレナーをご紹介いただけますでしょうか。

 パーソルキャリアのeiicon companyで「AUBA(アウバ)」というオープンイノベーションプラットフォームを立ち上げられた中村亜由子さんです。社内起業の場合、社内を口説いて自分のやりたいことをやり始めるだけでもカロリーを使うものですが、AUBAは事業としてもすごく成長されていて、社内起業家としてとても尊敬しています。カンパニーの代表として活躍されながらも、生活面も上手く両立されていらっしゃるので、個人的に見習いたいと思っているイントレプレナーの方です。

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