東北大学災害科学国際研究所、東京大学地震研究所、富士通研究所は2月16日、理化学研究所と富士通で共同開発したスーパーコンピュータ「富岳」を活用し、沿岸域の津波浸水を高解像度かつリアルタイムに予測するAIモデルの構築に成功したと発表した。
3者によると、スーパーコンピュータ「富岳」の高速性を活用することで、3m単位の高解像度シミュレーションに基づき、2万件の想定津波シナリオに対する教師データを生成。さらに、同2万件のデータを学習することで、地震発生時に沖合で観測される津波波形情報から、陸域の浸水状況を3m単位の高解像度で予測できるAIモデルを構築したという。
また、構築したAIモデルに、地震発生時に沖合で観測される津波波形を入力することで、津波到達前に沿岸域の浸水状況を3m単位の高い空間解像度で予測。これにより、臨海都市域での建物や構造物、道路などの社会インフラの影響を取り入れた局所的な津波の高まりなど、区画ごとの詳細な浸水予測情報を把握可能となった。
さらに、AIモデルでは沖合で観測した津波波形から陸域の浸水状況を粗い解像度で概算するAIと、概算した浸水状況を高解像度化するAIの2段階構成を持つ、ディープラーニング技術を拡張した新たなAI技術を開発。「富岳」での学習向けに計算性能の最適化を施している。
通常、シミュレーションに適した計算機とAIに適した計算機は異なるが、今回シミュレーションとAIの双方に性能を発揮できる「富岳」の特徴を生かし、生成した教師データを「富岳」上でそのままAI学習に利用することで、高精度津波予測に向けたAIの構築効率を格段に高められたという。
なお、同技術を南海トラフ沿いで想定される巨大地震による東京湾内の津波浸水予測に適用したところ、内閣府が想定した津波波源モデルなど、多様な津波シナリオに対して、一般的なPCでも数秒で高精度な予測が可能であることを確認した。
東日本大震災では、巨大津波により甚大な被害が生じ、効率的な避難に向けた情報の取得や活用の観点で多くの課題が残っている。そのひとつである津波予測技術においては、適切な避難行動による被害軽減に向けて、より正確で詳細な予測情報を迅速に獲得する技術の開発が急務となっている。
そのため、東日本大震災以降、日本近海における津波観測網の増強が進められ、沖合でのリアルタイム津波観測データを活用した沿岸域における高精度な津波予測の技術開発が活発に進められているという。
しかし、これまでの津波予測では、事前にシミュレーションによって準備したデータベースの中から、観測と比較して地震や津波の発生状況が最も類似するデータを選択して沿岸の津波を予測する方式。さらには、沖合での津波観測と整合するように沿岸での津波予測を徐々に調整する手法が主に用いられていた。
いずれも浸水予測のためには、発災時に大規模なスーパーコンピュータを用いたシミュレーション計算やデータベース検索が必要となるため、予測システムの構築や運用が困難であるという課題があった。
そこで3者は、高度情報科学技術研究機構が公募する令和2年度「富岳」試行的利用課題で採択された研究課題「エクサスケールAIによる想定外のない津波予測」において、「富岳」の共用前評価環境を活用し、高解像度な津波浸水を瞬時に予測するAI技術を共同で開発した。
3者は、「富岳」の大規模性や高速性を今後さらに活用し、更なる多様な津波シナリオの学習を進めることで、想定外のない津波予測や、より広範囲の津波浸水予測に向けたAI構築が可能になるとしている。
また今後は、同技術の実用化に向け、AI技術の拡張や予測精度の評価を進め、国内外での津波防災対策に貢献していくという。
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