logo

国の「出向起業制度」を使ってNTT Comから新会社立ち上げ--スポーツ観戦の未来を創るSpoLive岩田氏

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2021年03月22日 08時00分
  • 一覧
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 大企業のなかで新規事業の創出やイノベーションに挑む「社内起業家(イントレプレナー)」たち。彼らの多くに共通しているのは、社内だけでなく社外でもアクティブに活動し、社内の横のつながりや幅広い人脈、あるいは課題を見つける観察眼やその解決につなげられる柔軟な発想力を持っていることだ。

キャプション
SpoLive Interactive代表取締役の岩田裕平氏

 この連載では、そんな大企業内で活躍するイントレプレナーにインタビューするとともに、その人が尊敬する他社のイントレプレナーを紹介してもらい、リレー形式で話を聞いていく。第4回目は、スポーツ観戦プラットフォーム「SpoLive」を手がける岩田裕平氏。NTTコミュニケーションズからスピンアウトしてSpoLive Interactiveを立ち上げた同氏は、第3回のANAホールディングスの保理江裕己氏とは、経済産業省のイノベーター育成プログラム「始動NEXT INNOVATOR2017」の同期つながりだ。

スピード感を上げるために会社や国の制度を積極活用

——まずは自己紹介をお願いします。

 SpoLive Interactiveの岩田です。2013年にNTTコミュニケーションズに入社し、すぐに子会社のNTTレゾナントでNTTグループ向けのR&Dに配属されました。地域情報系の研究開発や「goo」というウェブサービスのブランド戦略をしたり、趣味が高じてエンターテインメント系の企画を担当したりしていました。その後2017年に経営企画部のデザイン部署へ異動し、UXデザイナーとしてインハウスのデザインコンサルなどをした後、新事業部署を兼務してオープンイノベーション戦略の立ち上げを経て、2020年からSpoLiveフルコミットになりました。

 一番はじめのR&Dでは、AppleやYahoo!、Googleは独自に地図基盤を持っていますが、われわれも似たような基盤を作っていて、地域情報系の基盤や、人流の可視化や予測に関する研究開発をしていました。大規模イベントにNTTが協賛していたこともあり、そこに来場した人の動きを可視化、予測するAIの開発などですね。

 大学院までは素粒子物理学を研究していて、入社当初は専門とはあまり関係ない業務かと思っていましたが、機械学習のアルゴリズムにおいては統計物理や量子物理と同じ数学も使うので、そういうところに知識を生かすこともできたように思います。

——趣味が高じたエンタメ系の企画というのが気になるのですが、具体的にはどういったものですか。

 サブカル系の音楽イベントとかライブイベントが大好きで、学生時代には年300回くらい行っていた時期があります。たまたまNTTレゾナントの中でそういう企画があるという話を聞いて、チームに混ぜてもらいました。そこでは某作品とコラボしたスマートフォンをリリースしましたね。

——趣味が仕事につながる好例ですね。その後は、NTTコミュニケーションズに戻られたんですよね。

 NTTレゾナントに3年半ほど在籍して、2017年からはNTTコミュニケーションズに戻り、デザイン部門に所属しました。もともと課題として感じていたのは、NTTグループは技術はたくさん作るし、論文もたくさん書いているけれど、「人を見ずに作っている」ように感じていたこと。そのために技術が目に見えるサービスとして世の中に出ていきにくくなっていると考えてました。

 僕が開発していた技術も世に出るまでに2~3年はかかっていましたし、今の時代、同業他社がどんどん新しいサービスを立ち上げていく中でこのスピード感じゃまずい、という危機感もありました。そこをよりリーンに、かつ人間中心に考えながら、人々が望んでいるものや望みそうなものを作るべきではないか。デザインシンキングのようなマインドセットを社内に根付かせて、そのプロセスに基づいてサービス開発すれば、より良いプロダクトをたくさん作れるんじゃないかと考えていました。

キャプション

 R&Dにいた頃からユーザーに根ざした技術を作るために、まずUXデザインの勉強を始めてUXデザイナーとしての活動を始めていました。その後デザイン組織では、お客様と共に新しい価値を作る共創プロジェクトのファシリテーションをしたり、インハウスのUXデザイナーとしてコンサルティングをしたり、デザインスプリントというごく短期間でサービスを改善していくプロセスを社内に導入したりということをやっていました。

——なるほど、当時の社内の状況に危機感を感じて、さまざまなアプローチで変えていったのですね。ちなみに、社外でも何かしらの活動をされていたのでしょうか。

 社会人1年目の時からやっていましたね。定時に退社しろと言われても、それでも何かやりたい熱量の高い人たちが集まって、会社の会議室を借りて放課後活動的に業務外でアプリ開発をしたり。そのときのメンバーで国内外のハッカソンに出たことも、個人的にスタートアップの立ち上げに関わったこともありました。

 デザインの考え方を学び、どうやって組織に浸透させていくか、ということも仕事以外の時間で以前から考えていました。NTTレゾナントにいた頃は東京工業大学の社会人大学院に通い、デザインやイノベーション、エンジニアリングなどを学んだり、Xデザイン学校というデザインスクールに通ってデザインの組織浸透に関する研究発表をしたり、ということもしていました。

