Voicy緒方氏が語る過熱する「音声SNS競争」の行く先--Clubhouse公開インタビュー

 日本でも1月下旬から大きな話題になっている音声SNS「Clubhouse」。コロナ禍で人と会えない“雑談ニーズ”にうまくハマり、招待制にも関わらず爆発的な勢いでユーザーを増やしている。

音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」
音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」

 この彗星の如く現れた音声メディアを、競合プレイヤーはどう捉えているのだろうか。音声メディア「Voicy」のCEOである緒方憲太郎氏に、Clubhouseの印象や、音声メディアの未来について聞いた。聞き手は、CNET Japan編集長の藤井涼。

 なお、このインタビューはClubhouse上で「公開取材」という形で1月30日に実施した。Clubhouseの規約に則り、事前に緒方氏には記事化の許諾を得ているほか、ルーム作成にあたっても公開取材であることを明記している。また、音声のみでは説明が足りない箇所について、本記事にて一部加筆している。

Voicy代表取締役 CEOの緒方憲太郎氏
Voicy代表取締役 CEOの緒方憲太郎氏

Clubhouseは「Instagram」や「Twitter」になれるのか

——緒方さん、かなりの頻度でClubhouseを使っていますよね。モデレーターやスピーカーでよく見かけます。

 そうですね、僕はとりあえず誰よりも使い勝手を覚えようと思って、ハックしている最中です。どうしたらフォロワー数が増えるだろうといろいろ試した結果、結構な数伸びましたね。

——すでに多くの芸能人なども利用していますが、このスピードで有名人が入ってくるサービスはこれまで中々ありませんでしたよね。

 YouTubeの波に乗り遅れて、次に何か新しいサービスが出てきたらいち早く使おうと思っていた人たちが多いですよね。こじるりさんとかDaiGoさんとか、みんなそこの早さはあったなって感じですよね。

——緒方さんはいつからClubhouseのユーザーですか。

 僕は昔1回使ったことはあったけれど、ちゃんと使い始めたのは1月中旬くらいですね。元々このサービスは、アメリカですごく話題になっていたので、やっときたなって感じですよね。

——使い始めた1月中旬と今日(取材日は1月30日)で、サービスの雰囲気はどれくらい変わりましたか。

 全然違いますね。とりあえず、人がめちゃめちゃうごめいている感と、「意味がわからないけどとりあえず聴いている」人の数がやばいですね。初めのころは、本当に閑散としていて、大体ベンチャー界隈のトップが話をして、そこに人が集まっている状況だったんです。そこから、インフルエンサーが入ってきた。彼らが一番強いんですよ。田村淳さんとか入ってくるとルームの参加人数も一気に増えていきました。

 そこから芸能人がどんどん増えてきて、ハックの仕方が分かってきた人たちが5000、1万とフォロワー数を増やしています。そして今は、「ここでフォロワーを集めることできっと意味があるはずだ」みたいな人が増えてきたという。今までのSNSの歴史をしっかり辿っている感じがありますね。

 今は芸能人の中でもアーリーアダプターな人たちが、「インターネットの新しいサービスには初めに乗っとけ」で入ってきています。もともと有名な人だと、何を喋ってもリスナーが聴きにくるので、インフルエンサー芸能人の人たちはずっと勝ち続けるモデルになっているかもしれないですね。

キャプション
Voicy緒方社長へのインタビューは、Clubhouse上で実施した(規約に則り緒方氏へは事前に記事化の承諾を取得済み)

——その状況が2月にはどうなっていると思いますか。

 その話、みんなしますよね(笑)。大体“沼”とか言われるぐらい、めちゃめちゃ使いまくる人がたくさん出てきて、もうすでに夜更かしの人もたくさんいると思うんですけど、これからは「こんなので時間を使ってはいけない」という世論も出てきたりして、バッシングもかなり増えてくるんだろうなと思います。

 でも、そうは言いながらもずっと使い続ける人もいて、1カ月後くらいのタイミングで、発信するとスピーカー(Clubhouseのルーム内で音声を発信できるメンバー)の人たちにインセンティブが残るかどうかが、結構勝負だと思うんですよね。根本的にはチャットサービスやチャットルームと変わらないのですが、日本のチャットルームを遥かに越えたところが良かったのだろうなって思います。

 しかし、どうなるのでしょうね。(一時的なブームで終わった)「Mastodon(マストドン)」になってしまうのか、それとも「Twitter」や「Instagram」みたいな存在になるのか。

——私も正直、1カ月後には使っているかわからないですね(笑)。

 藤井さんは使ってみてどの辺が面白いと思いましたか?