——社会人になってからも“学び”続けていたのですね。そこから今のSpoLiveにはどのようにつながっていくのでしょう。

 入社当初から新事業をやるための職種に応募しており、それがNTTコミュニケーションズのUXデザイナーとして活動していくなかで、自分がオーナーシップを持って事業をやりたいと改めて感じていました。そんな時、久しぶりに再会した先輩に経済産業省のイノベーター育成プログラムである「始動NEXT INNOVATOR2017」が始まるという話を聞いて、締め切りギリギリに応募してなんとか採用していただけました。

 コエステの金子さんや、ANAの保理江さんと出会ったのもこのときです。「始動」で事業を作るために必要なものを学んだのは、自分にとっては大きなターニングポイントになったと思います。同時期に、NTTコミュニケーションズの社内コンテストに参加して、そこで優勝したのが、現在のSpoLiveの最初のコンセプトでした。

——現在NTTコミュニケーションズでは「Business Innovation Challenge(BI Challenge)」という形で、社内で生まれたアイデアの事業化をサポートする体制も整備されていますが、SpoLiveはどういう形で事業化を進めようとしていましたか。

 社内コンテストで優勝したタイミングは、ちょうどBI Challengeが立ち上がろうとしていた時期で、隣の部署だったこともあり課外活動的に立ち上げのサポートもしていました。SpoLiveをどうすべきかと考えていたときに、上司や身の回りの方々が「BI Challengeのなかでやればいい」と言ってくれたので、舗装されていないBI Challengeを整備するためにも実験的にやらせていただくことになりました。とはいえデザインの仕事もあったので、本業8割、SpoLiveは2割という感じで始めました。

——少しずつSpoLiveの業務比率を上げていったのでしょうか。

 2割と言いつつも、やっぱり2割は確保できないものです。本業の方で急に電話がかかってきたり、メール対応が必要になったりして、結局1割も時間が使えませんでした。SpoLiveに関わっていたメンバーは当時6人いて、全員が2割の時間を確保するのも難しかったですね。

 せいぜい週に1回、半日だけ集まれる程度で、これじゃ進まないなと感じていましたし、それでいて稼働を増やせるような制度設計はされていませんでした。BI Challengeが鳴り物入りで始まったとはいえ、実は人事を含めた運用上の制度設計がされておらず、粘り強い現場説明なしに現業を減らせる設計にはなっていないのです。つまりメンバー全員が100%新規事業にシフトできるわけではなく、社内的にクリアすべき課題はまだたくさん残っていました。

キャプション

——岩田さんは、その課題をどのようにして乗り越えていったのでしょう。

 BI Challengeに乗って活動する中で、ぶつかった課題に対してこうしていくべきではないか、こういう設計にした方がいいんじゃないか、というフィードバックをしてきました。従来の社内ルールでは、どうしてもスピード感を持って動くことができない形になっていましたので、自分自身がぶつかりながら、さまざまなルールを1つ1つひもときながら前に進めていきました。2019年からは本腰を入れられるようになりましたが、一方でBI Challengeの制度上の問題にコミットするよりも、事業にコミットしたいという気持ちは強まりつつありました。

 そしてさらに、SpoLiveをどのようにしていくべきかという部分に特に悩んでいました。従来からあるビジネスに組み込んだ場合はプロダクトマネジメントが難しくなることが見えていましたので、既存部署ではこんな課題がある、新しい部署や仮に子会社を作ってもこういう課題が出てくる、いっそ会社を辞めて新しい会社を立ち上げたとしても課題が出てくる、ということが見えていました。主に知的財産やガバナンス、スピード感の面でした。

——具体的にはどんな点で不都合があったのでしょうか。

 たとえばニュースリリースを出すときは必ずここまで報告しなければならないとか、こういう方々とは契約はできないとか、そういった決まりごとがたくさんあります。ただでさえメンバーが少ないのに、余計な作業が発生して本来かけるべきところにリソースをかけられないとなると、本来スピードこそが重要なボトムアップ型の取り組みにも関わらず本末転倒です。スピード感を担保するためにも、そういう足かせはなるべく取り払いという思いがありました。

 そんなときに経済産業省が実施している「出向起業等創出支援事業」を知り、その制度を利用させていただくことにしました。これは、大企業の中で新しいアイデアを持っている人たちが事業を立ち上げやすくするための仕組みです。いくつかの条件を満たせば、事業開発に関する補助金が与えられる制度です。

 すでにこの制度を利用されている近しい大企業の事例もあったのですが、これを利用するにもさまざまな課題はあり、本当に地道なコミュニケーションと役員の多大な協力もあって、何とかここまでくることができました。

——そして、ついにSpoLive Interactiveとしてスタートしたのですね。

 2020年10月20日に会社を立ち上げました。ただ、私はNTTコミュニケーションズからSpoLive Interactiveに出向している、という形になっており、そうしたつながりが残っているおかげで、ビジネス的にやりやすい部分もあります。

 ちなみに、会社を立ち上げる前の2020年1月末には一度会社を退職し、再雇用されていました。「アドバンスド・スペシャリスト制度」という人事制度を利用したためです。従来エンジニアなど市場価値の高い専門職向けの雇用体系ですが、これをビジネスデザイナー職として私が初めて利用し、雇用のされ方も変わっていました。そういったことも、こういうチャレンジがしやすくなった背景にありました。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]