——やっぱり、ラジオのように聴けるのはとても気軽です。ただ、知り合いが話している、そこまで参加者の多くないroomに入ると、すぐスピーカーに呼ばれてしまうので、そこは少し面倒くさいなと。なので、よほど時間がある時以外は参加者が100人以上のroomに入るようにしています。ただ、そのあたりも、まだ使い方が定まっていない感じがして、ワクワクする部分でもありますね。

 そうそう、僕らレベルのアーリーアダプター大好きさんたちは、意味不明が楽しいじゃないですか(笑)。でも得られる情報って超少ないと思うんですよね、このサービス。

——そうですね。今回の公開取材みたいな形でわかりやすく何がテーマで、聴いてくれている人に何か残してあげられて、タイムテーブルではないですが、何時までに終わりますとか決まっていると、リスナーも「この30分はちゃんと聴いてて良かったな」と思ってもらえるかもしれないですね。

SNSの勝敗のカギは「太陽の作り方」

——2年ほど前に、緒方さんにロングインタビューをして、その時に私も音声の可能性をすごく感じました。あれから2年経って変わったこととか、今後の音声サービス競争についてはどう考えていますか。

 この2年でだいぶ変わりましたよね。当時はまだVoicyって、「一応話題にはなっているらしいですね」というレベルでしたよね。

——あの時も同じ質問をしたのですが、日本は欧米に比べてスマートスピーカーの普及率が低く、Podcast(ポッドキャスト)もそこまで聴いている人は多くないですよね。海外と比べて、音声サービスはこのまま来ないんじゃないかという話もしたと思います。そのような中、Clubhouseがここまで急速にヒットした要因ってなんでしょうか。

 Voicyを立ち上げたのが2016年なんですが、その時から「音声自体はあるな」って思っていました。データ量の軽さとしては、テキスト>音声>動画の順番になるのですが、操作性や生活への密着性でいうと、テキスト>動画>音声の順番だと思っていたんですよね。当時僕は、Voicyをメディア的なプラットフォーム、つまりアーカイブもできるYouTubeみたいなものにしていくのか、Twitterみたいなものにするのか、あるいはその両方か、すごく悩んでいました。

 このClubhouseは完全にTwitter型で、ロケット突き上げ型のサービスです。誰がベネフィットを得ているかわからないけれど、(招待制によって)使っていないとちょっと不安になって、一定量世界中の多くの人々がやっていると、いつの間にか“must have”になる。僕には設計できないなと思いましたね。僕は、逆にアーカイブして、ちゃんと意味のあるものを残していく方が好きだったので、ボイスメディアのVoicyを作りました。でも当時から、結構世界中でもいろんなところが音声サービスを作り込んでいるんです。

 音声SNSの一番のネックは、バイラル性でした。「音声コンテンツをわざわざ聴きたいと思うのか」「聴くような内容なのか」「聴くときのシーンはどうするのか」「面白いとどうやって思うのか」。つまり内容、出会い方、接点、その後の聴き方、それで聴いた人がどう反応して増えるのかっていうところが、1つずつ全部音声はめちゃくちゃ難しいんですよね。それ自体を解決できないサービスも多くありました。

 SNSって「北風と太陽」で説明すると、いかに太陽だけで作れるかが勝負だと思うのです。けれど、どこかで北風感が出てしまいがち。「なんとかしてシェアさせたい」とかがやっぱりあって、そうなってしまうものはうまく進んでいない印象ですね。

——Clubhouseの「招待制」についてはどう思いましたか。

 そんなに新しくはないですよね。Facebookもmixiも招待制だったじゃないですか。ただ、招待数に限度があるっていうのは、結構久々かなという感じはあります。

 やはり、喋りってポロリが出やすいと思うんです。「口は滑る」っていうぐらいだし。筆だと滑ることはそこまでないですけど、音声ならポロリが出る。人と人が集まればなんか面白いものが出るってところがこのコミュニケーションの肝でしょうね。これに、ユーザー、リスナー側が気づけば、絶対来るって思ったのでしょう。

 そこを招待制で限定的に参加させたことで、なんとか聴かなきゃって思わせた。その喋りの根源のところをうまく設計に生かしたなって思います。このうまさはちょっと正直びっくりしましたね。ちなみにVoicyでは、配信する人は審査制で採用しています。大体今100人が申し込んできて、1人か2人が通るって感じで結構厳しめにやらせてもらっています。

——かなり狭き門ですね。

 リスナーさんがVoicyに来れば面白い話ばかりっていう状況にしようと思ってやっています。人の話って結構面白くないことが多いって思うんです。チャットルームで誰かれ構わず喋ってきたような人の話が面白いことって、まずないんですよ。

 でも、インフルエンサーとかみんなが知ってる人たちのコミュニケーションであれば、「ちょっとこの人知ってる」「この人も知ってる」っていう掛け算が起きると聴きたくなるというのには、ちょっとびっくりしましたね。

——確かにそうですね。今日だけでも相当聞きたい組み合わせありますもんね。

 しかも、世界中が同じ設計で同じように行動をするっていうのもすごいし、初めから世界中で使えるようにUIにも読みやすい英語しかなくて、多くがアイコンのみになっています。たとえば、手を挙げるとかも、全部説明がなくて、ビジュアルだけで世界中使えるようにしてるのが悔しいですね。

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